第27話 お口はとってもワルワルさん だけど……

 私はウサギさんを抱えると、しばらく校舎を見て回った。


 本当は、勝手口に直接向かっても良いんだけど……教室の前に立ってた2つの影の行方が気になったから探してみたの。


 でも……


 

 みつからなかった。



 いや……片方は見つかったんだ。赤い靄の方——



「おい。結菜!? あんまりヤツに近づくんじゃね〜ぞ! 殺される前にとっとと脱出しやがれ、馬鹿野郎!」(小声)



 私……野郎じゃないもん! 本当に、ウサギさん口が悪い。



「おい! “むぎゅむぎゅ”すんな! 綿がズレるだろうが!」



 まぁ、このウサギさんのことは置いといて……



 私は1階に降りて廊下の角から正面玄関を覗いた。すると、そこには赤い靄が動こうとせずただただ立ち尽くしてたの。微動だにせずにね。

 しばらく観察してみたけど、いつものように鉈を打ち付ける気配も見せなかったんだ。



 それよりも……



 私が本当に知りたいのは黒い影の行方の方だ。


 

 なんだけど……



 正面玄関を避けて、しばらく周辺を探してみた。けど見つからない。人っ子1人……気配すら感じなかったんだ。



 急に現れた黒い影。あれは一体誰だったんだろう?



「ほら! 結菜、誰もいないだろ? 満足したなら、ズラからぞ! こんな夢の中にいつまで居たって楽しくもねぇ〜だろう?」



 もしかして、ウサギさんがあの影の正体? 



「本当に物好きな奴だな。変人結菜!」



 うん。違うな——聞いた声と声音が違うもん。黒い影も口は悪かったけど、ここまでワルワルさんじゃなかったし……たぶん違う。



「オイ! だから、“むぎゅむぎゅ”するな!! 怒ってるのか?!」



 うんん。怒ってはない。怒ってはないんだけどね。私の腕が勝手にウサギさんを“むぎゅむぎゅ”しちゃってるんだ。これは仕方のないことなのだ。



「だから、やめろぉ〜〜!!」



 それから……


 しばらく愉快なウサギさんを“むぎゅむぎゅ”しながら学校の散策を続けたんだけど……結局、見つけることはできなかった。



 しかたない……今日は夢から出るか……



 と……そう思った私は、勝手口に向かった。




 さて……


 狭い通路……からの扉の前まで来たのはいいけど……


 夢から脱出する前に……


 私は、ずっと抱えた状態だった一匹のウサギさんを見下ろした。



「ん? オイ、どうした唯菜さっさと出ちまえよ」



 急に立ち止まった私を気にしてか、ウサギさんは扉を開けるように腕を突き出して話しかけてくる。



「おいおい。どうしたんだ浮かない顔して?」



 だって……


 もし私が夢から出たらウサギさんはどうなっちゃうの? また、こうしてお話できるのかな?



「もしかして、俺様と離れるのが嫌なのか? ハハハ、甘ちゃんが! テメェ〜そんなデカいなりして寂しがり屋なのかよ! 滑稽だぜ!」



 ウサギさん……私をからかってくる。



 揶揄するその姿に……私は“むぎゅむぎゅ”して仕返しをするところなんだけど……



「おい? はぁぁ……たく、調子狂うぜ。まったく……」



 あんまり落ち込んでウサギさんを見つめていたのがいけないのか。ウサギさんはやれやれと首を振って溜息1つ吐き出した。



「結菜いいか? この扉だが……これは夢からの脱出路だ。それは分かるだろう?」



 私はゆっくりと頷いた。



「そうしたら、お前はベットの上で目を覚ますはずさ。小鳥のうるせぇ〜さえずりに煩わしさを覚えながらな。だけどよ……」



 ウサギさん。私が抱えたままだったのを降ろすようにジェスチャーをしてくる。それに気づいた私は……ゆっくりと、ウサギさんを床に立たせる。


 すると……



「俺様はずぅ〜〜と、お前の枕元で見守ってるだろうがよ!」


——ッ!?



 振り返って、腰に手を当ててドッシリと構えたウサギさんが……そう答えたの。



 そうだよ! そうだった! ウサギさんは私の相棒!! ずぅ〜〜と私の事を枕元で見守ってくれてるんだ!!



「夢の外じゃ〜〜俺様は喋れねぇ〜〜が、相棒であることは変わりねぇ〜〜。それに、夢の外でも一緒だ。そうだろう?」



 私、コクコク——ッと激しく何回も頷いた。



「なら、何も心配いらねぇだろうがよ! 馬鹿結菜! ほら、行くぞ?」



 ウサギさんはこれだけ言うと、私に手を伸ばしてくる。


 私は迷うことなく、それを掴むと……手を繋いだまま扉を潜ったんだ。





 ウサギさん……口は悪いけど……とっても優しい。




 

 大好き! 私の相棒!!












 

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