第13話 ぷんぷん! 私 怒ったもん!

 ……カツカツカツカツ……



『——ガラッ!』



 カツカツ……カツカツ……ッッ……





 ……い、行ったのかな? 



 足音は離れていった。


 

 気配は無くなったけど……もう、大丈夫かな?



 教卓から這って出る。すると、教室を見渡すとアイツは居なかった。


 ——行ったみたい! ういしょっと!


 ここでようやく私は立ち上がった。

 ぱッぱッ——と、スカートの埃を払って、ぴょん——と跳ねてみる。ウサギみたいにね♪

 だって、それぐらい嬉しかったんだ。一難去って、安心した……と言えば良いのかな? 空元気? いやいや……この時の私はすっかり元気を取り戻してたよ。それほど『一安心』って気が楽になるんだって初めて知ったよ。


 ——ふぅ〜〜……


 私は長く息を吐き出した。これでもかってほど、肺の中の空気を全部出しちゃえ! ってぐらいに……


 ——すぅ〜〜……


 そして、思いっきり息を吸う。深呼吸ってやつだ。もう吸えないよ〜〜ってほど息を吸った。


 ——フンッ!!


 最後は、鼻から思いっきり息を出した。


 ——これで、準備OK! 


 なんの準備かって? それは、この夢から覚めるためのだよ。ここで怯えてたって仕方がないからね。


 ——だってムカつかない!!


 さっきまでは本当に怖かったんだけど……安心したらムカムカしてきたの! 寝不足なのもいけないのかな?


 ——あ? 今は夢の中だから寝てるんだった。


 今からは私の反撃! どうせ、音を出してた正体は、赤い靄だ。絶対、そう! 

 あ〜〜ぷんぷんする! もう、あの訳の分からない赤いモヤモヤなんかに怯えてあげないもん!! ガンガンうるさいだけだよ。あんなの!! 


 ——もう、◯ック——って呼んじゃうもん! “◯ック”のバーカだ!!


 ふぅ〜〜文句も出たらスッキリした。さて、早くここから逃げ出さなくちゃ! 


 まずは観察から——周りを見回す。いつもの教室。だけど違う点があった。まず教室の扉開けっぱなし。まったく、アイツはマナーがダメダメね! ちゃんと扉は閉めなきゃダメでしょう?! 


 それと……



「…………」



 セミさんの席が粉々……可哀想に……


 硬い杭でも打ち込んだのかな——ってほど、机の真ん中が凹んでた。

 たぶん、さっきの大きな音はこれが原因だね。◯ックの逆鱗に触れるとはセミさん恐ろしい奴。

 あとは……周辺の机が傾いてごちゃごちゃしただけで、これといった変化は無いみたい……それじゃ、今度はアイツがどこに行ったかだけど。


 私は教室の扉の開ける音を聞いた……それも2回。1度目は近くから、2度目は遠く。

 おそらくアイツは、教室の手前の扉から入ってセミさんの机を壊し……そのまま後ろの扉から出てったんだと思う。私は教卓の中にいたからまず間違いないと思う。


 恐る恐る……手前の扉から廊下を覗く。


 後ろの扉から出たってことは、そっちの方向に向かったのかな〜〜? と思ったから手前から覗いた。後ろからなんて覗かない。もしかしたらアイツは扉の近くに居るかもしれないから。


 ——ヒョコッと! …………ッ!?


 ピュッ——と、顔を引っ込める。


 ——いたッいたッ居た〜〜!? アイツ——赤いモヤモヤ!!


 廊下の奥の方に居る。一瞬だったけど、確かにそこで見た。ゆっくりとした動きで奥の階段の方に歩いて行ってる。こっちを見てなかった。これはチャンスだ。


 ——ヒョコっと——!


 もう一度、覗いて見る。今度はしっかりと観察する。


 …………ッッッ!!?? ——ピュピュッと!! 脱兎の如く顔を引っ込める。


 というのも……私、今度はとんでもないモノ見ちゃった。

 アイツ——赤い靄がかかってて、その正体はまったくわからないんだけど……輪郭は辛うじて人だってわかるんだ。背が高いからおそらく男の人。


 でね……アイツ……


 手に……


 長い、鉈のようなモノを持ってた。

 

 

 



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