第13話 稼ぎまくって立ちんぼへ!!

 有名求人アプリ『インデート』をなんとなく見ていると、気になる仕事が目に入った。



 アルバイト・パート

 ◆動画編集 

 急募☆月収30万円以上!

 土日休みOK!! 休憩自由

 動画投稿のための編集作業です!

 ハイスペPC支給


 交通費支給/即日勤務可


 ◆ラクラク応募



 アルバイト・パートでこれはスゴい好条件こうじょうけんだな。恐らく動画投稿サイト『ヨーチューブ』のヨーチューバーってところか。儲かっている投稿者だろう。


 動画編集なら俺はできる。

 普段、趣味でショート動画を投稿している程度には対応できる。スマホだけど。

 けど、パソコンもそれなりにれる。たぶん、なんとかなる……はずだ。


 一か八か応募してみようかな。

 闇バイトなんかより、よっぽど健全けんぜんだ。上手くいけば独立して投稿者になる手もあるだろうか。



 ええい、ここは“ノリ”でいくか。

 アプリ内にある【ラクラク応募】ボタンを押した。

 予めプロフィールだとか履歴書を入力済みなので、これで対応可能らしい。便利だな

 あとは先方からの連絡を待つのみ。ドキドキだな。


 その間、スキマバイトで稼ぐことにした。


 返信が来るまではひたすらバイトあるのみ!



 昨日応募したコンビニ店も行ってみた。幸い、徒歩で五分の距離で直ぐに到着。

 伊勢崎いせざきさんがむかえてくれた。体調のすぐれなさそうな表情で。……こ、これは機嫌悪いのか?


「今日もよろしくお願いします、店長」

「昨日ぶりだね、キョウくん。……うぅ」

風邪かぜ、です?」


 そう聞くと伊勢崎さんは頭を押さえていた。この動作、まさか……。


「飲みすぎちゃってね。飲むつもりはなかったのだけど、つい」

「そうでしたか。――あ、そうでした。昨晩は助けていただき、ありがとうございました」


「ん? あぁ、あの暴漢ぼうかんのことか。いいのさ、君の彼女こまっていたみたいだからね」



 どうやら、伊勢崎さんにはそう映ったらしい。もしかして、あの“立ちんぼ”の場所のこと知らないのかな。

 このまま勘違かんちがいしてもらっている方が俺的には嬉しいのだが、ウソはつけない。



「違いますよ。倉片さんは高校時代の友達です」

「ほぉん? 冗談でしょ? あんなイチャイチャしていたクセに?」



 え……まさか結構前から俺と倉片さんのこと見ていたのかな。見られていた!? ……うわ、なんかはずずかしくなってきた。



「そ、それは! ともかく、友達なんです」

「ふーん。てか、あの場所ってやたら若い子が立っていたよね。あー。アレか。流行はやりの“立ちんぼ”ってヤツ?」



 うぅ、気づかれてしまったか。てか、コンビニのレジでなんちゅー話をしとるんだ、俺たち。一応、客もいるのだが――幸い、まだ陳列棚ちんれつだな吟味ぎんみしている最中さいちゅう。会話は聞かれていないはずだ。



「そんなんじゃありませんよぉ……」

「声がうわずっていないかい、キョウくん」



 疑いの眼差まなざしを向けられる俺。正解なだけに困ったな。

 マジで困ったのでだまっているしかなかった。そうだ、黙秘権もくひけんがある。無理に答える必要なんてないな。


 と、少々強引にシャットアウトしてみたが――レジにお客様が来たので必然的に会話は終了することになった。



 ◆



 スキマバイトが終わるとインデートからメッセージが届いていた。

 お、あの動画編集の求人から返答があった。


『簡単な面接をします。ぜひ、ウチへ来てください。』


 マジか!

 善は急げだ!!


 月収30万円以上の為に!

 いや、倉片さんの為に!



 一度、自宅へ戻った。伊勢崎さんのコンビニから徒歩で十五分の場所。そこに至って普通のアパートがある。そこの二階が俺の――いや、正確に言えば居候いそうろうしている部屋がある。


 都内のアパートを借りるなんて、さすがに難易度が高すぎる。家賃も死ぬほど高い。だが、ラッキーなことに大学生になってから出会った『織田おだ』という好青年が住んでいいと言ってくれた。ので、俺はお言葉に甘えることにした。


 驚きなのは織田がほとんど部屋にいないことだ。なので実質ひとり暮らしになってしまっていた。


 帰宅して扉を開けると、そこには珍しく織田がいた。



「オカエリ~、キョウ」



 カタコトの言葉で挨拶をする織田。彼は生粋きっすいのアメリカ人だった。目立つ金髪、白い肌。男の俺から見てもイケメンすぎる。正直、一緒に歩きたくはないのだが――彼のおかげで今までおこぼれ・・・・を貰えているので、Win-Winの関係だ。



「どうした、珍しいな」

「ウン。大学アキタ! キョウとアソブヨ~」

「それなんだが、すまん。これからバイトの面接でね」


「ソウナノカー! モウ、就職カ?」

「かもしれんな。俺は今ようやく人生の意義いぎを見出したところなんだ。織田、すまんが場合によっては部屋を出ていく」


「ワタシモ、ツイテイクヨ~」


「マジか。分かった、出ていくのはやめたよ。世話になっているし、恩返おんがえしもしたいし」


「イイヨ、イイヨ。キニスンナ!」



 と、織田は笑顔で答えてくれた。そして「時間ダ」とあせって部屋から出ていく。いったい、普段なにをやっているんだか。大学飽きたとか言っていたし、女子あさりから足を洗ったのだろうか。


 まあいいや。

 気にせず、俺はボロっちいスーツに着替えてまともな格好かっこうにチェンジ。それから指定の住所へ向かった。



 アパートからは徒歩でいけた。

 毎度ながら近い場所で助かったぜ。



 そこに到着して俺は眩暈めまいを覚えた。……なんだこの高級マンション。芸能人とかが住むようなところだな、こりゃ。

 さすがヨーチューバー。むちゃくちゃもうかっているんだろうな~。


 何度もやり取りをしてセキュリティを突破。

 エレベーターに乗って十階を目指す。扉が開いて馬鹿みたいに広い通路を歩く。なんだよこの異空間いくうかん。ここだけ外の世界と違いすぎるぞ。


 該当がいとうの部屋番号まで向かい、扉の前に到着。インターホンを押すと直ぐに反応があり、どこかで聞いたような女性の声が「どうぞ」と言った。


 …………スゥ。


 今の聞き違いじゃないよな。



 扉を開けると――「ん!?」と俺の顔を見て衝撃を受ける伊勢崎さん。「え……」と俺は間抜まぬけにも口を開ける。


 なぜ、伊勢崎さんがこのマンションに?



「キョウくん、なんで!? ――って、まさか」

「は、はい。俺、応募してきたんですけど」


「…………うそぉ」



 互いに立ち尽くし、この意味不明な状況に頭が真っ白になっていた。

 スキマバイトで知り合ったコンビニ店長がなぜ、ここに? え? なんで? どうして?


 しかも、更に意外な人物が現れて、俺はついにこしを抜かした。



「シンジンサン、イラッサーイ! ――ッテ、キョウ!?」



 織田、お前もかあああ!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る