第2話 先制攻撃の甘いキス

 目の前で小さくなってほほを桜色に染める倉片さんは、非常にソワソワしていた。

 事情をさっした俺は、彼女の意外なカミングアウトに驚きを隠せないでいた。まさか“はじめて”だとは思わないじゃないか。

 立ちんぼにいるから、てっきりプロかと。


「俺がもらってもいいの?」

「し、仕方ないじゃん!」


 仕方ないでいいのかよ。


「じゃあ、ありがたく」


 いただきます――と、俺は片倉さんの服に手を伸ばす。が、逆に手をつかまれた。何事?


「…………待って」



 しぼるような、かぼそい声で俺を静止させる。ぷるぷる震えているところ見ると、相当緊張しているようだな。……俺もだけど。

 さすがに好きだった元クラスメイトを目の前にすると心臓が粉々こなごなに砕け散りそうだった。しかも好きだったからな。余計に。

 更に付け加えると数週間前までは現役の女子高生だった。あれから、それほど時は流れておらず、ほぼ変わりない姿。興奮こうふんは高まるばかり。



「無理だ。もう止められない」

「お、お風呂行かせてよ」

「一緒に入る」

「マジで」

「大マジだ。大金を払っているんだ、これくらいサービスだろう」

「それは、そうだけど」


 納得する倉片さん。いや、君ならもっと凄い価値があるんだが――あえて胸に秘めておくことにした。後々請求されても困るからな。



「男と風呂に入ったこともないのか~」

「昔、お父さんと」

「子供の頃の話かよ。そんなの論外だ! ええい、さっさと風呂へ行くぞ」


 倉片さんの右腕を掴み、俺は浴室を目指した。これくらい強引でなければ先へは進めん。幸い、嫌がる素振そぶりなかった。未経験故なのか、なんなのか。


 さっそく俺は先に服を脱ぎ捨てた。全てを解放すると倉片さんは両手で顔を覆った。恥ずかしそうに、こちらを直視。……明らかに俺の“偉大なる息子コルトパイソン”をまじまじと観察していた。

 興味津々きょうみしんしんではないか。



「…………ヘ、ヘンタイ」

「目の前で堂々と見ておいて、なんだそりゃ。そんなことより、脱いでもらおうか」

「だって恥ずかしいんだもん……」


「では、強制執行きょうせいしっこうだ」

「わあ! 自分でやるから~…」



 観念したのか片倉さんはようやく自ら服を脱いだ。

 分かっていたが、スタイル抜群ばつぐんだな。女神のヴィーナス像のような芸術的半裸がそこにはあった。まだ下着が残っているが、これでも目の保養ほようには十分すぎる回復力を持つ。ハイパーポーション並みだねっ。


 あとあの彼女の神秘をつつむ『聖骸布せいがいふ』を排除できれば、エリクサーとなろう。



「いいね、そのまま」

「えいっ」



 いいところでバスタオルを体に巻く片倉さんは、その状態で下着を脱いだ。……なんだその抵抗ていこうの仕方! 理想郷アヴァロンまであと少しだったのに。


 惜しいなぁ。けど、どうせ浴室に入れば裸の付き合いをすることになる。嫌でもな!



「いくぞ」

「……う、うん」



 手を繋ぎ、今度こそバスルームへ。

 ラブホテルなだけあり、一般家庭の風呂よりも広くてデカい。二人三人は余裕よゆうで入れる円形ジェットバス。

 さっそくお湯を注ぎこむ。どぼどぼとお湯が巡回じゅんかいし、渦を巻き始めた。


 準備は着々ちゃくちゃくと進んでいるが、あのバスタオルをうばい取らねばスタートとはならん。ので、俺は――あれ。



「…………」



 固まる俺。

 それもそのハズだ。倉片さんはかかとを必死に上げ、いきなり俺のくちびるを奪ってきたのだから。突然すぎるキスに俺は脳が爆発しそうになった。



「…………っ」



 まさか、俺の行動を先読みしての先制攻撃か!? やられたぜ……!

 キスだって初めてのはずなのに、妙に慣れた感じで片倉さんは必死に求めてきた。もしかして練習でもしていたのだろうか。

 いや、野暮やぼなことはいいな。

 この甘い時間を静かに過ごす。

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