第18話 私って実は……

 その夜——


 私はぐっすりと安眠することができた。


 というのも、あの『夢』を見なかったから。


 凄く緊張してベットに入ったのに。そのまま1時間ぐらい寝付けなかったんだから。あの緊張感を返してほしい気分だ。


 気がついたら……



 ——チュンチュン——


 「……ッ?!」



 スズメさんの合唱で目を覚ました。その時、私の目が捉えたのは木造校舎でも田舎の田園風景でもない。いつもの私の部屋の天井だった。

 私はムクっと上半身を起こす。

 そして、周りをいくら確認したって、あの学校ではない事実だけしか伝わってこない。


 その時——



「お〜〜い! ゆ〜い〜な〜! そろそろ、起きなさ〜い! 今日は病院に行く日なんだから!」


 (——ッ!? ママ!)



 扉の向こうからママの声が響いてくる。正確には階段下から2階を覗いて声を張ってるのだろうな。私、ピクッと反応して眠気がピュッと飛び起きた。早くしないとママ起こしに来ちゃうし、顔を洗ってこなくちゃいけない。


 今日は土曜日——それと、私の病院の日。


 ——急がないと……!


 私は、クローゼットから今日着る服を引っ張り出す。だって、着替えの準備だけはしておかないと。

 出して来たのは、お気に入りの白のワンピース。寝起きは上々で気分もいいから奥から出してきた。だって私……ついに、あの『夢』を見なかったんだよ。気分が良いのもわかるでしょう?


 ——さて……準備はOK! 完了だ!


 私はまず、顔を洗ってこないといけない。モタモタしてたらママが起こしに来て、怒られちゃうんだから。


 そして……


 顔を洗ったら、リビングに行ってこう言うの……

 『ママおはよう!』って——なんだか今日は言える気がする——だって気分が良いんだから!





 と——なんで私がこんな事を思うのかは……





 私——ある時から【声】が出せないんだ。




 失声病って言うんだって。


 だから、精密検査とカウンセリングで、定期的に病院に通ってる。



「では結菜ちゃん——本日のカウンセリング始めるわね?」



 この人は、私の担当のカウンセリングの先生。

 浅見先生——茶色短髪の女の先生。とっても優しい。趣味はシュノーケリングらしい。カウンセリングの途中で聞いた。どうでもいい情報。



「精密検査は問題ないわね? じゃあ、当たり障りのない質問からしていこうかしら? 学校は楽しい? 友達とは問題ない?」


[はい。もんだい。ないです!]



 学校では問題ないのだ。友達も私の症状を気にしないで話してくれるし。





『来た来た! 【寡言かげんの結菜】! おはよう!』

『おはよう結菜! 異名カッコいいねwww。【寡言の結菜】! 決めポーズして!』



 変な異名は付けられたけど……私もノリノリでキリッと——ポーズ決めちゃってるんだ。喋れないことに関しては意外と困ってないし、気にもしてない。だから、この友達の反応も案外悪くない。注目されてるみたいで意外と私は好きだった。


 てか、『寡言かげん』って……“口数が少ない”とか、“無口”って意味なんだけど……私、完全に喋れないんだけどな……


 これ、ツッコンだ方がいいのかな? ヤボかな?!


 






 

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