第24話 黒の影の軌跡 鳴りを顰めて

 それで……


 後に残ったのは黒い影。彼はまだガラスに写り続けている。教室の前にいるのだ。

 

 黒い影さんは、この後どうするんだろう?


 そんなことを考え出した矢先……



『——バンバン!』



 急に音が鳴った。たぶんだけど、ガラスの窓を軽く叩いたんだ。当然、私の意識はそこに吸い寄せられる。というよりは、おっかなビックリでビクッ——と驚いちゃっただけなんだけど。



「オイ。アイツは行ったぞ? 教室の中にいるんだろう? 悪いことは言わねぇから、サッサと夢から出ていけ……今日はもう大丈夫だろうからさ」



 これ……私に言ってるんだよね?


 声は相変わらず、汚い言葉使いだったけど……私のこと心配してくれてるんだ。


 でも……なんで? 


 そこに居るのは一体誰なんだろう。


 凄く、気になるけど——



「じゃぁな……」



——ッ!? 待ってよ!!



 私は叫んだ……


 とは言ったものの、声は出ない。気持ちの話。


 黒い影は最後にお別れを言うとスゥ——と消えていく。廊下を奥の方に歩いて行くように……

 私。それに気づくと走り出してた。

 どうしても、黒い影の正体を知りたくて……


 でも……



 ——ッ!? 居ない!?



 ガラッと扉を開いて、黒い影が消えていった方を見たけど……誰も居ない。透明人間にでもなったのか。まるで、はなから黒い影なんて存在していなかったように……

 しばらく、廊下の奥を見つめていたけど、影の軌跡はなりを顰め現れる素振りを見せない。依然として、夏の校舎の廊下があるだけだった。


 本当に……影は居たんだろうか?


 そんな疑問までも思い浮かぶ。だけど、ここは夢の中——何が起こったって仕方ないんだ。


 このままここに居たって仕方ない。

 

 ついに、そう思い至った私は、しょぼんと床板を一度だけ見つめて、踵を返していつもの脱出口を目指そうとした。


 そんな時——



「オイオイ。いつまでショボくれてやがったんだ? 考えることを放棄した単細胞か? 小娘!」


「——ッ!?」



 再びの突然の声——それは、私のすぐ近くで聞こえたの。

 びっくりして、キョロキョロと周りを探した。でも、周りには誰も居ない。



「プププ! なんだその挙動不審は、滑稽なダンスでも踊っているようだな? この俺様が見つけられないようで、キョドってんのか? 実に愉快〜♪」



 また近くから声がした。男の子のような声——でも、見つからない。凄くおかしな現象。脳がパニック。近くで声がするのに見つからない。


 それよりも……


 この声なんなの!? 凄く、ムカムカするの! 


 私の事を馬鹿にして笑ってる。絶対見つけてやるんだって……ムキになって探しちゃった。ちょうど、その時だ。



「——イテ!」



 私の足に何かがぶつかった。


 私は急いで視線を下に向けた。


 すると……



「オイ! 何するんだ小娘! フラフラしやがって、危ないだろうが!?」



 そこに居たのは——





——ふぁ〜〜〜〜あ!? ウサギさんだぁ〜〜〜〜♪




 可愛らしいピンクのウサギさんだったの。

  


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る