第2話
「それで、お嬢とはどうだったんだ?」
「どう、とは?」
「とぼけるなよー。ネタは上がってるんだぞ?」
そうか、今の季節ならアジとかかな?俺が今駄弁っている相手は酒井希。最初から隣の席で、高校入学から一番喋っている相手と言ってもいい。
「ノゾ、昨日から言ってるけど特別なことは何もないんだけど」
「知ってる。知りながら言ってる」
そういう希を睨みつけると、誤魔化すようにハハハと笑った。
「まあ実際、話せるだけでも羨ましいもんだぜ。同じクラスにいても話しかけれないくらいには殿上人なわけだしな」
アイドルかなんかか、白峰は。…まあアイドルみたいなもんか。崇拝してるやつだっているくらいだしな。…偶像崇拝OKですか?
「ふーん、まあそんなもんか」
「お、勝者の余裕ですか?」
「まあまあまあ、それほどでもある」
そんなふうに取り止めもない雑談に興じていると、アイドル様が現れた。
「音無君、おはようございます」
まあ、こんなの人気がないわけないよな。俺たちと比べて1人だけプリンセスとか呼ばれてそうな顔してるし。
「おはよう、白峰」
「今日も、行ってもいいですか」
「ああ、もちろん」
「よかったです!じゃあ、また放課後に!」
嬉しそうにしている白峰の顔は、やはり明るい魅力に溢れていて、それを横で聞いていた奴が活性化するのも当然だった。
「おいおい!ほんとに何もなかったのかよ!」
まあ、この追求くらいは甘んじて受け入れてやろう。
その後、執拗に追及してくる希に、何ならお前も来るか?と聞いたところ、部活があるから行けないし、部活がなくても行けないと言われた。
ちなみにこいつはサッカー部で、週8で練習があるらしい。意味わからん。巷では懲役三年とか言われている。南無。
「白峰は、部活とか入んないの?それこそ軽音とか」
下校中、気になった話題を振ってみた。よく考えたら、うちに来るより先に試すべき選択肢のはずだ。
「部活は、無理なんです。私の親、というか父が古風で、ロックとかから私を遠ざけようとしているので」
「そっかー、大変だな」
なるほど。それなら軽音とか無理だな。部活に入るには親の同意は必須だし、最近のモダンカルチャーを嫌うシニア世代がいるのも確かだしな。
「音無君は、部活とか入らないんですか?それとも、校外でバンドとか組まれてるんですか?」
まあそう来るよな。この流れなら。
「どっちもノーかな。色々あって、部活とかはちょっとね。バンドも、ちょっと前に辞めたんだよね」
そう返すと、白峰は何か考え込んでいるようだった。
その後、店に着くや否や彼女は言った。
「ご相談があるのですが…」
彼女の相談というのは、さっきまでの話にも関連してくるものだった。父親が厳しく、家にギターを置くことができないので、ギターを購入した際にはウチに置かせてくれないかというものだった。
「都合のいいことを言っているのは分かっていますが、保管料という形で金銭を支払うこともできます!どうかお願いできないでしょうか?」
「それくらいなら、全然。スタジオに関しても、俺がいる時なら自由に使ってくれていいよ」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
まあ、これくらいならお安い御用である。一応あとで親父に言っておくか。
「それなら早速、このギター、買いたいです」
そう言って彼女が指し示したのは、昨日俺が彼女に渡したギター。
「えーと、さっきの話があるからって気を遣わなくていいんだよ?そんな急いで決める必要もないし」
ギターというのは、バンドにおいてはボーカルと並ぶ花形であり、始める人もその分多く、そして辞める人もその数だけ多い。どこかの会社のデータによると、ギターを始めた人の9割が一年以内に辞めてしまうのだとか。
だからこそ、一度慎重になってほしい。
「いえでも、何も買わないまま通い続けるのも良くないですし、私も気に入ったので」
「そっかー。いやでも、とりあえず他のギターを試してからでもいいんじゃない?まだそれしか弾いてないでしょ」
「それは、確かに…」
彼女も納得したようなので、とりあえず購入は考え直させる。
どうやら白峰は何も買わずにギターを弾いていることに罪悪感があるみたいだが、別に気にする必要ないのになー。こっちだって下心ありきだし。
バンド市場は近年、衰退気味である。昔みたいに大人も子供もバンドに熱狂する!みたいな感じもなくなっているし、しょうがないのかもしれないがね。うちの楽器屋も新規の客なんかあまり来ないし。
そんな現状なので、新規参入者は貴重だ。それに、彼女は楽しそうにギターを弾くからなあ。ぜひ、嫌いにはならないで欲しい。
「とりあえず、他のも何種類か試してみようか」
アウトオブスクールミュージック! @sasakitaro
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