第28話 ムギュ〜〜〜〜!!!!

……チュンチュン……



 私の意識の覚醒とともに、鼓膜に響いてくる鳥のさえずる音。



 朝の訪れだ。



 私は、それをアラームの代わりにして目を覚ます。



 ——ッあ!? ウサギさん!!



 普段は寝ぼけてゆっくりと布団から這い出る私だけど、今日に限っては飛び起きるように上体を起こして振り返る。


 すると……


 定位置の枕元に、ピンクのウサギさんが何食わぬ顔で置かれていた。


 私、すかさず彼を抱きしめて、優しくムギュッ〜〜とする。


 だって、そうしないと……



 『オイ! 唯菜! シワになるだろうが!?』



 って怒られちゃうもん。だから優しくムギュッ〜〜としたんだ。



 ……ふふふ。ウサギさん♪



 今のウサギさんは無口になっちゃったけど……なんだろう? 少し、ポカポカする。凄く落ち着く。













「あら、唯菜。おはよう」



 私はリビングを訪れる。すると、台所にいたママと目が合って朝の挨拶。私は喋れないから心の中で「おはよう!」って言った。



「……って、あれ? あなた、またそのぬいぐるみを持ち出したの?」



 そう。ママが言う通り、私はウサギさんを連れ出している。昨日の夢と同じだ。だって、ウサギさんは私の相棒だよ? どこまでも一緒なんだから!!



「本当に好きね? あなた、もう高校生なんだから、少しは大人っぽくなりなさい」



 なにそれ? 可愛いモノが好きなだけじゃない! 可愛いに年齢制限なんてないんだから! 



「あら、頬を膨らませて……不貞腐れる姿もまだまだ子供ってことね。まぁいいわ。ほら、顔洗ってちょうだい。朝ごはん用意しておくから」



 ——は〜〜い!



「……って、そのぬいぐるみは置いていきなさい。そんなの抱えてどうやって顔洗うの?」



 ……確かに!? ママの言う通りだ。このままじゃ顔洗えない!?


 やっぱりウサギさんは邪魔だ。昨日の夢の中でも思ったけど……足で纏いだよね。なにが「俺の足は可愛らしさに極振りだ!!」よ……大人しく速度にステータスを振って欲しかったな。

 


『んだと!? チンチクリンがデケェ口叩くじゃねぇ〜かぁああ!!』



 って、こんなこと思っているとツッコまれそう。


 ——うんしょと!! じゃあ、顔洗ってくるからそこで待っててね?


 私はウサギさんをリビングの椅子に座らせて顔を洗いに行った。このあと、洗面台の鏡に顔を写したけど、すっかりと目の下のクマは取れて、顔色が良くて、気分も上々! 悪くはない。

 憂鬱に思っていた『夢』を見たあとだけど、それでも気分はいいんだ。


 ウサギさんは足で纏い? うんん。やっぱりさっきのは無し!


 そんなことはなかったと気づいた。きっと私の気分がいいのはウサギさんのおかげだね。きっとそうだ。


 ——足で纏いって言っちゃって……ごめんなさい。ウサギさん。


 リビングに戻った私は、そう謝罪を心の中で呟いた。


 そしてもう一度……



 ムギュ〜〜!!



 今度の抱擁は力強かった。




 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る