アウトオブスクールミュージック!
@sasakitaro
第1話
「今日、君の家行っていい?」
急にそんなことをクラスメイトの女子から言われたら、どんな反応を返すのが正解なんだろうか。
俺が固まっていると、彼女は言葉を続けた。
「音無くん家って楽器屋なんだよね?」
あーはいはい、そっちね。分かってましたよ?分かってましたとも。クラスどころか学年でも有名人のあの白峰萌歌が、俺の家に来るというのなら、そりゃあ親父の商売の方だと考えるのが自然だよな。
ええ、期待なんてしてないですとも。期待なんて。
ショックのせいでその後何を話したのか覚えてないが、気づいたら放課後一緒に家に行くことになっていた。
そして放課後、友人たちから詰問に合ったがスルーして白峰と共に教室を出た。あいつらもうちで店をやっているのは知っているので、白峰が客であることを理解した上でイジってるだけだろう、多分。
「ていうか、白峰ってバイオリンとか習ってるんだよな?」
「うん、バイオリンとか、ピアノとか、あとオーボエとか習ってるよー」
「うちの店そういう楽器は扱ってないんだけど、だいじょぶそ?」
「うん!わたし、バンドに憧れてて!」
少し恥ずかしそうに言う彼女は、なんというか、別次元の住人感がある。バイオリンとピアノとオーボエって。ほんとにお嬢なんだな。
まだ高校一年の5月だと言うのに、白峰萌歌は学年でも知らないものの方が少ないくらいの有名人だ。白峰の親は有名企業の経営者なのだ。入学式には白峰の親も来ていたのだが、俺はその時人生で初めてボディーガードを生で見た。
そしてそれにとどまらず、彼女自身もその並外れたルックスと、能力で俺たち凡人に格の違いを見せつけている。なんだよ金持ちでルックス良くて性格も良くて勉強もできて運動もできるって。天は二物を与えずどころの話じゃねえぞ。
白峰とは同じクラスだが、喋ったことはまだ数回しかないし、2人きりで喋るのなんて初めてだったが、白峰がいい人であることは話してれば分かるので全然苦ではなかった。
そろそろ足音が聞こえてきた中間テストについて話していると家に着く。
「おーおー。まだ高校始まってすぐだってのに、もう彼女連れてきたのか」
「ちげーよ!ただのクラスメイトでかつ客だ」
このデリカシーのないおっさんが俺の親父でこの楽器屋の店主。もともとはそこそこの成功を収めたバンドマンで引退後にこの店を開いた。
「そうか。まあ知り合いならお前が接客しろや」
「私からもお願いできますか?」
白峰からそう言われた以上は引き受けるほかあるまい。
「白峰は、どの楽器がやりたいとかあるの?」
「やっぱり、一番はギター、かな」
「そうか、とりあえずここに弾いてみたいギターとかある?」
そう言って陳列されているギターの方を指し示す。
「あの、わたし、ここまで来ておいてなんなんだけどまだあんまり、楽器とか詳しくなくて…」
「ああいや、全然大丈夫だよ。誰でも最初は初心者だし。まあ今日はお試しってことで」
「ありがとう」
「じゃあまあ初心者で扱いやすいのってなると、これとかどうかな」
そう言って一つのギターを取ってくる。
「これは…」
手にとってまじまじと見ている白峰に言葉を続ける。
「癖も少ないし、初心者でも扱いやすいやつだよ。まあ見ててもあんまわかんないと思うし、一回弾いてみる?」
そう言うと白峰は顔を輝かせて頷いた。バンドが好きって言うのはほんとみたいだな。
「親父ー、スタジオ使うよー」
親父に一声かけてから店の奥へと向かう。親父が、自分の夢の城を作ったと言うだけあってこの自宅兼店にはバンドをやるのに必要なものが大体揃ってる。スタジオもその中の一つだ。
「じゃあまあ弾いてみようか、って言っても弾けないよな。コードとかは分かる?」
「名前だけなら…」
「OK。じゃあそこからやろうか」
それから白峰へのレッスンを開始した。持ち方から始めて、基本のコードを教えて、正直楽しいと言えるものではなかったはずだが、白峰は子供のように楽しみながらやっていた。それを見ていると、こちらも口角が緩むのを感じた。
だからだろう。6時を過ぎて帰らなければと口にした白峰に、また来ていいかと聞かれた時、迷いもなく言葉が口から滑り落ちたのは。
「もちろん!」
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