第10話 立ちんぼの聖地で起きた事件
労働中は、倉片さんのことばかりを考えていた。
時間は経ち、俺はまだ
接客はできれば避けたかった。しかし、たったの一時間労働にも関わらず、やたら報酬が良かったので入れてしまった。
向かうとすぐに若い女性店長が現れた。
歳は
「キョウくんだね、よろしく」
「よろしくお願いします」
「コンビニ経験あるんだね?」
「ほんの少しですが」
そう、俺は高校時代に“三十分だけ”コンビニのアルバイトをしていたことがあった。しかし、あまりに接客が向いておらずバックレたわけだが。
あの時の
果たして業務をこなせるのか未知数すぎるが、金の為にがんばるしかない。
一時間で『5,000円』は上手すぎるだろう。
現在、店長しかおらず猫の手も借りたい状況だったらしい。なるほどね。
「じゃあ、さっそくレジを頼むよ」
「分かりました」
「うむ」
コンビニといったら接客しかない。
しかも、都内だからやたら人の出入りが激しい。こんな陰キャぼっちの俺でも対応できるかどうか……。
ええい、ここは心を無にして働くしかないッ。
倉片さんの為に!!
半分ヤケクソになった俺は、さっそく接客をはじめた。手と声がブルブル震えて、明らかにヤバイ人になっていた。
「……い、いらしゃませ?!」
「チキンください……」
お客さんであるサラリーマンは引きまくっていた。……うあああぁぁ、俺ってば! クソぉ! プライベートで相手が女の子なら、少しはマシに会話できるし、動けるんだけどなぁ。
やっぱり、労働の接客はキツいぜぇ……。
こうなったら、ここは“立ちんぼ”と思うしかない。相手も美少女に変換して対応すればいい。ああ、そうすることにしたッ!
すると不思議なくらいに対応できるようになった。
なんとか地獄の一時間を終えた俺……。死んだ。
「…………うぅ」
「大丈夫かい、キョウくん」
女性店長である
そこにはきちんと『5,000円』の数字が。
こりゃ美味すぎるな!
「ありがとうございます、店長」
「君、本当は接客業苦手でしょ」
「……分かりましたか」
「まあね。キョウくん、犯罪者みたいな動きしていたし」
ですよねえ……。自分でもどうかと思った。でも、バックレることなく最後まで働ききったことは自分の事ながら、よくやったと
「では俺は行きます」
「また機会があったらよろしく」
ギャル店長・伊勢崎さんと別れた。
あのコンビニの募集があったら、またやってみようかな。高報酬は
◆
日が落ちた頃、スマホには
【今日どうする~?】
三日連続で労働と夜の
倉片さんの気が変われば連絡すらも取れなくなる日も来るかもしれない。
人生、
それに、亡くなった
思えばなんつージジイだったんだと、大人になった今なら理解できた。
なので俺は、ぶっ倒れる覚悟で『いつもの場所で会おう』と返答した。
疲労がヤバすぎて死にそうだけど、でも、それでも倉片さんに会いたかった。あの胸の中で
立ちんぼの聖地へ向かうと、今日も多くの女の子が並んでいた。
そんな中、倉片さんを発見――って。
「君ぃ、可愛いねぇ! 俺とホテル行こうぜ」
俺よりも先にチャラい男が倉片さんに
「や、やめてください。わたし、立ちんぼしてるわけじゃないんです!」
「え~? ここにいるってことは……そういうことだよね」
倉片さんは
集合場所を別の場所にしておくべきだったか。
このままにもしておけないし、助ける。
「おい、倉片さんを離せよ」
「んぁ? なんだオメー」
ギロっと
「彼女は俺のだ。手を放してもらおうか」
「んだとぉ! 横取りすんじゃねぇよ」
ブンッと
運よく
「キョウくん!」
「大丈夫だ。奇跡的に
心配してくれる倉片さん。今すぐ助けてやるからな!
「今のはたまたまだろうが。これで
右ストレートを
受けるつもりで
(う、うあああああああああぁぁぁ……!)
ボコッ……っと、
「このヘナチョコパンチが!!」
思わず俺はそう
「うぎゃあああああああああ……」
「「え?」」
俺も倉片さんも
「……
よく見ると、いつの間にが超美人のギャルが
ん……まて。
どこかで見覚えある顔だぞ。
「
「ん、キョウくん!?」
てか、ここに立っているってことは……まさか。
「あの……店長って立ちんぼもしているんですか」
「は……はぁ!? ちゃうわ! あ、あたしは……キャバ嬢もやってんだよ」
なにィ!?
キャバ嬢だって? マジかよ。どっちが副業なんだか分らんが、こんなことってあるんだな。おかげで助かったけど。
「ありがとうございました」
伊勢崎さんに礼を言うと「そんなのいいよ」と笑い飛ばしていた。台風のように去って人混みに消えていく。……アッサリしてるなぁ。
「よかったぁ、キョウくん!」
泣いて抱き着いてくる倉片さん。
けど、俺も倉片さんが無事でホッとした。
これで安心してラブホへ行けるな。
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