第肆話 ~計画開始~
と、言ってみたものの俺に計画など無い、そして三代目・六代目・九代目と何人もの魔王と戦った事があるという、半ば信じられない事を言いながら、メディスンさんは計画を話し始める、その大まかな内容はこうだ。
まずはこの国から出る、どうやら魔王周辺の村々や前哨基地は、既にエスファン肆よって取り込まれており、この国にもその手が迫っているとの事、そしてエスファンが使う洗脳の魔法には感染性があるらしく、洗脳された人から洗脳された人へとそれは拡大していく、いわばウイルスのような魔法らしい。
エスファンは、文献上一番最初にこの世界に誕生した魔王と似たような手口と能力を使うらしく、メディスンさん曰く、エスファンはその魔王の生まれ変わりなのではないかと考えているらしく、と言うのもメディスンさんも一番最初に召喚された人で、そこから実際に何度も生まれ変わりをへて、元々は日本人だったのだが、今は日本人によく似たグランフェルツ人に生まれ変わり、エリクサーはその村で秘薬として言い伝えられて来たモノだと言う。
そして同様にエスファンからの被害にあった人達や、魔王によって長年苦しめられて来た人が既に準備を進めていて、元々あったメディスンさんの店の荷物と孫はそんな人たちが集まる拠点に移動しているらしく、計画は俺を引き込んだら始まるという手筈になっていた。
「そもそもなんで俺を引き込んで計画がスタートするんですか?」
「そうじゃな、それは勇者の力を持っている奴はお主しかもうおらんのじゃ」
「え、楽治も勇者だよな?あとメディスンさんも召喚者ということだから、勇者の力を持っているのでは?」
「俺にはもう力が無い。以前仲間と戦った時に奪われたんだ」
「確かに勇者の力は引き継がれるというが、わしは四回目の人生の際にこれまでとは違う強さの魔王に殺されて、その能力を奪われたんじゃ」
「……奪われたって事は」
「そうじゃ。相手にわしらの勇者の力を使う奴がいるやもしれん」
勇者の力は人それぞれであり、楽治の能力は姿を消す能力であり、能力を奪われた現在はその残滓を使って能力を使っているので、段々とその効力が薄まってきている現状だそうだ。
メディスンさんの方も、元々は全てを均す能力(例えば相手の魔力と自分の魔力を合計し均して分け与え平等にしたりする能力)を持っていたが奪われ、その残滓ですら使い果たし、完全に無能力者となっていた。
「なるほど、わかりました。では、まずはこの国を出ましょう」
「いや、もう数日様子を見る」
「春英にはスパイをやってもらおうと思ってな」
「スパイ?」
そんなの楽治がやれば……
「そうだ。エスファンの動向を探って欲しい……俺も探っていたが、身近で、それも本人から話を聞ける奴は春英、お前しかいない」
「…………分かった、引き受けよう。きっと仲間を取り戻すのに必要な情報なんだろ?やるよ」
「万が一お前がエスファンに取り込まれたら計画が破綻する。それを考慮して常にお前の周りには俺がついてるから安心しろ。まぁ一度負けた俺を信用しろってのは難しいと思うがな」
確かに楽治は一度負けたが、剣の腕は確かにある、信用には足りる。
「それとこの玉を渡しておく」
「これはなんだ?」
楽治から渡された『玉』は藁が編み込まれて玉を成しており、隙間からは紫色の魔石が見え隠れしている。
「もう一つは俺が持っている。もし身の危険を感じたらすぐにこの玉に魔力を込めてくれ、そうしたら俺のほうも光る仕組みになっている」
「分かった。助かるよ」
「わしからはこれじゃ」
「さっきのエリクサー?」
「いや、これはそのエリクサーを何倍にも薄めたものじゃ。これならば呪いは発動しない、当たり前じゃが効果は薄めた分だけ減っておる。じゃが、お主の能力の酷使のせいで、現在進行形で失い掛けている五感の侵食は止められる」
「ありがとうメディスンさん、楽治」
「それじゃあ春英は拠点に戻ってくれ」
!
