第8話 近づいてきてる?

 またまたまた次の日——



 赤い靄は確実に杉の木から離れている。



 昨日はまだ影に近い位置だったのに……









 またまたまたまた次の日——



 杉の木からさらに離れてる。


 真夏の太陽の光に焼かれ、それは当初木の袂に居たことを忘れさせた。









 何日か経った——



 相変わらず私は毎日同じ夢を見ている。


 あの赤い靄は、とうとう校庭の真ん中まで到達していた。ここまでくると動いてないなんて否定できない。

 いや、本当はもっと前から動いてたなんて分かっていた。


 だけど……


 ——怖いの。


 何故かアレがとっても怖いモノだって……そんな気がしたの。


 毎日見るこの夢。アレが動いているんだって信じたくなくて、窓の外に視線を向けない日だってあった。


 だけど……





 ——ッあ。




 その日はね。つい見ちゃったんだ。


 最初はちょっと探しちゃってた。だって、赤い靄は既に杉の木から離れちゃってたから。まさか校庭の真ん中にいるなんて思いもしなかった。


 でね……


 1つ気づいちゃったんだ。


 アレが一体どこを目指しているのかって……


 杉の木を指さしてみる。でもここは教室だから、そんなことをしたって指は窓ガラスをポンと抑えるだけ。


 だけどそこから……


 窓ガラスを一枚の風景を切り取った絵画だとして……ガラス絵画の表面をスススって——なぞって赤い靄まで進める。私はそれを指先で隠す。

 人差し指をそこで止めて、一拍置いてから同じ方向をなぞり続ける。ついには窓枠に到達しちゃった。


 だけど……


 もし、そのままなぞり続けたとしたら……? その先は一階にあるとある場所に到達するの。確かそこは学校の入り口。正面玄関。



 ——ッ!?



 ヒヤッとした。咄嗟に窓から離れた。この時、机の足に踵を引っ掛けちゃって、尻餅ついて転んじゃった。夢だから痛くはなかったけど、「イタタ〜」って思わずお尻をさすってた。


 たぶん、あの靄は校舎を目指しているんだって……気づいたんだ。この瞬間。



 私は、張って行って窓辺を目指した。それでそぉ〜〜とまた外を覗く。



 ——ッヒィ!?



 だけどすぐ頭を引っ込める。だって、やっぱり視線を感じる。夢を見続けるようになってから感じるおかしな視線。やっぱりあの靄からだ。



 だけど今は……





 笑った気がした。





 あの靄が笑ったの……これじゃあ、まるで……









 気づいちゃった?








 そう、言われてるように……





 錯覚した。


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