第弐話 ~懐かしの街並みを眺める~
「はぁっくぅ~久々にぐっすり寝れたな~」
魔王討伐を志して10年間、睡眠というのは次の遠征に向けての回復で、のんびりぐっすり寝れるモノじゃなかった。
あぁ、この寝過ごした時の気分、何十年ぶりだろうな。
確か転移前こんな感じで寝てたよな懐かしい……
あの世界に未練が無かったと言えば噓になるだろう。
ぶっちゃけ親とは仲悪かったし、兄弟も友達と言える友達もいなかった。
未練と言えばくだらないもので、漫画の続きや俺の見てたアニメの二期を見損ねたってくらいだろうな、いや、未練か……本当は無いかもな、薄情だが俺はそこまで感情的な生活をしてなかったせいか、転移前はほとんど死んでるような生活だった。
学校もろくに行かずに、親が仕事に行くまでは息を潜めて、まるで泥棒、いや今思えばほとんど泥棒だったな。
こっちの世界に来てからは色々あったよ、まずは対等とも呼べる仲間だな、あの三人には感謝しているよほんと、ライトが声を掛けてくれなかったら、ずっと独房生活だったな。
あ、思い出したら怒りが湧いて来た……あの王様め、俺が風呂入ってるときに召喚しやがって、そのせいで一人だけ全裸のまま宮殿に召喚され、ただの変態だと思われて速攻独房行きだったな、まじであれは不当だった。
その一件のせいか他の転移者に変態転移者なんてあだ名を付けられてたっけ、生き残ったのは俺だけなんだよな、みんな各々のパーティーと旅路で魔王討伐を目指したんだっけ、いや
楽治を見に行くのをついでに、今までお世話になった国を見て回ることに決めた俺は、早速ボロボロの身体を起こして拠点から出掛けた。
「この街並み、懐かしいな」
ここは中央通りで、ほとんどの行商施設が集まっている通りだ。
食堂に酒場、冒険者ギルドと商業ギルド、薬屋や道具屋と、ここに来ればなんでも揃う。
それゆえにこの国で一番お世話になった場所でもあるので、懐かしい思い出がたくさんある。
ここは最初に俺含めて4人で呑んだ酒場か、それと最後に吞んだのもここだったな、いつか忘れたが酒癖の悪いリーシャが、酒場のカウンターに大穴開けて怒られたっけ、あの時はびっくりしたな、まさかあんな怪力娘だったとはってね。
お、ここライトが詐欺られた道具屋だ。
まだやってたんだここ、まさか聡明なライトが詐欺られるとは思わなくてリーシャと一緒に散々馬鹿にしてたな、あの時はまだヴィルがいなかったな。
そういえば詐欺られたブツもアホらしかった気がするけど、忘れちまったな……
ヴィルが加入した時の歓迎会で使った食堂潰れてる、時の流れってのは歳のみならず思いですら流していくんだな……って何感傷的になってんだ俺は、普段はこんなキャラじゃないんだけどな。
あ~本当に懐かしいや、転移直前に王様から能力の事を教えられた時はワクワクしたな、まさか俺にこんな力が!?アニメでさんざん見た展開キターみたいにね。
そんで後で、能力を使っている時に五感を削りながらそれを発動してると気付いた時には、もうそれ無しじゃ戦えないところまで来てた。
そのせいで遂につけが回って来て足手まとい、それで追放されたんだ。
ぶっちゃけ魔王をこの手でブチのめせなかった以外は後悔してない、むしろ転移前は役立たずの屑である俺が、パーティーの役に立ってたってのが嬉しかった。
「すいませーん、門を開けてくれますか?」
「ん、君は誰だ?」
「えーと10年前にこの世界に転してきた者です。あ、これ証明カード」
「うむ、確かに。では入れ」
転移者証明カード、これを提示すればどの行商施設でも半額で、更に王宮に入れるという優れもの、登録された魔力を通すと光る仕組みとなっているので、盗まれて悪用されると言う事も無い。
王宮に入ると、掃除中のメイドを発見したので、楽治はどこにいるか聞くことにした。
「すいませんメイドさん、楽治いますか?」
「あ、え~と楽治さんですね。彼なら数日前に出ていかれましたよ」
「え、アイツもうトラウマは大丈夫なのか?」
「トラウマはもうとっくに治っていらしたご様子で、たまに王宮内を歩いている所を見たりしました。ここ数年は何か入念に準備されていましたね」
「なるほど……親切に教えてくれてありがとう」
「はい、ではお気を付けて」
なんだ、楽治の野郎どっか行ったのか、しかも数日前ってもう少し早く来てたら会えてたのかな、ていうか動けたのかよ。
それを知ってたんなら、俺は楽治を紹介してとっくにパーティーを抜けてた。
