第伍話 ~遭遇~

 確かに、あの魔力を正確に出せなくなった状況でやるには、ランダムワープは効果的だが、この魔法の欠点は周りの敵味方関係無く、しかも名前の通りの性能なので、合流が凄く難しい点や、良い方で海の真ん中、最悪は地中の中にワープしてしまう可能性がある事が挙げられる。

 俺は運良くそのどちらとも当てはまらないが、どうやら広大な草原にワープをさせられたらしい、周りに建造物も見当たらないし、目印としたらあの大きな森だけ、この状態でどこに行ったかも分からないメディスンさんと合流するのは至難の業だ。


 さて、どうしたものか、このままあてもなく歩いても良いが、本当に周りに何もなかったことを考えて……いや、あてもなく歩くしかないな、こういう時はそれが一番なのかもしれない、だが、この身体だと一度進むのに限度があるな、最悪このエリクサーを使うしかないが五本しかない分、敵が何人いるか分からない時点ではあまり使いたくない、温存しておくのが吉だな。

 とりあえずはあの大きな森を目指して歩くとして、それからは慎重に動こう、魔物が潜んでいるかもしれないからな。


 しかしこの草原は何もないな、ただ平坦な緑の地平線が横に引かれているだけだ。

 そこに山も川も無くただ風が吹き草が靡くだけの場所は、日本にはあまりないだろうな、それこそ隅々まで探索されて工業化やビルが建築された場所、まさにコンクリートジャングルばかりで、もう日本の原風景というのは、保全を目的に建築規制が敷かれた場所程度だろうな。

 風が気持ち良い、こんなことしている場合では無いが、束の間の休憩をしないと持つモノも持たない、そう思っている間に森の入り口に着いた。


 当たり前だが整備されていない森は、もはや人の歩ける場所ではない、所々平坦な場所があるが、木の根が地面の上まで侵食しており、デコボコ道が続く険しいところだ。

 遠征の時もこういう道が多く、馬車で運行している際には回り道をしなくてはいけなくなるので、いつも仲間と険しい道が来ないよう祈ってたっけな、それでも祈りはむなしく、自然はただただ俺達に驚異を見せつけて来るだけだった。


 あの十年間は特に景色を眺めたりする余裕は無かったな、不自然に整備された道と言うのも盗賊やら何かが現れたり必至だった。

 ヴィルは「俺だけ周囲の探知だから頭が疲れる」ってな感じでいつも頭を抱えていたな、あぁ……懐かしいや。


「そこの人間!止まりなさい!」


 突然周囲から女の声が発せられた、辺りを見回すが誰も見えない、どこにいる?


「誰だ!?」


「今私はあなたを弓で狙っているわ!妙な真似をしたら、どうなるか分かるわよね?」


 この状況で動く馬鹿はいないだろう。

 黙って撃ち抜く事をしなかったから、きっと相手も対話を望んでいるはず、まだ打開は出来るはずだ。


「と、とりあえず話し合おう!俺は君を傷付ける気は無い!」


「私達を傷付ける人間は皆そう言うのよ!アナタどうせガルガンヴィーの手先でしょ!?」


 確かに俺が彼女の立場だったら、見慣れない男がいたら警戒するのもやむなしだ、どうにかして警戒を解かないとダメだな。


「それなら、どうやって俺が危険じゃないと見分ける?」


「そこに手を股に挟んでうつ伏せになりなさい!」


「なるほど!だが、もし俺が一人じゃなかったら?」


 確かに彼女に取って俺は危険人物なのだろう、だが俺に取ってもそれは変わりない、どうする……従うか?それとも、いや俺が勝てる相手じゃない、大人しく従うか。


「いや、試して悪かった。気にしないでくれ、従うよ!」


「分かれば良いのよ!今そっちに行くわ!」


 俺は弓の女の子の指示にしたがい、手を股に挟みうつ伏せになった。


「バインド」


 なるほど、対象を縛る魔法……ここからどう拘束するのか疑問に思ったが、これなら抵抗されても俺が傷付くだけだ。


「分かっていると思うけど、抵抗してもアナタが傷付くだけよ」


「分かっている。だが、一つ聞きたい」


「なに?手短に頼むわ」


「俺は今からどこに連れていかれる?」


「危険な所じゃないわ。私達が暮らしている村に連れて行って、村長に話をしに行くだけ、別にアナタをとって食ったりするわけじゃないわ。まぁ私の先祖はしてたみたいだけれどね、それも300年前の話よ」


