第7話 労働後のラブホ

 元クラスメイトから頭を優しくでられた。

 身長差があるからかかとを上げて、ぷるぷるふるえて可愛い。


 真っ直ぐにめられ、ねぎらいの言葉を掛けられ嬉しくなった。

 正直、疲労困憊ひろうこんぱいで今にも直立不動でぶっ倒れそうだが、倉片さんの可愛い表情や仕草しぐさ、高級感ただよう香水の良い匂いで身も心も超回復した。今だけは自然回復速度が100%だ。



「ありがとう。それで、さっそくなんだけど……」

「もうホテル行っちゃう?」

「あ、ああ。重労働で蓄積ちくせきした汗を流したい」



 仕方ないなぁと楽しそうに俺の右手をにぎる倉片さん。恋人みたいに手をつなぎ、夜の街を歩く。

 決まった以上は、なるべく早くここを立ち去った方がいいな。治安ちあんが良いとは言えないし、横取りだ! と謎抗議なぞこうぎしてくる嫉妬しっと野郎もたまに現れるからな。


 それを証拠しょうこに、たかのようにするどい視線が俺に向けられていた。

 やけに居心地いごこちが悪いと思ったら、倉片さんをひろえなかった負け組(男)の眼差しだった。――そもそも、俺は“専属契約”なので最初から勝利しているのだが。


 そんな優越感ゆうえつかんひたりながらも、昨晩とは別の都内にしては格安のラブホテルを目指す。



「到着したね。今日も一泊する~?」

「非常にくやしいが、今日は“休憩きゅうけいのみ”だな」



 ラブホの利用には『休憩』か『一泊』で料金が大きく変わる。昨晩は倉片さんとの初日、記念だったから俺はめ込んでいた貯金をくずした。だから昨日は一泊くらいなら、なんとかなった。


 なので昨日は倉片さんに一万円を。ホテル代でも一万円掛かっていた。合計二万円という学生の身分では高すぎる大金を支払っていた。


 だが後悔こうかいは一切ない。


 ゲームだとかパチンコだとか、そういう趣味しゅみが俺にはなかった。その代わり、性欲だけは人一倍強かった。強かったが、中学も高校時代も彼女ができなかった。誰かと付き合うこともなく青春を終えてしまった悲しき魔法使い(童帝ドウテイ)になりかけていた。



 だから、俺は高校三年生からバイトを始め、必死に金を溜めていた。


 きたる時に備えて。



 その日はついにやってきた。



 立ちんぼブームが到来とうらいし、可愛い女の子をねらえるようになった。当然、お店も考えたが――俺はプロよりも素人がよかった。可能な限り。

 果たして神待ちの彼女たちを素人と定義ていぎしていいのか分からんが、それでも俺は流行はやりに乗っかった。


 あれから一か月。

 まさかこうして元クラスメイトの倉片さんと出会うことになろうとは、当時は思いもしなかった。今はスキマバイトで気軽にお金を作れるし、こうして毎晩会えることになろうとは。



 ラブホの受け付けを済ませ、部屋へ向かった。

 到着早々、倉片さんは忠告ちゅうこくするようにこんなことを言った。


「今日こそ優しくしてよね、キョウくん。昨日のえっちはげしすぎてヤバかったんだから……」


 思い出したのか赤面する倉片さんは背を向けた。耳まで赤いぞっ……と。

 という俺もちょっと思い出して下半身が一瞬でフルパワーを発揮はっきしそうになった。……まてまて、まだ早いぞ俺よ。


「す、すまん。でもかったよ」


 誠心誠意せいしんせんい、心を込めてあやまると、倉片さんはベッドまで向かって脱ぎ始めた。


「さ、さっさとお風呂行きましょ」


 下着姿になっていた。昨日よりも積極的だな。

 もうれたのだろうか。


 ――そうでもなかった。


 手足がみょうに震えているし、緊張きんちょうしているようだ。俺も人のことは言えないけど。

 何度見ても倉片さんの体は美しい。傷一つないはだがアンドロメダ銀河のように神秘的でまぶしい、肌艶はだつやが素晴らしい。モデルになれるのにな。


 俺も服をて全裸になっていく。


 そして、ついに風呂へ。

 シャワーを浴びて早々、倉片さんはこしを下ろして俺の下腹部かふくぶ付近に顔を近づけた。早くも至福しふくの時がはじまった――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る