第6話 今晩も立ちんぼ

 死に物狂いでスキバイトをしまくる俺。いつもの倍の俺的強制労働をして丸一日。

 汗水垂らしまくって、ようやく大金を入手。

 アプリに表示されている天文学的数字――とはいかないが、過去最高記録の金額に滝の涙が出そうになった。最近、涙腺るいせんが弱くなったかもな。



 合計報酬額:13,000円



 様々な求人に応募した結果、8時間労働(休憩あり)をしてしまった。もはや、普通にアルバイトした方が早いレベルまであるが、やはり気楽に応募できるメリットは大きい。それに、いろんな職種を経験できるから俺は楽しいと感じた。

 そして、なによりも即金そっきんなので、すぐに現金として使用可能な点も大きい。


 時刻は19時。牛丼屋で食事後、俺は疲労でそのままダウンしていた。少し、無茶をしすぎたかもしれない。体のところどころが痛いぜ……。


 だが、これで今夜も倉片さんと会えるかもしれない。

 向こうからの連絡はない。

 俺からする余裕はなかった。

 今からでも聞いてみようか?


 スマホの指が上手く進まない。気が進まないワケではないが、なぜか躊躇ためらってしまった。それでも、俺の体はいやしを求めている。


 倉片さん以外の女の子に交渉こうしょうしてみるか?


 ――ありえない。


 それは彼女を裏切る行為に等しい。無理だ、それは言うなれば浮気うわきだ。


 邪念じゃねんを振り払い、俺は食事の清算を済ませて夜の街へ繰り出す――。



 例の“立ちんぼ”がいる裏道へ向かう。

 SNS界隈かいわいで度々取り上げられ、有名になった場所の――付近。もともとの場所はニュースにまでなってしまい、警察もきびしい目を向けていた。


 だから今は少し離れた場所が“立ちんぼ”の聖地メッカとなっていた。

 そんな特ダネ情報は某掲示板を見れば簡単に得られた。


 街灯が少ないあやしげな道を進む。

 道路のすみには若い女の子が等間隔とうかんかくで立っている。そんな律儀りちぎに空間を開けなくとも――いや、そうしたくもなるよな。


 すでに俺と同じ暇そうな大学生やサラリーマンが交渉こうしょうしていた。値段や時間、どんなプレイをするのかなどなど……様々さまざまなやりとりがなされている最中さいちゅうなのだろうな。



「倉片さんいるかな……」



 ついに声に出してしまった。ハッとなって口を手で押えた。こんなところで本名を言ってはならんな。個人情報保護法違反になってしまう。


 いるかどうか分らんが、倉片さんを探す。


 女の子を吟味ぎんみしていく。

 ほぼほぼマスクをしていて容姿ようしが分からん。全員違うな。

 昨日の倉片さんはマスクしていなかったし、顔が丸見えだった。


 そうか、今日はいないか。


 せっかく仕事をがんばったのになぁ……と、落ち込んでいると背中を軽く叩かれた。振り向くとそこには。



「やっほ。キョウくん。探したよ」



 今日はマスクをする倉片さんの姿があった。……おぉ、地雷系の服装でめちゃくちゃ可愛いな。じゃなくて、いたー! やっぱり、ここにいたか!



「よかった。連絡しようと思ったんだけどね」

「なんで~? 普通にしてくれればいいのに。さっき何度も電話したよ」



 スマホをのぞくと着信履歴がいくつも残っていた。しまった、立ち並ぶ女の子たちを観察かんさつしていて気づかなかった。あの時は将棋しょうぎのプロのように集中していたからな。



「ごめん……」

「謝らなくていいよ。それより、どうする?」

今晩こんばんも頼む」

「バイトがんばったんだね。お疲れ様」

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