第参話 ~仲間達の帰還~

 あの四人を魔王討伐に送り出してからもう既に5年は経った。

 この世界は前の世界よりも交通整備がしっかりしていないし、車や電車なんて便利な代物も無い。

 それに馬車で地道に行かなくてはならない上に、道はガタガタでご親切に魔王城までコンクリートの地面が敷かれているわけがないし、数年は気長に待つか、と思ったが流石に遅い、魔王城から一番近い前哨基地ですら2年程度で帰って来れるはずだ。

 いや、きっと魔王を倒して戻った前哨基地で祝福されて、そこから他の国にも招かれて遅くなってるだけ……いや……まいっか、俺が関わる話題じゃねぇな、のんびりゆっくり帰って来たら良いさ。


 そうだ。

 近所の雑貨屋で買った薬草の紅茶でも飲むか。


 !


 ん~良い匂い!では早速――


「あ!」


 くそ、落とした!手の感覚が無いとこうも不自由になるのかよ。

 あ~あ、もったいねぇ。

 完全に割れて―――


「春英ー!」


 ん…………この声は!


「リーシャ!今開ける!」


 やっぱりそろそろ帰って来ると思ってたんだよな。

 いや、久しぶりにリーシャの声聞いたから一瞬誰だと思ったけど、こんな拠点に客なんてあの四人しかいないよな。


「春英、魔王は無事討伐された。安心しろ」


「良かった……俺、帰って来ないかと思ってたよ」


「まぁ5年ですからね」


「エスファン、代わりに行ってくれてありがとう!」


「いや、僕に代わりが務まって良かったです」


「4人とも良く帰って来てくれたよ!さぁ今日は近くの酒場で呑もう!俺のおごりだ!」


「あぁそれなんだが、拠点でやらないか?」


「まぁそれも良いがなんでだライト、ぶっちゃけライトの方から行こうと言ってくれると思ってたんだがな」


「私達はもう盛大にやったしね。春英にも色々伝えたいことあるし」


「お、そうそう!魔王はどうだったんだ?」


「それは後でのお楽しみだ」


「さぁ皆さん買い出しに行きましょう」


「あ、俺も行くよ。ちょっと待ってくれ着替えて来る」


「いや、春英は拠点にいてくれ」


「?まあいいけど……ていうかエスファン、かなり馴染んだな!後で俺もアンタと話したいよ」


「…………では、行ってきます」


 なんだよ。

 もうちょっと余韻に浸らせてくれよ。

 ま、それは後でのお楽しみだな、それにしても俺何にも用意して無かったな。

 そうだ!アイツらに内緒で道具屋に行くか。

 あそこなら何らかのサプライズグッズが置いてあるはず。

 そうと決まれば早速出掛けよう。

 善は急げだ。

 アイツらに見つかったらサプライズにならないからな。

 多分買い出しは中央区だよな。

 今日はその反対に行ってみるか。

 この国は無駄に広いし、東西南北どの方角にも大小関係無く道具屋があるはずだしな。

 さっき割ったカップ片付けてちょっくら出掛けるか。


 !


 なんか街中がピリピリしてるな。

 魔王を倒したんだしもっと宴会ムードだと思ってたんだが、あと実質勇者の凱旋みたいなものだったのに、盛り上がってないし空気がおかしいな。

 見た事無いフードを着た集団もいたし、この国はいつからこんなに不愛想な国になったんだ?少なくとも召喚された時の盛り上がりは凄かったんだがな。


 お、道具屋発見!早速……あれ、やってねぇじゃん。

 なんだよ、アイツらが帰って来るまで用意しねぇとなのに……しょうがねぇ次だ!


 !


 ここもやってない……どうなってんだ?

 さっきからおかしい、この国は一体どうなっちまったんだ?

 俺が知らないだけで物凄い不景気なのかもしれない。

 まぁ魔王は死んだしここからは平和に―――


「こっちにこい」


「は?お!楽治じゃん!おひさ~!」


「今はここで話してる場合じゃない。ついてきて欲しい」


「?……お、おう」


 こうして楽治に連れられて路地裏に入ると、あの薬屋に辿り着いた。


「この薬屋あの時の」


「待っておったぞ」


「あの時の爺さん!」


「爺さんではない。わしはメディスンじゃ」


「メディスン……薬?」


「正確にはタロットカードのメディスンじゃがな」


「あ、つい……それと更に失礼なんですが、タロットカードってなんでしたっけ?」


「はぁ、日本にもあったんじゃがな」


「確かあの占い……って、え!今日本に行ったことあるような口ぶり……」


「何を隠そうわしも日本人じゃ」


 本当なのか?いや、確かに日本人っぽい。

 俺と楽治以外いないと思い込んでたから、全然気づかなかった。


「まぁいいじゃろう。とりあえず店の中に入らんか?腰が痛くてのう」


 !