さて、拠点に帰ると言っても、帰った時にエスファンがいたら、絶対手ぶらで帰って来た俺を怪しむな……ならば当初の予定通り道具屋を見つけるしかない。
だけど、ここら辺の道具屋は軒並み閉まっていたんだよな。
どうする……他の作戦を考えるか、いや……
『おい、何をやっている?』
「うわっ!?楽治!?どこだ?」
『玉から話し掛けている』
「通信機も兼ねてるのか……そういうのは先に言ってくれよ」
『すまん、まぁ通信範囲は狭いがな』
「そうだ。そのまま帰ったら怪しまれるかなって思ってさ、それで当初の目的通りにサプライズ用品を道具屋で買おうとしたけど、道具屋が軒並み閉まってて……なにか良い案ないか?」
『そうだな……別にサプライズ用品に執着しなくても良いんじゃないか?』
「と、言うと?」
『例えば花屋の花とか、武器屋とかはまだ開いてたな」
「花~?武器~?」
『お前めんどくさいな』
「ごめんごめん」
『こんな会話するよりも、怪しまれるのを覚悟で戻ったら良い。きっとエスファンはまだ春英が気付いていないと思ってる。なぜかって?帰って来た時に対応したお前は、事件の内容を知らないお前だ、そうなればなにも怪しい素振りが無かったお前に、エスファンはすっかり騙されているはずだ』
「なるほど、わかったよ。戻ってみる」
『それと、拠点内ではあまりこれを使うなよ。一応魔力を使って会話してるんだ、その魔力に気付かれて辿られたらバレる』
!
拠点に着いたのは良いが、やはりエスファンにバレてないか心配だな、まぁここでぐずぐずしてると勘付かれる可能性がある、ささっと拠点に入ってアイツらがいたら誤魔化すくらいの意気じゃないとエスファンには勝てない。
「やぁ、遅かったじゃないか」
エスファン……!いや、ここは平常心だ。
だが、コイツが俺の仲間達を乗っ取ったんだぞ?落ち着いてられるかよ。
あぁ、ダメだまだ頭の中で整理が付いてない。
「どうしたんだい?顔色が悪そうだけど」
「あ、あぁいや、何でもない。目的の物が買えなかっただけだ」
「あぁサプライズ用品の事ね」
「そうだ」
コイツ、なんで俺がサプライズ用品を買おうとしてたのを知っている?話していないはずだが、まさか……付けられてた?マズい、玉に魔力を込めないとやられ――
「魔力を込めても意味ないよ。楽治は死んだ」
嘘だろ……いや、はったりだ。
そうやって楽治を呼ばせないようにしているだけ……!
「この顔に見覚えは?」
「楽治!」
くそ、生首を見せつけて来るなんて趣味が悪すぎる。
しかし楽治が本当にやられているとは、ここは分が悪すぎる一旦逃げる!
「しかし能力が無い勇者ってはこんなにも弱いのか、バレバレなのに隠れてる気になってた楽治には吹き出しそうになったよ。能力の残滓程度の隠密なんて、こっちからしたら隠れてないのと同じさ」
「なぜこんな事をする?」
「こちらも勝ちたいからね、卑怯と呼ばれる手は幾度となく使ったよ」
コイツ、余裕だからってべらべら喋りやがって……だがこれはチャンスだ。
油断を狩ってここから逃げ出す、それをする為にはもう少し会話が必要か?
「だが、人類側も卑怯だねぇ。召喚術、別の世界の人間を強制的にワープさせる魔法、いや~これが生み出されてから魔王側は負けばかり、そんな中召喚されたのが僕さ」
「お前も召喚者?」
「そうさ。何も召喚術が人類の専売特許とは限らない……そして更に、僕は元々この世界の魔王だ。あの時はジジイに辛酸を舐めさせられたが、今回は僕の勝ちかもね佐久郎……いや、メディスン」
「春英!わしに掴まれ!」
「メディスンさん!」
「ここからワープする!」
「させるか!『
「な!ワープが出来ないッ!」
「逃がすな!ライト!」
「ライト!?」
「後ろじゃ!」
「エスファン様避けてください。
「ビームを溜めている!避けられない!」
「一か八かじゃが、ランダムワープ!」
メディスンさんがそう叫ぶと、俺は次の瞬間には草原に立っていた。
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