第3話 魔法は腐らない
王都ネフェルタリア。
そこは幾年も魔法と共に生き、民から慕われ続けている王家が収めている都市である。
夜になると王宮を中心にオレンジ色の暖色系の色によって幻想的な夜へと変わり、多くの人は友人と、家族と共に過ごしている。
過ごし方は様々で、共にお酒を飲んで語り合うものや魔法競技に熱中するもの。さらには怪しいお店に入り浸るものまでいる。
ここは深い渓谷に囲まれているおかげで他国との争いも生まれず、独自の文化が建物に、人に宿りながら生きている。そのため建築家を目指すものや料理人、デザイナーまでもが一度は訪れたい都市となっている。
そんなここには魔法使いが多く、普通ならば狩人や剣士などモンスター退治に必要な職業人がいるはずだが...ここにはほとんどいない。理由としては魔法使いにとって過ごしやすい環境にあるだろう。
理由1
魔法学校が存在すること。そこは名の知れた名門校であり、わざわざ遠くから来るほどでもある。
理由2
古い魔導書などが今だに発見されることである。ここは太古の昔から魔法使いの修行の地としても知られ、生活していた。そのため今でも森の奥の小屋から、洞窟から。はたまた家の庭から見つかったりする。そのため未熟なものだけではなく、熟練の魔法使い、魔女などもここに住んでいたりする。
そんな魔女の一人であり、死霊魔法に精通している『ママルダ』は今日も呆れていた。
そう、一人の男に------
「まったく、どうしたら一ヶ月間もの間、外に出られずに済むんだ?」
外からの声を無視しながら魔導書を読み漁ってるのは元魔王であり、今はただの成年である『ウル・フリッシュ』である。
「お前もそろそろ18歳になるころだろ...そろそろ真剣に何になるかをだな...」
「これ以上、この家に魔導書はないのか?」
「全く、本の虫だな。この前も買ってきてやったのに...それにここら辺の本屋にはもう、...ん?」
彼女は少し考え、彼に名案だ、と言わんばかりに伝える。
「魔法学校にならまだまだあるぞ。上質なのもあるかもな。そこにある嘘ばっかり書いてある魔導書とは違って」
「この本は唯一82ページの魔法だけは忠実に書かれてた"最高傑作"だから」
「そうですか。」
彼女は買ってきたパンを彼に見せ
「食事の時間だ。こい」
彼は大人しく着いていくのだった。なぜ本好きの彼が本よりも食事を取るのか。それは彼女の教育にあった。
彼女は昔、ブームとして起きていた『魔導書採掘』に乗っかり、ここから離れた深い森の中を探索していた。すると獣の声や薄暗くざわめく木々の声が聞こえてくる。そしてさらには子供の泣き声まで聞こえてくるのだ。
死霊魔法に通じている彼女にとっては「なんて場所だ!」と大喜びしていたが。
どうらや赤子の声は本物のようで。生まれたばかりの男の子が一切れの布に包まり大きな木の下に置かれていた。
彼女は不思議がった。
ここら辺には国や村など、行商人ですら通らない場所なのに。だからこそ彼女はここを選んだのだけれども。そこに赤子がいるのはおかしい。
興味を持った彼女は本来の目的である魔導書を諦め、来た道を引き返していった。
家に帰り観察していると独特な魔法の流れを有していることが分かった。エルフでもない---人間にはない、不思議な流れだ。
彼女はそれが何なのか育てることにした。
なぜ泣くのか、なぜすぐ怪我をするのか。分からなかったため、彼女は成長剤を牛乳に混ぜて食べさせていた。
すると一年後には5歳ほどになり、人の言葉も話していた。彼はただこの世界について聞き、その後は魔導書や歴史書、時代小説などを読み漁るようになった。
一見、育てやすいようにも思えたが、そんなことは無かった。
12歳にもなれば中等魔法学校に通い出したりするが、彼は拒否をし、ただただ本を読み漁る。
「では何になりたいのか?」と聞くと「魔法使い」とだけ返ってくる。
そんな彼も18歳になった。ママルダは内心そろそろ自立してくれても良いのではないか、と思っている。
彼もまた、そろそろ自立する時ではないか、と考えだしていた。それは読む本がないから。簡単な理由である。
彼にも一応、育ててくれた恩返しはしたいと考えている。
そのためどうしたら良いかをまた本の世界で探していると、この都市の魔法学校の優等生になれば好きな魔導書を遠くから貰えるらしい。
それを知り、彼は「遠くの国にある死霊魔法の本を彼女に渡せば恩返しになるのでは?」と考えた。まったく何から何まで本本本である。
彼は食事中に彼女に聞く。
「ここら辺にある魔法学校は今からでも入れるのか?」
彼女は驚き、持っていたスプーンを落としてしまう。
「あ、ああ。入れるが...どう言う風の吹き回しだ?無職のお前が...」
「外の世界に興味が湧いた」
「ほんとうは?」
「まだ知らない本を読みたい」
「だろうな...まぁ、私はそれでも嬉しい。そうだな、私の願いで入れるか試してみよう。」
「助かる」
彼は一瞬にして食事を終え、また自室に籠り、本を読み始めた。
彼女は急いで彼の気が変わる前に手紙を例の学長に向けて書き、窓から伝書鳩に送ってもらう。
するとその日の真夜中には手紙が帰ってきていた。ちょうどトイレに行っていた彼女はその手紙を受け取り内容に驚愕する。
「拝啓 ママルダ様へ
貴女の希望は理解いたしました。本校としても貴女のお子さんを預かりたい、と考えております。ですが、本校はいま深刻な教員不足に陥っております。そのため、貴女にも本校へ来て欲しいと考えております。どうか前向きにご検討お願いいたします ネフェルタリア魔法学校」
彼女は頭をかきながら寝ぼけている脳で考えだす。
「ま、まぁ、人に教えるのは得意じゃないが...だからこそウルには何も教えられていないんだが...良いか。死霊魔法なんてものを学びたい生徒は今どきそんなにいないだろう!今すぐにでも承諾の旨を送ろう!」
彼女は後に後悔することになる。
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