第8話 体の相性抜群だって気づいた夜

「キョウくんの……痛そう」


 偉大なる息子コルトパイソン超越ちょうえつし、怪物となった姿は“憤怒の息子デザートイーグル”だ。

 我が化身けしんを倉片さんは丁寧ていねい隅々すみずみまでいやしを与えてくれた。


 十分に恩恵おんけいを受け、身も心もすっかり元気になった。

 時間が惜しいので今度は俺の番。


 シャワーのレバーをひねり、その状態のまま彼女の細い体を洗う。



「全部洗うからな」

「ちょ……う、うん」



 倉片さんは恥ずかしいのか、くすぐったいのか身をよじらせていた。

 気にせず俺はうでや足、お腹のあたりに触れていく。この世とは思えないやわらかい感触。マシュマロの限界を超えているぞ、これは。

 どうしたら、こんなに柔らかくなれるのだか。


 可能な限り全てを洗いつくし、俺は満足した。


「ふぅ」

「…………ぜ、全部見られちゃった」


 今さらなにを。

 昨晩でもうほとんどを見つくした。倉片さんの背中の僧帽筋そうぼうきんにホクロがひとつあったのを確認したし、お尻が安産型あんざんがたなのも知った。

 もう隠す秘密がないのでは。


「責任取ろうか?」

「……ちょ、それって結婚してくれるってことぉ!?」


 声を高くして倉片さんは驚く。

 プロポーズのつもりはなかったのだが、間接的にそうなってしまったな。だけど、俺はアリだな。正式に付き合って将来を共にするのも楽しそうだな。なによりも、体の相性が抜群ばつぐんだということに気づいた。


 モデルような体型だとか巨乳だとか俺のタイプに当てはまっているし、締まるところ締まっているし、別のところも締まって最高だからなぁ。正直、名器なんだよな。


 そういうエロいことをのぞいても、話が合うし。優しいし、やされる。


 これほど理想な女性ひとは、他にはいないんじゃないかって思う。



「倉片さんがいいのなら」

「う、うーん……考えておくね」



 少々歯切はぎれが悪いものの――考えてくれるんだ。マジかよ……!

 もしかして押せば意外と付き合ってくれるのかな? そんなあわい期待が奥底の深淵しんえんから見え始めていた。


 ――いやだが待てよ、俺。

 ――そこで留まっておけ。一歩も動くなよ?


 俺はふと、ニーチェの『深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ』という言葉が雨のように降ってきた。

 ここで調子に乗ってはいけない。

 今、この関係をぶち壊したくない。

 俺はまだ倉片さんとヤりたいし、人生を楽しみたい。


 ふとしたことがキッカケで関係がこじれるってこともあるからな。事は慎重に。


 ありがとう、ニーチェ先生。おかげで選択肢を誤らないで済みそうだ。



 告白という魔法の言葉を飲み込み、今は自制じせいした。付き合うのはまだ先だ。今は突き合う方が先だ。――あ、いや、突くのは俺の方だけど。


 今はただ欲望に身をゆだねていく。



 風呂から出て広々ひろびろとしたベッドへ向かう。

 倉片さんを先に上がらせ、ひざをつかせた。女の子が非常によろこぶという最強の体位と名高いロールスロイスからはじめよう。


 時間の許す限り、何度も何度も倉片さんを愛した。



 一時間後。

 ベッドにはヘトヘトになって動かなくなった倉片さんの姿があった。全裸のまま倒れていた。今日はずっとイヤらしい声を出していた。何度、イったんだろうか。

 男の俺には分からないが、このダウンした光景を見る限りでは満足いただけたようだ。

 時折、びくびくと痙攣けいれんしているから、今日はパーフェクトに近い結果を残せたと思う。

 そんな俺も過去最高にたされていた。


 やはり、倉片さんと相性抜群のようだ。体の相性って重要だなと改めて感じた夜だった。

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