1章 僕は殺し屋、あなたは標的

第1話 僕は殺し屋

殺し屋。


そんな存在にあなたは何を思うだろうか。


恐怖、軽蔑、はたまた本当に存在するのか疑うものもいるだろう。だが殺し屋は本当に存在する。


なぜ断言できるのか。


それは僕自身が殺し屋であるからである。そして僕はこの仕事で生計を立てている。


殺し屋なんてサイコパス野郎しかいないだろうと思うかもしれないがそんなことはない。そんなやつの方が少ない。


なぜかって?仕事だからだよ。仕事をするのに無駄な感情は必要ない。ただ任務を実行するだけだ。




殺し屋として僕が過ごしているとある日新しい依頼が来た。


日本の依頼で、ある企業の令嬢の殺害任務だ。そいつの名前は雛内紗耶香。


この人の両親の運営している企業は日本の大事な部分を担っているらしい。そんなところの娘を殺してどうするんだか。混乱に乗じて乗っ取りでもするのかな。


まあそんなことはどうでもいい。今回の依頼はかなり報酬がいい。


この依頼が達成できれば、僕の貯金額は10億を超える。これで仕事をせずとも暮らせるだろう。そんなこんなで僕は早速ターゲットを殺すために日本へと足を運んだ。




日本へとくることができたのだが…


「きれい、だな」


すごい街が綺麗だ。僕の住んでいたところはこことは比にならないくらい汚く、暗い。


僕は金を持ってはいるが使う意味を見つけ出せず、ずっとそんな生活をしている。


さっき、仕事をせずとも暮らせると言ったがそれは結局無理だろう。裏世界から完全に抜け出すには一筋縄ではいかないし、僕にとって殺し屋は生活の一部となっている。


まあ、だからこの依頼が終わっても続けるだろうね。


さて、今はそんなことはどうでもいい。仕事は早めに終わらせるに越したことはない。


それじゃあ、今日の夜、終わらせようか。そうして僕は、夜までそこら辺の路地裏で仕事道具の整備を行なった。




そうして夜になったので僕は路地裏から出て目的地へと足を運んだ。


情報によれば、大きな屋敷のようだが……僕が今歩いているには住宅街である。本当にここにあるんだろうか。


ん?なんでそんなことを疑問に思うかって?


それはね、下見をしてないからだよ。だってめんどいじゃん。それで失敗したこともないし。


そんなことを考えながら歩いていると突き当たりに来たのだが…


「ここか…」


そこから見えたのは壁だけだった。レンガ作りの壁で思ってたよりも高くびっくりしたが問題ない。


すぐに切り替えて持ってきていた道具を使って壁を登った。防犯カメラの位置などは把握しておりここは死角となる位置である。


……実は死角となるのはここしかなかったのだが、少し不自然だ。ここ以外の場所は全て防犯カメラが二つ以上写るようになっているからだ。


……罠に警戒しながら行くか。僕は何か壁に仕掛けられていないか警戒しながら登って言った。が特に何もなかった。


……ここまでくると怪しさ満点だな。そう思いつつも壁から顔を覗かせた。


そこからまず見えたのは巨大な庭だった。海外のような庭園で花壇や生垣によって区切られており、植物であるはずなのに人工部のような美しさに目を惹かれる。夜でなかったら、綺麗に咲いている花によってより目を惹かれただろう。


そしてその奥に見えるは巨大な洋風のお屋敷。シンプルな外装で、周りの庭にも劣らない存在感がある。


「……すごいな」思わずそう声に出してしまった。だが驚いている暇はない。見つかる前に早く依頼を完遂しなくては。


僕は壁を降りて、屋敷の方へと向かっていった。




生垣に隠れながら、屋敷へと向かうが……警備員があまりいないように見える。


理由として、ターゲットの両親は出張でこの屋敷にいないことが挙げられる。


ターゲットである雛内紗耶香はお嬢様とはいえまだ権力も金も両親に遠く及ばない子供である。護衛ほとんどは何かあれば日本の経済に関わるほどの影響を持つ両親の方へと向かい、屋敷には必要最低限だけ残したのだろう。それにしては少ない気がするが。


まあ、それだったらこちらにとっては好都合だ。難易度が下がるんだからね。




そして僕は屋敷のそばへと無事、辿り着くことができた。ここで、僕は顔を隠すものをつけていないことに気がついた。


いらないかもしれないが万が一、だ。


僕はよく使っている仮面をつけた。白い仮面であり温度を感じさせない冷酷な印象を与える。


この仮面をつけて僕は今までたくさんの人を殺した。





僕は屋敷の壁を伝ってターゲットの部屋のベランダのある2階へと侵入した。中に入ったら流石に一発アウトだからな。


ベランダといってもそこまでのスペースはない。花瓶が左右に置かれているだけだ。そして部屋とベランダを仕切っているのは一枚のガラスとカーテンだけ。


ここに月明かりは照らされていないから、あちらから僕のことは見えていないだろう。さあ、仕事の時間だ。


そうして僕はその窓を開けて……







ニャ!





そんな声が後ろから聞こえてきた。


僕はびっくりして後ろを振り向くが、誰もいない。なんなんだ?


そんなことを思っていると、いきなり窓が開いてそこから出てきた手によって僕は部屋の中に引きずり込まれた。


まずい、油断した。手を引かれたくらいで何を焦っているのかって?女だから力で勝てる?


いや、僕には無理だ。それが僕の殺し屋としての弱点であるからだ。


力がない。格闘家は正面から敵を倒すが殺し屋は違う。闇に紛れ相手の意識外から命を奪う。だから正直力がなくてもどうにかなった。


一応鍛えようとも思ったさ。ていうかやった。


だけどそんなことをするより得意分野を伸ばした方が僕にとってはとても有益だった。


力がない僕だが、殺しの才能はあった。だからそれを伸ばすのに専念した。だがそれが仇となるとは。


僕はいま部屋の中で押し倒されている。ターゲットである雛内紗耶香にだ。


しっかりと手首を握られ仕込んでおいたナイフも出せない。足の方には特に何も仕込んでいなかった。


僕は抜け出そうとしたが、ダメだった。幸い僕の顔は仮面で覆われていて見られてはいない。


ただ時間の問題だろう。ここからどうしようとか考えていた。その時、


「ねえ、あなた私を殺しにきた殺し屋さん?」


「……なんでそう思ったの」


「だって、あなたが今日ここにくる情報はすでに私は知ってたよ」


は…なんで。


まさか、嵌められた?僕が?


「ちなみに言うと私自身で調べたことだから、その人たちが情報を漏らした、というわけではないよ」


……筒向けだった、と言うわけか。


そんなことはいまはどうでもいい。ここから向け出す方法を考えなくては。


そう思っていると雛内紗耶香は僕の袖に手を入れてきた。


「何を!」


「なるほど、殺し屋さんはこういう武器を使うんだ」


彼女が持っているには僕の愛用しているナイフだ。大事な相棒である。


「ちょ、待って」


そんな僕の静止も気にせず彼女は僕の武器を取っていく。


もちろん僕は抵抗しようとするが、抵抗虚しく全て取られてしまった。最悪だ。これで僕は彼女と応戦しても勝てる可能性がかなり低くなった。


「じゃあ、最後に…」


彼女は僕のつけている仮面を取ろうとした。まずい、顔が。僕がかなり焦っているとノックの音が鳴り響く。


「お嬢様?」


どうやら彼女の従者が部屋に来たようだ。


僕はドアに気を取られている隙に彼女から抜け出し、すぐさまベランダから飛び降りた。


そしてそのまま、僕は屋敷の外まで全速力で逃げ出したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る