第16話 夢を振り返る 愉悦

 一体、私の見る夢はなんなんだろう? 


 

 私はこの夢を毎日見るようになって、もう半年以上が過ぎてしまった。



 知らない田舎の学校……



 知らないセーラー服……



 杉の木の下にいた奇妙な赤い靄……



 いつも、そこだけ開く脱出口勝手口……



 何一つとして、私の記憶にないモノ——最近知り合ったネットの友達は、ふと『夢』って記憶からできてるんだって言ってるのを聞いたことがあった。


 なら……



 私はなんで何も知らないんだろう?



 私の知ってる風景や知り合いなんて、何一つとして登場しないのにね。変だよね。

 それでも、私にとってなんの変哲もない『夢』に過ぎなかったんだ。



 だけど……



 ついに、このおかしな『夢』は狂気を露わにした。


 杉の下の赤い靄は、私を見つめて校舎に近づいてきた。


 毎晩……毎夜……ゆっくりと……淡々と……


 そして……





『——ガシャァアーーーーン!!!!』





 ついに、校舎に侵入してきた。


 大きく、長い鉈を持った。高身長の男(たぶん)。





 み ぃ つ け ぇ た ぁ あ ♪





 私を見つけた時のアイツ——笑ってた。モヤモヤで表情なんてわからないんだけど、あくまで感覚の話。



 ニタ〜〜って笑ってた気がする。



 それと……1つ気づいたことがあるんだ。



『——カン!』



 私、もしかしたら、あの音を知っている? あの音を聞いていた時にね。ふと、頭が痛くなったんだ。

 あの時、私の記憶には金属質な音、男の怯える声が響いてきた。

 これが『いつ』の記憶かも、なんでこんな記憶があるのかはわからない。


 だけど……


 夢の中では逃げてたから気づかなかったんだけど……


 あの記憶を思い起こすと……変な感覚を私が襲った。怖いとか、それは当然の感情としてあるんだけど……


 それはまったくの逆でね——





 ——私……『愉悦』を感じたんだ。





 ——気持ち悪いよね……





 凶器を打ち付ける金属音——は嫌いなはず。だって、私を追ってきた赤い靄はこれ見よがしに凶器をチラつかせてたんだもん。だから、わざとそれを打ちつけて、音を出してたんでしょう? 私が怯えるようにって……

 それに、頭痛の後にふと聞こえてきた怯える男の人の悲鳴——たぶん、その人も私と同じように逃げて怯えてたんだよ。その靄から……



 なのに……



 これに喜ぶなんて……私、変だよ。



 どうしちゃったんだろう。



 


 気持ち悪い。




 …………




 その時——ハッと気づいた。


 ずっと疑問を抱えて、それにばかり思考を裂いていたけど……


 ——そうだ……私、今——シャワーを浴びてたんだった。


 ザァァァ——!! と鼓膜に響き続けるシャワーの音は、一種のホワイトノイズ音のよう。視界には、長い髪を伝う水。それは荒れ狂う水滴となって浴室の床に絶えず流れ落ち、白く激しく弾けていた。


 私はこの事象をしばらく見続けてたみたい。


 ——のぼせちゃう……もう、出よう。


 そう決めて、浴室を後にする。





 本当に私、どれだけシャワーを浴びてたんだろう?





 替えの寝巻きに着替えて、生乾きの髪をバスタオルで拭きつつリビングへと戻る。



 すると……



『プルルルル〜〜♪』



 家の電話が鳴った。



 どうしよう。私、電話……



『——ピッ!』



 あれ……止まった?



「はい——もしもし?」



 ——あ!? ママの声——帰ってきてたんだ。







 




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る