第5話 スキマバイトで稼いで再び立ちんぼへ

 だるい体を起こす。

 自分が今、ラブホテルにいることを思い出した。

 時刻は朝七時。清々すがすがしい朝を迎えてしまっていた。


 そうだ。昨晩さくばんは立ちんぼで元クラスメイトの倉片さんをひろったのだった。一万円というとんでもない破格で一夜を共にしたのだ。一生分の運を使い果たしてしまったかもしれん。


 部屋を見渡みわたすと倉片さんの姿はなかった。もう先に帰ってしまったのだろうか。


 と、思ったが姿を出した。荷物をまとめていたのかトートバッグを肩にかけていた。



「おはよう」

「あ~、キョウくんやっと起きた。おはよ~」



 太陽よりもまぶしい笑顔がそこにあった。こんな心温まる表情を朝からおがめるとは最高だな。

 手足をばし、俺はベッドから降りた。



「帰るのかい?」

「うん。さすがにいったん家に戻らないと親がうるさいから。一応、女友達の家で一泊したって話にしてあるからね」


 上手く誤魔化ごまかしているわけか。

 これで解散かぁ……しばらくはさびしくなるな。


 また次回も会えるといいのだが。そんないのるようにして思考をめぐらせていると、倉片さんは俺の前にトコトコとけ寄ってきた。まるで子猫のように。

 思わず抱きしめたくなる衝動にられる。

 小動物的に愛らしすぎるんだよなぁ。


 ぼうっとしていると、倉片さんは顔を近づけ――キスしてきた。

 しかも、両腕を俺の首に回してきた。


「…………」


 こ、これでは恋人みたいじゃないかっ。

 動揺どうようする一方で、この朝のサプライズに歓喜かんきした。まさかまだサービスが続いていたとはな。普通、ここまでしてくれない。



「またね、キョウくん」

「あ……ああ。金が出来たら頼む」

「うん。スキマバイトがんばってね! じゃ、またそのうち」


 俺から離れる倉片さんは、終始笑顔で去っていく。あんな可愛い子が立ちんぼなんてモッタイナイ! 俺がひたすら保護するしかない。

 がんばって働きまくろうと思った。



 そんなわけで、俺はラブホテルを後にした途端とたんに、スキマバイトアプリを立ち上げて求人一覧に目を通していった。

 一万円でも二万円でもいい。


 一日で稼げるだけ稼いで、すぐに倉片さんに会いたい。

 またあの幸せで天国な時間を過ごしたい。


 それに、他の男に買われるくらいなら、俺が買う。それはまあ……“専属契約”で大丈夫だとは思う。思うが、倉片さんの気分次第なところもあるだろう。

 彼女はお金を必要としている。

 なら俺がパパに――って、これはパパ活ではないな。言い換えれば支援者パトロンになってやるしかないだろうっ。



 幸いにも、ここは都内。スキマバイトはくさるほどあった。


 飲食店、コンビニ、物流倉庫、配送業などなど……。



 接客は超つくほど苦手だが、倉片さんの為ならがんばれる。だが、できれば避けたい。ので、自動的に倉庫だとか配送関係になった。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 面談なし☆ 未経験者歓迎!!

 仕分けのお仕事です

 朝10:00~12:00(休憩なし) 報酬:3,500円

 [〇〇市] 距離:2km

 交通費:500円含む

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 今日はこれにするか。他にもあるので、それも他の時間で追加で応募した。



 よーし、今日は大学サボって、ひたすらスキマバイトだ!

 倉片さんの為にな!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る