 店の奥に行くと、昔とは違い店どころか奥の部屋にも物が殆ど無く。

 あるのは丸い机のみだった。


「そういえば楽治とメディスンさんって知り合いだったんだ」


「あぁ、数十年前に知り合ってな。今回の話にも一つ噛んでる」


「ところで俺はなんでここに連れてこられたんだ?」


「いきなりだがアイツらは偽物だ」


「……は?アイツらって誰だよ」


「ライト、リーシャ、ヴィル。この三人だ」


「ど、どういうことだよ?笑えない冗談やめろよ!」


「それが冗談じゃないんじゃ」


「意味わかんねぇよ!やっと戻って来た俺の仲間だぞ!」


「春英、落ち着いて聞いてくれ」


「お、落ち着いてられるかよ!」


「まぁ落ち着くんじゃ」


「この国がヤバいんだ!……聞いてくれ」


「…………わかったよ」


 !


「ウソ、だろ?」


「残念ながら本当だ」


「俺の仲間がエスファンに操られてるだって?信じられない……あ、アイツは!……エスファンは仲間を護ってくれるって……」


 さっき話した時は全然気づかなかった。

 五年も会ってなかったせいで、俺は完全にアイツらだと思ってた。

 エスファンの奴も信用していたのに!


「俺のトラウマを知ってるか?」


「あぁ、奴隷になった時に負ったトラウマだろ?」


「それはウソなんだ」


「どういうことだよ」


「それは偽りの情報、本当はな。エスファンに仲間達を乗っ取られたんだ。そしてその一人を俺は自分の手で殺した」


「くっ!知ってたのかよ!エスファンがそんな奴だって!それなら言ってくれれば!」


「あぁ、春英の仲間が乗っ取られた瞬間も見た」


「そうだったな、お前は隠密行動が得意だった……黙って見てたのかよ!お、俺の……俺の仲間が乗っ取られるところをよ!」


「すまない。だが、あの場で戦っても負けていた……それよりもエスファンの動向を」


「くっ!……あぁ!乗っ取られたって事は助かるのか?」


「エスファンを殺せばきっと」


「きっとって事は不確実なのか?」


「いや、わしの魔法の知識が正しければ、洗脳の類の魔法は術者が死ねば解除されるんじゃ」


「だから、助けられる確率は高い」


「やってみる価値はあるって事か……アイツらが助けられるなら……いや、だが俺はもうほとんど手足の感覚が無い……つまり戦えないんだ。さっきもカップを落とした」


「春英よ。お主は仲間を救う覚悟があるか?」


「救いてぇ!救いてぇけど…………お、俺は……足手まといだ」


「春英、エリクサーって知ってるか?」


「あの、ゲームとかに出て来る?」


 メディスンさんは奥の部屋から、試験管台に刺さった何かのポーションを持って来た。


「この五本がそれじゃ」


「マジか!つまり俺は……戦える?」


「そうじゃ。これを飲めば瞬時に絶大な力を発揮できる。じゃがその効果はたった数十分程度、それに、このエリクサーには大きな代償が求められる」


 代償……いや、そんなのに構っている暇は無い!


「その代償じゃが、この一本を飲むごとに一つ、五感のどれかを失うんじゃ」


 五感を一つ、失う……それが代償。


「なんだ、そんな事か」


「本当に良いのか?最悪全ての五感を失うぞ」


「仲間は戻るんだろ?それなら五感の全てだって捧げる」


「お主にはそれほど大切な仲間なんじゃな」


 そうだ。

 ライト、リーシャ、ヴィル、みな大切な仲間だ。

 あの三人がいなかったら、この世界でも死んだような生活をしていただろう。

 あの三人のおかげで、俺は己の価値を理解できた。

 そしてこの価値を活かせないならと、五感の一つや二つくれてやるって覚悟で戦ってた。

 何を今更躊躇する事があるか、俺はあの仲間の為ならば死んでみせる。


「よし、始めよう。俺達の復讐を!」

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