第9話 伝説の始まり

やってしまった。

使うつもりではなかったはずの魔法を唱えたしまった以上に力のコントロールを間違えてしまったことに後悔している。


普段ならそのようなことはないはずだったがこの杖のせいだろうか。相性が良いみたいだ。


気絶している群衆の中から掻き分けてやってきたのは起きていたレイとアルネだった。


「お前、何者だ?」

「あんた、何者なの?」


二人から同意味の質問を投げかけられた俺は元魔王であることをはぐらかそうと必死で言い訳を考え、出た答えが


「この杖は凄いな」


やってしまった。

この二人だって杖が真価をはっきするには持ち主の力量がなければいけないことだって分かってるはずだ。


二人からの鋭い視線をどうにかして逸らしたい。

だがもはや弁解の余地なしだった。


上層階から足音と拍手が聞こえ、三人とも思わず振り返るとスーツを着た女性がゆっくりと笑みを浮かべながら歩いてきていた。


「あいつは...!」


彼の嫌そうな顔は初めてみる。


「私のことを知っているなんて、物分かりがいいじゃないか」


思わずアルネが隣にいるレイに「あいつは誰なの?」と聞くと彼は


「天才魔法協会の一人だ」


天才魔法協会?そんなものは聞いたことがなかったため、すぐに彼に聞くと


「帝国からも一目置かれている狡猾集団だ。詐欺師と話がしたいならおすすめだな」

「狡猾なんて...賢いだけだよ」


場の全てが彼女に支配されている気さえしてしまうほど彼女にみんな注目している。


「なんでここにいる?」

「その杖、私も欲しくてね」

「残念だけど、2本中1本は彼に、そして残りは私たちで換金するつもりなの。ごめんなさいね」

「謝る必要はないさ。私がお金で払おう」

「へぇ...賢いのは本当みたいだな」


彼女は指を空中で回転させながら


「君達のことは前からチェックしていたさ。二人は転生者だろ?」

「「?!?!」」

「どんな前世があるのかは知らないが...それでも君達はそうとう頭が切れそうだからね。だから確認していたよ。だけど予想外なのは君だよ」


彼女の指は明らかに俺の方を向いている。


「君らにも興味があるが...その杖を持っている君にはさらに惹かれるものがある。どうだい?私達のに入らないかい?」

「...悪いが俺は賢くなくてね」

「その魔法は賢者レベルの脳みそがなければならないと思うけど?」

「あんたより賢くないってことだよ」


彼女はやれやれと言った感じでただ虚な目で俺を見てきている。そして諦めたのか


「分かった。今日はその杖の交渉だけで終わりにしよう。このことは誰にも言わないさ。いや言えないからね」

「それで良い。こいつにも手を出すな」


男気があるな。


「お前は先に戻っていろ。不用意に残る必要はないからな」

「この杖はもらって良いのか?」


彼は「今更か?」といった表情に少し溜め息が漏れそうな顔で「お前がそれに適任だろう」とだけ告げた。






町外れのカフェに入り時間を潰すことにした。

彼らも帰ってくるのはまだだろうから。


俺は椅子に腰掛け、手に入れた杖をまじまじと見る。

持ち主が何人もいたと感じれるほどに魔力が流れている。しかもそれは独特で、複雑に魔力の流れの傾向が絡み合っている。

俺はまだまだこの杖を扱えていなさそうだ。



俺は元魔王の身分を隠したい。

事実今でも人を殺したあの時の感触が残っているし、夢にも出る。

あの赤よりも赤く、黒よりも周りが見えない色は俺を離してくれなさそうなほどに。


他人がそれを知って良いことはほぼない。

力を悪用されたりもしたくない。


親父の呪いは...形を変えて今だに俺を縛ってきている。


「呑気にコーヒーでも飲んでるの?


思わず先から立ち上がり周りを見渡してしまう。

だが客は俺一人のようで近くに誰もいない。


「自分でも分かってるんでしょ?さっき魔法を使った時にあのがさ^_^」


嫌な声だ。虫唾が走る。


されども以前として誰もいない。


「物足りないんでしょ。あの感触が」


少しまだ熱いコーヒーを飲み干し、急いで店を後にする。


「そうやって逃げるの?夢から」

「夢なんかじゃない!」


やってしまった。

道のど真ん中で叫んでしまった。

側から見たら俺はただ一人、叫び散らかしているやばい人間だろう。


急いで近くの人気がつかない路地に逃げ込み、何もない空間に問いただす。


「姿を表せよ。」

「表したらまたボクにあの快感を味わさせてくれる?」

「何を言っているのかわからない」

「そうだなぁ...」


首元に両手が現れ、俺の頭の上には何かが乗っていることに気がつく。


「お前は誰だ」

「ボクは快楽を追い求めるモノだよ。君が魔王だった頃は楽しかったなぁ」

「今すぐにその口を閉じろ」

「酷いなぁ。ボクは君のことを幼い時から、それも前世までも全て知っているのにー」

「俺はお前が望むようなことはできない」

「できるよ?楽しいことやってよ」

「なぜそれに従わなければいけない?」


天使のような見た目にツノが生えたそれは人差し指を口にあて


「君と僕は結ばれてるからだよ」

「意味わからない。気持ちが悪い」

「ひどいい!」

「そりゃあそうだろ。ストーカー」

「守り神でもあるかもよ?だって現に君はどこかの誰かに狙われてるしね」

「...そいつはどこだ」

「多分遠くからだね。殺気だけは分かる」


ひとまずコイツを無視してどこか安全な場所に行くべきだろうな。


「どこに行くの?」

「言わなくてもついてくるだろ」

「まぁね〜。あとちゃんと名前で呼んで!」

「注文が多いしめんどくさい奴だな」

「カイラクちゃん!快楽が好きなカイラクちゃん!」

「結局お前はなんなんだ?それだけ今は教えてくれ」

「カイラクっていう名前があるのにぃ...ま!人間じゃないってことだけ!」

「なんだよそれ」

「ただはっきりと言えるのは---





これから面白いことが起きるよ」











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