第14話 エロ動画で稼げ!

 どうなっているんだ、このマンション。

 どうして二人がいるんだよ。意味が分からん。


「なぜ伊勢崎店長がここに……? コンビニは?」

「昨日で退職たいしょくしたよ」

「なんですと……」

「言うタイミングがなかったというか、忘れてたというか」


 てへっと笑う伊勢崎さん。なんだそりゃ! てか、それでも確かキャバ嬢もやっていたはず。そっちはいいのかよと思った。


「夜の仕事は?」

「それは不定期の出稼でかせぎだからね~」


 と手をヒラヒラさせながらも部屋の中へ行ってしまった。ますます分からん。

 織田も「ム~」と困った様子。いや、それ俺がする反応なんだが!


「おい、織田。お前、動画投稿の仕事していたのか」

「ソウダヨ。チョット、エッチ……ダケドネ」


「え……?」



 あー、いや。ヨーチューブに微エロの動画も転がっているというか、むしろそういうコンテンツはありふれている。

 露出の多い女性が散歩したり、料理したり、ピアノ弾いたりなど……。

 なるほど、そういうジャンルというわけかね。



「トニカク、ハイレ」

「分かったよ」



 まさかの顔なじみがそこにいて妙な感じだが、しかし金を稼ぐためだ。この際、知人であることは置いておいて……業務内容だ。

 いったい、どんな撮影をしているのだろうか。そして、どんな有名人が仕切っているのか。この先に行けば分かるだろう。


 通路を歩き、編集部屋に案内された。

 パソコンやらカメラなどの機材、ケーブルのたばすごいことになっている。な、なんだこりゃ……!



「ココ、編集部屋ネ」

「本格すぎる機材だな。プロじゃないか」

「マァネ!」



 いったい、どんな動画を撮っているんだか。気になって俺は本題に移した。


「業務内容を教えてくれ――いや、ください」

「キョウ、普通デイイヨ!」


「そ、そう? じゃあ、改めて教えてくれい」

「コッチ来テ」



 別の部屋へ案内された。その部屋には伊勢崎さんがソファに腰掛けていた。落ち着きのない表情で。



「来たね、キョウくん」

「あ、あの……伊勢崎さん。俺はどうすればいいんです?」

「うーん、採用!」


「――は?」



 突然『採用!』とか言われて、俺は混乱こんらんした。てか、まだ面接すらしていないんだが!? 即決そっけつすぎんだろう。いったい、ここの人事はどうなっているんだよ。


「だから採用だってば」

履歴書りれきしょすら提出していないんですが……」


「そんなのいらないよ~。キョウくんが真面目まじめなの知っているし」



 そう評価してくれるのは嬉しいが、伊勢崎さんと一緒になったのはたったの二回だけだ。しかもコンビニのバイトでだぞ。

 ここはヨーチューブの動画投稿だから……それはまた別の話な気がするが。



「いいんですか? やる気はありますけど」

「ならいいじゃん。それにね、君みたいな若い男子が必要だったんだよね」


「若い男子なら織田もいるじゃないですか」



 コイツの方がアメリカ人でイケメンだし、なんならトップヨーチューバーを簡単かんたんねらえるのではないだろうか。



「なに言ってんのさ」



 伊勢崎さんは目を丸くして言った。なんでそんな反応? 俺、なにか間違ったこと言ったっけ。



「いや、だって織田はカッコいいじゃないですか。ああ、分かりました。彼がインフルエンサーなんですね?」


「キョウくん、勘違かんちがいしているね」


「え?」


「織田っちは女の子で、私の手伝いをしてくれているんだよね」



 …………?


 伊勢崎さんは何を言っとるんだ。織田のどこが女の子なんだ。どこをどう見ても男なんだが――え、違うのか。



「織田、お前……まさか」

「ヒドイヨ~、キョウ。ワタシ、女ネ」


「マジかよ」

「マジマジ」



 なにいいいいいいいいい……知らなかったぞ! 関わって三か月ほどだけど、知らなかったぞ! じゃあ俺は三か月ほど女の子と一緒に屋根の下暮らしていたというのか! しかも、アメリカ人の!



「……お前な、先に言えよ!?」

「ソーリー、ソーリー」


 それであやまっているつもりなのだろうか。まあいいや……。

 ということは女性二人で仕事をしているということになるのか。あ、いや……もう一人いるはずだ。この二人を従えている上司(インフルエンサー)が。



「で、一番えらい人は?」



 そう聞くと、伊勢崎さんと織田は互いに指差した。どっちだよ!



「織田っち」

「ノゾミ」



 もしかして『ノゾミ』って、伊勢崎さんの名前か。そんな可愛らしい名前だったんだ。


「えっと……。じゃあ、伊勢崎さんでいいです。俺はどんな仕事をすればいいんです? めちゃくちゃ稼ぎたいんでお願いします」


「そうか、キョウくんはお金を稼ぎたいんだね」

「ええ。その為に来ましたし、仕事も熱量をもって取り組みたいです」


 そう伝えると伊勢崎さんは「素晴らしい」と言って、いきなりぎ始めた。



「……んな!? どうして下着姿に!?」

「面接だよ」


「なんの!?」


「体の相性を確かめなきゃね」


 そう言って赤い顔しながらも、伊勢崎さんは俺に抱きついてきた。柔らかい肌の感触が服越しから伝わってきた――。


 やっべ……!


 大人の魅力みりょくすごすぎて、一瞬で“憤怒の息子デザートイーグル”だぜ。



「って、織田がいるんですが!」

「彼女は気にしないよ。むしろ性にオープンっていうか。まあ、そういう動画を撮りまくっているし」


「え、え、ええッ!?」



 俺に抱き着きながらも、伊勢崎さんは耳元で仕事内容を教えてくれた。



「つまりね、ウチはエロ動画とか配信で稼いでいるのさ」

「ナンダッテ?」


「ちょうど男を探していたところでね。AV撮ろうと思っていたんだ」

「…………えーぶい?」



 ――って、アレだよな。男と女がプロレスしちゃうヤツだよな。決してアニマルなビデオじゃないよな。

 マジでそういう動画なのかよ!


 どうやらヨーチューブでは微エロの投稿もしているらしいが、そっちが本業ではなく……『海外エロ動画サイトBoinhub』が本拠地ほんきょちらしい。


 AVを撮影して一儲けしようと考えていたとか。で、俺が適正てきせいってわけらしい。


 つまり、このまま仕事をすることになると――ギャルの伊勢崎さんと……ボーイッシュで美人の織田とヤることになる。撮影込みで。


 それで稼ぐってことかよ!

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