第2話 ママを見送る私の手『いってらっしゃい』と呟いた

「うんうん……はい、もう少しで出ます。お義母さん。ええ……分かりました。え? 唯菜ですか? 唯菜はまだ安静だと言われてますので、今日はお留守番させます。はい、ご心配おかけします」



 私は部屋から出て1階に降りた。


 リビングの扉の前まで来ると、ママの声が聞こえてきた。たぶん、お祖母ちゃんと電話で話してるんだと思う。

 お留守番って言ってるけど、私まだ何も聞いてないな。ママ何処かに出かけるのかな?



「——ッ! あら、唯菜。起きていたの?」



 扉の前で少し考え込んでいたら、ガチャッとその扉が空いた。

 ビックリして後退ると、ママが顔をのぞかせる。その顔は、私が起きていることに驚いているみたい。深夜に友達とメールのやり取りしてたから驚いたのかな? 私は眠る事が怖いから、昨日も学校の勝手口から逃げ出して、それから一睡もしてない。だから寝不足。

 この時のママの質問には、1つコクリと頷くことで返事を返す。私にはから反応はこれ1つしか選択になかったの。



「唯菜ごめんなさい。ママ……これから出かけなくては行けないの」



 ママも私のこの反応は分かってたみたい。すかさず言いたい事を捲し立て始める。



「今日は帰って来るのが遅くなるから。リビングのテーブルに書き置きはしておいたけど、ご飯は作り置きが冷蔵庫にあるからチンして食べてね。プリンも入ってるから食べていいわよ」



 ——ヤッタ! プリン! 


 じゃなくて、ママ今日帰り遅いんだ。



「あ! ごめんなさい。新幹線の時間に間に合わなくなっちゃうからもう行くわね。もし、何かあたらメールしてちょうだい」



 私はまた、コクリと頷く。


 ママはこれを確認すると、玄関に向かう。



「じゃあ、行ってきます」


(いってらっしゃい)



 私は心の中でそう呟くと、小さく手を振ってママを見送る。


 そして……


 ママが玄関のドアノブに手をかけ、扉が開かれる。



 「ミ〜ン、ミ〜ン、ミ〜ン!」



 セミが鳴いていた。うっとおしいぐらいに……


 この時、建物に侵入してくる陽光は、眩しく、外はとても暑そう。

 なのに今日のママの服装は真っ黒だ。お祖母ちゃんにも、家を出るって言っていたみたいだけど、一体何の用事なんだろう?


 そうこうしているうちに、ママは外に出て、重く重厚な玄関口の扉は真夏の煌々とするお日様の光を切って……


 室内は私だけを残して……



『——ガチャン!』



 と……閉じてしまった。

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