「脅さないでくれ」


「あら、恐くなっちゃった?それにしても、アナタイェルフ語が達者ね」


 イェルフ語……なるほど、あの世界で言う所のエルフか、ファンタジー系では定番の部族ではあるが、この世界に来て一度も見た事が無かった。

 確か名前の最初にエルを付けるのがしきたりだった気がする。

 言語が分かるのはきっと召喚者特有のあれだな。


「いや、まぁ勇者の力の一端だ」


「ふふ、それが本当ならもう私を殺しているでしょう?」


「今は力を使い過ぎて身体がボロボロなんだ。勘弁してくれ」


「村に着いたわ」


 視点が下だから地面しか見えないが、遠くから話し声が聞こえたりしている。


「またエルフィーラが人間を連れてきたみたいだわ。村長の娘だからって良いとこ見せたいんだわきっと」


「きっとガルガンヴィ―よ」


「あの野蛮な連中か。最近来なかったが、どうやら別の国の若者をスパイにする気だな」


「な、なんか色々言われているが、ガルガンヴィーってのは何者だ?」


「ガルガンヴィーは私達と少し前まで抗争してた部族よ。草原の向こうにいる奴ら……ていうかアナタその方向から来たのに何も知らないわけ?」


「信じられないと思うが、俺はワープして来たんだ。アイアンウッドって国知ってるか?」


「ワープゥ?アナタは結構冗談を言う人なのね。この村じゃとっくに失われた魔法だわ、それにアイアンウッド……こっちはよく分からないわね。村長に聞いたら早いわよ、あの方はここら辺の地形をほとんど網羅しているもの」


「村長ってのはどんな感じのひ、エルフなんだ?」


 危ない、人と言うとこだった……話にしか聞いたこと無いが、エルフは人と呼ばれるのが嫌いって聞いたからな、ここで怒らせたらマズいかもしれない。


「こんな感じのエルフよ」


「ぐ……もう少し優しく置いてくれ」


「こんにちは、旅の人」


「こ、こんにちは……村長さん」


 床に仰向けに転がった状態だと、上側に村長さんがいて凄く見にくいんだが、無理やり首をその方向に向けて見ると、そこには白いローブを着て腰が曲がった、しわくちゃのおじいちゃんという、ザ村長みたいなエルフが立っていた。


「旅の人よ。名はなんという」


「春英です」


「春英か。わしの名前はエルフィール、知っての通りこの村で村長をやっている。そこのエルフィーラはわしの娘じゃ」


どうやらエルフィーラとエルフィールは親子同士の様だ、だが普通親が村長をやっていたとしても、村長とそのままで呼ぶことは無いと思うんだけど……


「ふむ、エルフィーラ。バインドを外してやってあげなさい」


「分かったわ。解除」


「はぁ……外してくれてありがとうございます」


「村長がそう言うならいつでも外してあげるわ」


「俺またバインドされるんですか?」


「そんな事は無い。わしが危険と判断したならば、即座にお主の首を刎ねる。故にその次は訪れん」


「で、どうです俺は」


「ふむ、抵抗の意思はないようだが、何か持っているな。エルフィーラ、旅の人の腰に下げた袋をこちらへ」


「ちょ、それは!」


「ふむ、エリクサーか」


「知ってるんですか?村長」


「グランフェルツ人が作り出した秘薬だ。なぜお主が持っている?」


「ある人から貰った」


「それが本当ならば、そのある人からはかなり信頼されているようだが」


「そんなことない。ただ俺が計画に必要だっただけですよ」


「計画?ぼかさずはっきり話しなさい」


「これ、エルフィーラやめないか」


「すいません、ただ」


「分かっている。旅の人よ、ゆっくりで良いからわしに話してくれないか?」


「分かりました」


 そして俺はその計画を話すと、にわかには信じられないような顔をされた。

 まぁ誰だってそうだ、森で彷徨ってた怪しい奴が、魔王を倒す計画の中心人物なんて言ったら、到底信じられないさ。


「ふむ、にわかには信じられないが、メディスンと言ったか。それは昔この村を救った人間と同じ名前をしている。そして、この名は表に出したことがない、つまり事実なのだろうな」


「それだけで信用するのはちょっと」


「いやなに、どうせこの村には不本意にも、ガルガンヴィーの襲来で鍛えられた村エルフ達がいる。わしのこの目で見た限り春英の身体はかなりボロボロだ」


「一応私がつくわ。何か怪しい動きをしたら分かってるわよね?」


「あぁ、抵抗はしない」


 どうやら警戒をいくらかは解いてくれた様子、だが完全には信用するのはまだ時期尚早な様子で、少しの警戒心は残っているようだ。

 まぁこちらとしても完全に信用されたら、それはそれでこのエルフ達が怪しく見える、これくらいの距離感が丁度良いのかもしれない。


 こうしてエルフの村に辿り着いた俺は、今日の所は泊ってってくれと村長に言われたので、村長宅の一室を借りることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る