第4話 勝負服よし♪ 秘密兵器よし♪

 夜に向けて、私は準備を整える。



 ママが用意してくれたオムライスをチンして頬張り——デザートのプリンで喉を鳴らす。

 あったかお風呂にゆっくり浸かって、お気に入りの寝巻きは勝負服! 汗をかいてもいいように、2着用意した。


 ——パジャマ良し!


 ——ベットのコンディション良し!


 ——ぬいぐるみ良し!


 ——気分良し! 


 ——ムロ◯ヨシ!


 と、私の準備はOKであります軍曹!!


 私は、真剣な眼差しでベット横の相棒——ウサギのぬいぐるみに敬礼をした。

 準備は全て整った。あとは秘密兵器の登場だ!


 ——タッタラ〜〜♪ アロマキャンドル〜〜♪


 ママに我儘を言って買ってもらったの。お花の香りがするピンク色のキャンドル。小さくて、とっても可愛いらしい!

 よく眠れるように、お部屋をフロ〜ラルな香りで充すんだ。

 それと、お守りも用意した。『ビバ安眠♪』と書かれた、効くようで効かないけど時々効果を発揮する気がするとSNSで話題のお守り。

 別にふざけてないよ? 私は真面目。こんなお守りでも無いよりはあった方がマシなはず。

 友達が「御守り送ったよ(笑)」と、せっかく送ってくれたんだから無碍むげにはできないでしょう?


 それではまず、アロマキャンドルに火を灯しましょう!





「…………」




 う〜〜ん? ちょっと想像してたのと違う。

 火を付けたのはいいけど……なんだろうコレ? 

 部屋に一個だけキャンドルを灯すのって変な感じがする。 なんか不気味。

 色もね——明かるいとこだとピンクなんだけど、薄暗い部屋に仄かな灯火の所為で赤く見えるんだ。蝋の部分が……

 なにか、部族の特殊な儀式を開催するような気分。


 ——う〜〜ん?


 それに、お花の香りが強すぎて……むしろ臭い。こんなんじゃ集中して睡眠なんてできないよ。

 フッ——と息をかけて、ものの10秒ちょっとで火を消しちゃった。

 秘密兵器……この時点でコイツは役目をまっとうした。君の活躍は忘れないよ。

 勿体無いし、パパの仏壇にでも置いておこう。アロマキャンドルだって、蝋燭だもん。1個ぐらいピンクで派手な蝋燭があってもパパなら許してくれるはず。


 それよりも……



 ——ふわぁ〜〜……眠い。


 

 寝るのが怖くてもね。睡魔には勝てない。

 昨日だって、飛び起きてから友達に連絡して長いメールのやり取りしちゃったから眠いんだ。ちなみに、友達ってのは大人のお姉さん。夜のお仕事をしてるらしくて、深夜でもメールをすると返してくれるの。あっちからもメールが飛んでくることもあるんだよ。

 それで……勉強机の上に立てかけてあるタブレットを一瞬覗いてみたけど……通知は無し。

 それを確認すると私は、覚悟を決めてベットに入る。

 あまり、毎日メールを送ると迷惑かなって思ったから今日はやめておこう。

 流石に暗すぎると怖いから、ベット脇に置いた小さなランプ型のライトの明かりをつけたまま寝よう。これもまた……私のお気に入りなんだ。ガラスのところにウサギの模様があってね。部屋を暗くしてランプをつけると、ウサギさんが天井を駆けるように写しだされるの! すっごく可愛い!! 毎日の夢の中での追いかけっこも……ウサギさんの姿を見て勇気をもらってるのか。早く逃げられる気がするんだ。


 ——お願いウサギさん……今日も私を応援してね♪


 そして、ぬいぐるみを抱きしめたら寝る準備の完了。


 天井を仰ぐ。そこではウサギの姿……それを捉えるや否や——私はゆっくりと瞼を閉じるの。


 ——今日は大丈夫かな?


 ——もしかしたら夢を見ずに済むなんてないかな?


 ——逃げられるかな?


 そんな思考を巡らせてるうち……私は瞼の裏の暗闇に意識が奪われていく。


 はずである……





 …………





 目を開ける。


 そこには、天井の脱兎の姿はない。


 緑の黒板——


 あぁ……私はまた、無情にもこの『夢』を見ているんだ。




 知らない学校で……何かに追われる『夢』を……


 

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