寡言《かげん》の結菜〜〜毎日見る『夢』と鎌を無くした死神さんのお話〜〜

バゑサミコ酢

第1話 毎日、同じ『夢』を見る

 私……『夢』を見るんだ。



 知らない人に校舎で追いかけられる『夢』——



 それも毎日……







「えぇ〜〜“ユナ”。何それ……怖!? 学校って“ユナ”の学校?」



 ううん……全然知らない学校。

 木製の古い感じの……



「田舎の学校? ユナは、そんなところ行ったことあんの?」



 ない……



「夢って、本人のからできてるんでしょう? ははは……変なの! っで、誰に追われてるの!? イケメン!!」



 分からない。



「……? 分からない?」



 人だと思うんだけど……

 輪郭がボヤけてよく分からなくて。

 それに……



「……それに?」



 赤いの……



「——赤い??」



 うん。全身が赤いの……

 で、決まって見つかると追いかけてくるんだ。

 私、それで怖くなって……すぐ逃げちゃうから……

 あまり良くは観察してないんだけど。



「うわぁ〜〜怖い系の夢だ。全身血塗れの幽霊に追いかけ回されんの? うわ、やだぁ〜〜で、それが……」



 毎日……



「……ご愁傷様ですw」



 ——もう!!

 他人事だと思って笑わないでよ! 

 毎日、これに所為で寝不足なんだから!!



「ごめんごめんって——で、捕まったことはあるの?」



 ……ない。



「ユナ、逃げ足速いんだ」



 …………



「べ、別に悪い意味で言ってないからね!? ……続けて!」



 いつも、決まって校舎の一番端……

 同じところから逃げ出すの。

 小さな勝手口から。

 そこで、目が覚める。

 すると、全身びしょ濡れで……

 暑いわけじゃないのにね。

 これが冷や汗なんだってすぐ分かる。

 全身は金縛りにあったように硬直して、脈打ってる。

『夢』の中の恐怖が、こんなにも現実に影響するなんて……

 今まで思ったこともなかった。



「ふぅ〜〜ん? それ、実際捕まるとどうなるんだろうね?」



 …………



「でも、毎日逃走成功してるんならいいんじゃないの? そろそろ、逃げ方にも慣れたでしょう?」



 ……違う。



「……違う?」



 最近、追い詰められてるのは私の方——



「……え?」



 だんだん……だんだん……詰めて来てる。



「…………」



 昨日なんか、ギリギリだった。

 確かに私も、逃げるのは慣れて来た。

 校舎の造りだって覚えてきてるから。


 けど……


 それは、相手も同じ……

 相手も、獲物の追い詰め方を覚えて来てる。

 昨日、私が何処から逃げ出してるのかを……見られた。

 触れられそうになった。捕まりそうになった。

 今晩は絶対——絶対ッ——脱出口は見張られてる。

 もう、無理なの! 今日は、絶対捕まっちゃう!!

 わ、私——怖いの!!

 逃げたい。でも、逃げれない。

 今日が大丈夫でも明日は!? 

 毎日同じ夢を見るだよ? 

 明後日、明々後日……



 いつまで経っても、終わらないの!?



 そう……毎日毎日毎日——ッ毎日!!!!



「…………あ〜〜っと、まぁ気にすんな——とは、無責任すぎるか? 大丈夫……? も、あれだな……これ、何を言ったところで他人事だよね? う〜ん、えっと……ユナ、気にし過ぎじゃないか? もしかしたら、その夢は昨日が最後だったかもしれないだろう? それに、その何者かが——頭の良い奴だとも限らないし。捕まったとしても……実際に殺されてしまうってこともないでしょう。だって……夢……なんだからさ」






 友達にありのままを相談した。







 私……『夢』を見るんだって……



 毎日、毎日……毎日……毎日……



 赤い何かが追って来る『夢』——


 でも、結局それは『夢』の話なんだ。

 私にとって、友達の反応は無責任そのものであったけど……その反応も当たり前だ。



 だって……『夢』なんだもん。



 いつものように……校舎の勝手口から逃げ出せば、目が覚める。少し変な『夢』に過ぎない。

 例え、捕まってしまったとしても……「はい! 残念でした♪」で、目が覚めるかもしれない『夢』……



「『夢』なんだから大丈夫!!」



 友達の最後の一言。力強くも、根拠のない鼓舞の言葉。

 でも、唯一……心配してくれているのだとは分かるんだ。

 無責任ではあるけどね。

 だから、今晩——私は再び『夢』を見る。

 相談しなかった時に比べれば……まだ勇気が湧く。

 今日も無事逃げて見せよう。

 勝手口から出れば……また私は夢から覚めるんだから。



 なんの問題もない。



 と——



 思っていたんだ私は……


 


 










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