第14話 み ぃ つ ぅ け ぇ た ぁ あ ♪

 ビックリして顔を引っ込めた。


 靄は廊下の奥の方。ここから離れたところにいて……かつ、私には気づいていないから、まだ気持ちは落ち着いていられる。


 ——正面入り口のガラス扉に……そしてセミさんの席はきっと、アレで壊したんだ。


 これ見よがしに長い刃の鉈。心なしか、黒く汚れている気がする。



 アレって……血じゃないよね? 



『——ッカン!』



 ——ッあ!? また、あの音だ。廊下の奥の方から響いてくる。


 私は今度はそぉ〜〜と廊下を覗く。



 『——カン!』



 この音は赤い靄が出していた。

 鉈の刀身を……水飲み場の金属パイプに——カン! とぶつけた。それも一定間隔で……今度はしばらく歩いて、消化器に——カン! とぶつけた。


 ——なんだろう? 一体何してるんだろうアレは??


 私を探してるんじゃないの? アレだと居場所をバラしているようなモノだけど……頭、悪いのかな??


 と、そんなことを思ってたら……



 ——ッ!? い、痛ッ!?



 私を頭痛が襲った。夢の中なのに可笑しな感覚。



 ——ッイタイ——ッイタイ——ッイタイ!!?? 


 

 なんなのこれ? 



 正直、感覚としか言えないんだけど、頭を締め付けるような不快感が私に降りかかった。


 その時——



〜〜〜〜〜〜



 ——ッカン!



 ——ッやめろ——くるな!!



 ——ッカン!



 ——ッヒィイ! くるな!! クソぉお!!



 ——ッカン!!



 ——ッくるなって!! ふざけんな!!!!



 ——ッカン!!!!



〜〜〜〜〜〜〜



 ——え?! 何これ??



 私の頭の中に、あの音が聞こえた。いや、たぶん『記憶』って言った方がいいのかな? それと……金属質の音に驚く男の声。だけど、その声が誰なのかはわからない。私の知ってる声じゃなかったのは確かだ。記憶にない。



 ——うん……ない。はず?





『——ッカン!』


「——ッ!?」



 廊下から響いてきた音で意識が引っ張られて、ハッ——とした。


 今、このことを考えたって仕方ない。まずは逃げよう。夢から覚めてからゆっくりと考えればいいんだから……

 勝手口は、ちょうど男の向かった方向とは反対の階段を降りたところ。そこの脇にある。


 ゆっくりと、音を立てないように、そっちの方角に向かおう。

 

 教室を出て、ゆっくり……ゆっくり……


 なんなら、靄を視界からはずさないように……


 ゆっくり……ゆっくり……


 

 …………ッ!? あ痛ッ!!??



 ドンッ——と尻餅をつく私……



『——カランカラン〜〜!』



 たまたま床に転がってた消化器に躓いたみたい。



 ……ッあ。



「——ッ!!??」



 ——やばい!! 見つかった!!









 み ぃ つ け ぇ た ぁ あ ♪










 ゆっくりと靄は振り返った。その時、表情は見えなかったけど、そいつはニタッて笑ったような気がしたの。



 ——早く逃げなきゃ!!??



 私は慌てて、起き上がった。この時、慌てすぎて上手く立ち上がれなくて時間のロス。



『——カン!!』



 力強い金属質の音が背後で鳴った。それは、まるで歓喜に震えるような。そんな力強い音がした。


 私は気になって背後を見る。靄はゆっくりと近づいて来ている。



 ——ヤバいッ! ヤバいッ!! ヤバい!!!!



 距離はまだ離れていたけど……ソイツの手にした凶器は、私から距離感を奪うのには十分だ。一目散に慌てて逃げる。

 後ろを振り返りながら。アイツ、最初はゆっくりとした動作だったけど……だんだんと小走りになって……



 「——ッ!!??」



 私を追って来ていた。


 私は逃げる。赤い靄から……


 その間——



『——カン!!』



 靄は、あの音を絶やさない。必死に前を向いて走っているんだけど、近づいてくるあの音は私に恐怖を与え、次第に大きく聞こえるようになる金属質の音に私の血の気が引く。


 だけど、階段まであと少し……いくら相手が身長の高い奴だって……距離は結構離れてた。

 あとは階段を降りて、周りこんでしまうだけ……問題はないはず。


 だけど……



「——ッ!!??」



 私は階段で転んだ。数段を滑るように転び落ちてしまった。お尻を段差で擦ってしまう。



 ——アイタタ〜〜!!!!


 実際、痛みはないんだけど……凄く痛かった気がした。


 でも……



『——カン!!!!』


「——ッ!!??」



 すぐ真上で音が鳴る。これで痛いなんて感情は一瞬でどっかへ行ってしまった。


 あとは……その通路に入って、扉を開けるだけ——


 私は、狭い通路へ飛び込んで扉を開けた。


 



 







 

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