しかし何か入念に準備をしていた?もしかして独自で魔王討伐パーティーを募集していた?いや、ギルドを見ても募集の張り紙は無かった。
まぁ良いか、仲間達はもう討伐に向かっちまったしな、今更何やっても遅いか。
楽治の動向は気になるが、もう何年も会って無いし、ほとんど他人だな、共通点も同じ日本の転移者ってだけだしな。
「おっと……」
「大丈夫ですか?」
「あぁ、ちょっと能力の使い過ぎでね」
「それなら、私が個人的に良く行く薬屋に行ってみてはいかがでしょうか」
「ふむ、試しに行ってみるよ。暇だし」
「では場所を……」
メイドさんが言うには路地裏の入り組んだ場所にある薬屋で、一見怪しいように見えるがその実優しいおじいさんが一人営んでる薬屋で、よくお世話になっていたとか。
そういえば他の街に行った時にも、よくこの状態が回復する薬とかを探してたんだが無くて、薬屋何てここ数年行ってないなぁ。
身体の回復や魔力に関してはリーシャが魔法で回復してくれるし、ポーション類とかはほとんど要らなかったし、そもそも薬屋を必要として無かったな。
「一体どこにあるんだ?」
メイドのエリーナさんが言うには、西通りにある細い路地裏を行けば良いと言われたけど、うん確かに細い路地裏はあった。
だけども、その路地裏を進んでも入り組み過ぎてて、どこに薬屋があるか皆目見当もつかない。
そうして路地裏を数分彷徨っていると、背後から声を掛けられた。
「ねぇ、もしかして迷子さん?」
「うわっ!」
「え、そんなに驚かなくても良くない?」
振り向くと、そこには薄暗い路地裏には似合わない小さな女の子がいた。
「えぇ、と……ここら辺の路地裏に薬屋があるって聞いて来たんだけど、どこにあるかわかるかい?」
「あ!もしかしてお客さん?付いて来て!」
「あ、ちょっと待って!」
!
「ここだよ!おじーちゃーん!お客さん!」
路地裏をドンドン突き進む女の子について行くと、そこには怪しい以外の言葉が出ない薬屋が路地裏の途中に佇んでいた。
外観は完全に怪しい薬屋で、何かの魔物の骨が飾り付けてあり、嗅覚が鈍った俺でも、まざまざと感じ取れるくらい強烈な薬草の匂いが漂って来ており、路地裏の暗がりのせいもあってか、何やら近寄り難い雰囲気を醸し出していた。
「あれ?おじいちゃんいないのかな」
「なんじゃ、お客さんとは久しいのぉ」
「うわっ!」
「む、そんなに驚かなくても良いじゃろうて」
またもや背後から声を掛けられて驚く俺に対して、またもやそのおじいさんは女の子と似たような返答をする。
「えと、この女の子に薬屋の事を聞い――」
「あのねあのね!この人が迷ってたから案内してあげたんだよ!偉いでしょ?」
「ほう!偉いのう、店の奥におやつがあると思うから、それを食べてて良いぞ」
「やったー!ありがと~!」
「さて、単刀直入に聞くが、お主は召喚者、いわゆる勇者じゃな?」
優しいおじいさんから雰囲気が一変、鋭い目付きで俺の正体を言い当てた。
「なぜ、俺が召喚者だと?」
「その魂を見たらわかるわい、能力の酷使ですっかりボロボロじゃ、その目も意図的に魔力を通さなければ、ろくに見えないのじゃろう?そんな奴らをわしは多く見てきた」
「多く見てきた……」
「そうじゃ、この薬屋では度々能力の酷使で疲弊した、召喚者基勇者が良く立ち寄る。じゃが、最近はほとんど客は無いがな」
もしかしてここなら俺の身体を治してく――
「もしかしたら身体を治してくれる。そう考えておるのじゃろ?確かにわしの腕ならばその病を治す薬を出せる。じゃがすまんのぅ、もう勇者に対して薬は出してないのじゃ」
「それは、どうしてですか?」
「治すと言っても一時的、その薬を使えば五感全てが強化される。じゃが、その後の副作用で五感がランダムで一つずつ消えて行くんじゃよ。そんな危険なモノわしにはもう売れん」
「ですがその話し方だと、昔は勇者に対して売っていたような口ぶりですが」
「あの時は金に困っていたからのぅ、今は孫もいて平和に暮らしておるんじゃ。もうわしの薬で最終的に死んでいく人らを見たくないんじゃ」
「そうですか。わかりました……」
売れないのなら仕方がない、もとより諦めていた事だ。
今から俺が行っても、あいつらに追い付かなそうだしな。
拠点に帰ろう、そんでアイツらの顔をもう一度見て、魔王はどんな奴だったって聞こう。
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