異世界から召喚されしワイ、十年共に戦ったパーティーから魔王城攻略直前で追放される。

アスパラガッソ

第壱話 ~リーダーからのクビ宣言~

春英はるひで。君はこのパーティーから抜けてもらう」



 俺は今まさに、十年共にしたパーティーのリーダーである、クロム・フォン・ライトからクビ宣言を受けた。



「は?」


「は?ではない。本当は次の遠征時に、どこか適当な街の宿屋にでも置いて行こうかと思ったが、それでは私達のパーティーは3人になってしまう。そうなると旅に支障をきたす、最初に言った通り君にはパーティーから抜けてもらう」



 嘘だろ?昨日だって依頼を達成した後みんなで仲良く酒を吞み交わしたじゃないか。

 それに約束はどうするんだ?一緒に魔王を討伐しようってパーティー結成時に約束しただろ!それでこそまだ討伐には至っていないが、次の遠征でほぼ魔王城に王手が掛かる重要なタイミング、そんな時に俺を追放?俺が抜けた分はどう補うんだよ。

 今から魔王討伐行きますで人が集まる訳ないだろ。


 とりあえず話を聞いてみよう、お前追放ハイわかりましたでそんな簡単に引き下がって堪るか。



「いやいや、おかしいだろ!なんで俺を追放しようと思ったんだ?とりあえずそこから話そう!」


「そんなの日々の戦闘で一目瞭然だろ。君は痛覚が無いらしいが出血をすれば他の人間と同じく死ぬ、とどのつまり他と変わりなくヒーラーの回復が必要になって来る。確かに戦闘中に攻撃を受けて怪我をするのは仕方ない、だが君は頻度と敵の攻撃に対する危機感が無いのか、そのせいで目を離した隙に大なり小なり怪我をする。そうして危なっかしい君一人にヒーラーがリソースを割くことになってしまう」



 確かにライトの言う通り俺には痛覚が無い、というかそもそも五感の全てが鈍い、特に視界はもうどうしようもなくて、今でこそ見えてはいるが、これは魔力で無理やり活性化させてるだけであって、視力の前借りをしているだけだ。

 さらに戦闘中は他のことに気を配らないといけないから、その際には視力は捨てて魔力を感知することによって、敵や味方の位置を把握している。

 そのせいで物理によるダメージが抑えられない、最初こそは敵も弱く自らの魔力を隠匿できる奴が少なく、敵に流れる魔力を感じて距離を測っていたが、魔王城付近になって来ると自らの魔力を操ってそれを隠匿する小賢しい敵が増えてきていて、そのせいで敵の接近を許してしまい、余計なダメージを喰らっている。


 そう、本当は俺は魔王城攻略中盤時点で切り捨てられるべきだった。それは分かっていた、だけど、知らず知らずの内に俺は俺自身が、このパーティーに必要な存在だと勘違いしていたんだ。そのせいで抜けるに抜けれなかった、これはただの言い訳だよな……でもまさか魔王城に行く前に追放とはな。



「ごめん、本当は分かっていた。俺が足手まといだったんだろ?だけど、魔王城を攻略するまでは一緒に居させてくれ、日程はまだ未定だけどまたみんなで一緒に話そう。会議しよう」


「それでもダメだ。君は魔王城攻略に連れていけない、それに日程はもう決まっている」


「そっか、俺抜きで会議したってのかよ」


「そうだ。それで出発は明日だ」



 今日にはお別れか……そうだな、この三人なら魔王に絶対に勝てる。きっと、俺なんかがいたら足手まといになるよな……この世界に転移してきてもう10年か、長かったようで短かったような……楽しかったなぁ。



「なぁ、最後に他の仲間に会わせてくれよ」


「そうだな、それでこのパーティーから抜けてくれるなら会わせよう」



 …………あぁ、やっぱり未練あるんだな俺、迷ってる、本当はまだ仲間と戦っていたい……魔王討伐後は何しようかなって考えてたけど、まさか討伐すら出来ないとはな。



「…………二人とも呼んでくれ」


「分かった。リーシャ、ヴィル、それとエスファン入って来てくれ」


「エスファン?」


「やぁ、僕が君の代わりだよ」



 リーシャとヴィルの後ろからひょこっと現れたのは、黒髪短髪の少年だった。第一印象は爽やかな少年、どこか底の見えない笑顔は少し闇を感じさせるものだった。



「君がエスファン?」


「そうだよよろしくね」



 これから追放される俺に対して、よろしくねってなんかおかしい気がするが、確かに挨拶は必要か?俺の代わりか、本当に務まるのかって俺が聞ける立場じゃねえな。



「あぁ、よろしく」


「僕が代わりを務まるか分からないけど、精々頑張るよ」


「いきなりだが俺はもう五感の大半がボロボロなんだ、これで良かったんだ。エスファン、よろしく頼むよ。俺の大切な仲間達なんだ」


「もちろんだ、って断言できないのが僕の弱さだね」


「春英、ごめん……魔王城に連れていけなくて」


「良いんだ。俺は足手まといだったんだろ?」


「……!いや!」


「正直に言ってくれて構わない、ヴィルもほら、どうだ?愚痴くらい聞かせてくれ」


「愚痴何て……春英には助けられてきた。実際アンタがいなけりゃ勝てなかった戦いもある、どうか後は静かに余生を過ごしてくれたら嬉しいよ」


「あ~これ、パーティーから抜けた後どうせ帰るところないでしょ?とりあえず私達が帰って来るまでは、ここの拠点で生活して良いわ」



 リーシャ……ヴィル……ライト……やっぱ優しいな。

 俺が足手まといじゃなかったらきっと新人含めた5人で……って何考えてんだ俺、妄想なんてこの世界に来てからやめたじゃないか。

 実現できる力を貰って、妄想で考えるよりも先に叶えて来ただろ……



「あ、ありがと、ぅっ、ふぅっ」


「春英?」


「ご、ごめん……こんなつもりじゃ、ぅっん。はは、大の大人が泣いてたら世話無いよな……これで終わりなんだなって思うと、なんか込み上げて来てっ」


「ふははっ、ほんとだよ。……最初はこんなじゃなかったよ、アンタの身体も心も変わったんだ……脆くなって来てるの、自覚してるだろ?」


「あぁ、魔王戦で命全部使い切ろうとしてた」


「なにカッコつけようとしてんだよ」


「そうだ。そんなことはさせない」


「が、頑張って来いよ!俺の分までさ、あとエスファン……何度も言って悪いが仲間を頼む」


「頑張ってみるよ」


「……当たり前だ」


「もちろん、ボッコボコにしてくるわ!」


「この国を、世界を救わなければならない。最善を尽くすのみだ」



 そこから色々と思い出話をしたり、エスファンとも話したりして、4人は魔王城攻略の為に朝方に出て行った。

 こうして足手まといの俺はパーティーから追放されたのだった。

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