第2話 あなたの従者
僕は屋敷の敷地内から向けて路地裏まで逃げてきた。息が上がっていて、肩で息をしておる。
しくじった。まさか失敗するなんて。流石に油断しすぎた。
だが、終わってしまったことをぐだぐだ言ってもしょうがない。
顔がバレている可能性が一応あるので、依頼は断って退散するのが得策だろう。
だけど……ここで終わらせたくない自分がいる。
……こんな仕事にも誇りってあるんだな。いや、ただ悔しいだけか。
なんにせよやることは変わらない。僕はあいつを殺す。
なぜなら僕は
殺し屋であるから。
包丁が野菜を切る音やくつくつと鍋を煮込む音が聞こえる。そしてこのキッチンいっぱいに良い香りが充満している。
そこで僕も今、料理をしている。
……何をしているのかだって?あいつを殺すって決意したのに?
いや、これはそれに関係あることだ。
ここで行われているのはある令嬢の従者を決める試験の一つである。その令嬢はもちろん雛内紗耶香である。
普通、従者を決めるのにこんなことはしないとは思うがそこはさすが日本を代表する一家である。優秀なものだけを選び抜きたいのだろう。
そしてさっき調べたのだが給料もかなり良く、それ目当てでかなりに人がこの試験に参加しているため一筋縄ではいかないのだ。
ちなみに一応履歴なども初めに見られるため、怪しいやつは1発で弾かれる。
僕はもちろん偽装した。それで通ったんだけどね。
だから今は試験を突破するためにせっせと料理を作っている。あまり作ったことがなかったが……案外楽しいな。ちょっとハマりそうだ。
そんなことは置いておいて料理が完成したら審査員の元へ料理を持っていく。評価は直接言われないのだが、表情から読むことはできるので高評価ぽくて少し安心した。
ちなみにこれが最後の試験でこの前に体力測定、模擬戦闘、学力診断、家事などの試験があった。あと、一つの試験で合格じゃなくてもすぐに終わりというわけではなく、全員全ての試験を受けており、合格の基準に行けばそれの専属となるらしい。
僕はと言うと体力測定の筋力に関すること以外はできたと思う。その中でも模擬戦闘はぶっちぎりだった。まあ、殺し屋だしね。
だからおそらく、僕は護衛的な立ち位置になるのだろうか。そんなことを考えていると、僕の名前が呼ばれた。
今は、全ての試験が終わり、講義室のようなところで待機させられていたのだ。
僕は立ち上がり部屋を出た。僕の事前に調べた情報だと、ここで名前を呼ばれなかったものは不合格らしい。
そんなこんなで合格が確定した僕は案内に従い、ある部屋の前に来ていた。
ここに入れと言う訳か。その扉をノックする。
「どうぞ、入ってください」
そんな声が部屋から聞こえた。声質的には若い女性にようだ。
とにかく僕はその声に従い部屋の中へと入った。
部屋に入ると机の前にメイド姿の若い女性が立っていた。
そして僕はその人に促されるまま椅子に座った。
部屋の構造としては真ん中に縦に長方形の机に長椅子が並んでおりその奥にはベッドが置かれている。他に左の壁には本棚があり、いろんな品がびっしりと詰まっている。逆に右の壁にはタンスなどがおいてある。
そして僕の注目は部屋の主のメイドさんに行った。
「さて、
僕は無言で頷いた。
「あなたはお嬢様の従者の試験に合格しました」
ふう、よかったひとまず合格して。しかしなんでこの部屋に呼び出したのだろう。
おそらくこの部屋はこの人の自室。ただの合格発表でここに呼び出すのだろうか。そんな思いを感じ取ったのか知らないが、彼女は話し出した。
「本来はこの部屋に招くまではしないし一つのところに集めて行いますけど……」
けど?
「あなたは試験でほとんどの項目でトップクラスの成績を叩き出しました。過去、行った試験でもあなたほどの人はいませんでした。よって本来はその人の能力にあったところに配属するのだけど、あなたは例外。お嬢様の護衛として学校生活を共にしていただきます」
……嬉しい誤算だ。これで奴を簡単に……
「ただし、私も同行いたします。なので変な行動は起こさないように」
流石にそんな甘くないか。だけどそれはこいつも一緒に殺せばいいだけ。
そうして僕はこの日から雛内紗耶香の従者となったのだ。
僕は殺し屋、あなたは標的 真夜中に散りゆく桜 @sakura-tiru
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