第22話 思い出そうとしてるんだ
「結菜ちゃんの記憶喪失だけど……詳しくは『解離性健忘』って言って、強いストレスが原因で、耐えがたい経験とか心的外傷が引き金となって発症する症状なの。多くのケースだと、数日から、数ヶ月で記憶が戻るモノなんだけど……」
——あ!? また、難しい話に戻った!!
(ぐぅぅ〜〜!)
そして、私の食欲という名の拒否反応が発動。
「結菜ちゃんの場合。もう2年半か……長い記憶の解離と、言葉を失っているって——結構、珍しい状態なんだけど……あ!? 別に症状が悪いって言ってるわけじゃないからね? 記憶の解離は『エピソード記憶障害』……つまり一部のエピソードを思い出せないだけだから、普段の生活には支障をきたさないだろうし……って……こう言ってしまうと無責任な言い方よね!? ごめんなさい!」
私、ブンブンと首を横に振った。
別に、喋れないこと、記憶がないことは本当に困ってないから浅見先生がそこまで気にすることはないからだ。
「——ッ!? ふふふ……ありがとう結菜ちゃん」
そして、私の挙動に一瞬驚いた表情を形成した浅見先生は、次の瞬間には、はにかむように笑ってた。先生にも笑顔でいてもらう方が私は嬉しい。
「——ごめんなさい。話が脱線してしまって。……で、結局のところだけど……『思い出せる』ってことは、『完全に記憶が無くなってしまった』ってこととイコールじゃないの。だからね、夢に出てくる風景や登場人物、そして出来事なんかは——その忘れてしまった記憶の中のモノだと思う」
なるほど……
だから、私は夢の出来事や場所、あの赤い靄の人物をまったく知らなかったんだ。だって、忘れちゃってる記憶なんだもん。
知るはずないよ。そんなの……
「そして、『何度も見る夢』には、強いメッセージが込められている——これは、もしかしたら結菜ちゃんは……無意識に思い出そうとしてるのかもしれないわね」
そうなのかな? 私……思い出そうとしてるんだ。その夢で……事件のこと?
「でも、無理して思い出すことはしないでいいのよ? 記憶と声を失うほどのエピソードだから……ゆっくりで良いから、声が戻る方法を一緒に探しましょう」
でも、やっぱり思い出さなくていいかな?
先生もこう言ってるし……
だってね。私は困ってないし!
辛い記憶なら、思い出さないに越したことないよね? 今でも十分、毎日楽しくママと一緒に毎日過ごしてるんだから……
むしろ、夢については憂鬱かな?
でも、大丈夫!!
私は今朝、夢を見ていなかった。だから、心配する必要はもうないよね?
うん! 一安心!!
って、思ってたんだけどね。
でも……その夜……
「…………」
私、あの毎日見ていた教室の風景に意気消沈。
もう見ないと思っていた夢を……また見てしまっている。
もう、最悪〜〜! なんで? 昨日は見なかったじゃん!!
『——ッカン!』
それに、廊下から響いてくるこの音も一緒……
——もう! 嫌!!
同じ夢を見ることには、強いメッセージがあるって浅見先生言ってたけど……一体、この夢は私に何を伝えたいの?
でも、怒ったって、落ち込んだって仕方ない。
まずは、逃げないと……
私は、いつもの席を立つ。今日は昨日に比べて恐怖は感じてなくて、お尻は思いのほか簡単に持ち上がった。
そういえばなんだけど……
隣の蝉さんの席だけど……壊れたままだった。
あらら……可哀想に……
と、そんなことはどうでもいいの。同情はしてあげたいけど……逃げることのほうが最優先——『カンッ!』って音は左の方から聞こえてくるから、右の方向に逃げれば……
と、その時——
——ッ!?
私の目に驚く光景が飛び込んできた。
教室の前に誰かいる!!??
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