第陸話 ~旅の始まり~

「どうかしら、それなりに上手く料理ができたのだと思うのだけども」


 食卓に並ぶは様々な料理、だがその実は普通の料理の色とは違い、青やピンク、更には紫色の料理がその食卓を彩っている。

 もしかしてエルフィーラって料理下手なのか?


「すまないね。外の人には少し見慣れない食材ばかりだと思うが、味はわしが保証する。ぜひ食べてやってくれ」


 なるほど、この食材や料理の形態はこの村独自のモノだったか、と言っても色が色だ、あまり食べる気にはならないが、お腹は空くものだ。

 匂い自体は美味しそうなのだが、やはり視線が食事を邪魔してくる。

 えぇい!目の魔力を切ってしまえ!こうすれば食べれる。


「あら?目の色が消えたわ。どうかしたの?」


「いやなに、目の魔力を消しただけだ」


「なるほど、目に魔力を通して周りを見ていたのか、道理で人にしては珍しい色の目をしていると思った」


「はぁ?そんなにウチの村の料理が気に食わないわけ?」


「いや、気に食わないって訳じゃない。とりあえず食べてみるからちょっと待っててくれ…………」


 俺は意を決して木のスプーンに乗っかった料理を口に入れた。


「美味い……」


「……!そうでしょう!良かった、口に合わないんじゃないかと思ったわ」


 料理の色はいまいちだが、その味はぴかいちだった。

 これなら目で見ながら食べられる、周りが見えないのってのは当たり前だが不便だからな。


 この緑色のスープは薬草の粥らしく、他に入ってる野菜?が薬草の苦みを良い感じに中和してくれて、これなら薬草嫌いのリーシャも全て平らげてしまいそうだ。

 こっちの魔物肉にピンクのソースが掛かったモノは、ソースの甘みが魔物肉の臭みを消してくれていて、中に詰められた香草のおかげが普通の物よりもおいしい、これならライトやヴィルも好みそうだ。


「あぁ、お腹いっぱいだ。美味しい料理をありがとう、エルフィーラ」


「満足してくれたのなら良いわ」


「ところで、村長さん」


「エルフィールで良い、人間特有の何々さん~とかは付けなくても良いぞ」


「それではエルフィール、アイアンウッドという地名は知っていますか?」


「アイアンウッドか、知ってはいるがここからは遠い」


「どれくらいですか?」


「そうだな、馬車で一年は掛かる」


 馬車を使っても一年か、どうにかならないのか?一年も経ったら大陸がエスファンによって乗っ取られてしまう。

 どうにかして半年……いや数カ月いないにアイアンウッドに辿り着かないと……くそ、あらかじめ楽治やメディスンさんに、他の仲間達の居場所を聞いておくべきだった。


「そうですか、ありがとうございます」


「かなり切羽詰まっている様だな」


「何か手伝えることはないかしら?」


「どうにかして数カ月以内にアイアンウッドに辿り着きたい、無理なのは分かっている、だけど俺が行かないと大陸が大変なことになる」


「エスファンだったな」


「そうです。アイツの魔法に仲間達は洗脳されて……それでその魔法には感染性があって、そのせいで一年も放って置いたら大陸が!」


「まぁ落ち着きなさい、そこでわめいても何にもならん。そうだな……ここエルフの村から徒歩で数日、ヴィルウッドという街がある、大きな街だ、何かしら情報を得られる。ヴィルウッドは昔から魔物の多い地だ、その分魔物に対しての研究が他の場所よりも進んでいる、だからか魔獣使いが多く、魔獣使いの聖地とも呼ばれている。そこに行けばワイバーンか何かを使役した者がいるかもしれん」


 魔獣使いか、確かにそれならば何か素早い魔物を使役しているかもしれないな、行ってみる価値は十分あるはず、切羽詰まっているが数日その目的のために動いても大丈夫だろう、というのは希望的観測過ぎるか?


「わかりました。明日からそこを目指します」


「そうだ、わしの娘も連れて行くがよい。その身体だ、まともに魔物と戦えないだろう」


「え!?私?」


「ついて行ってやりなさい」


「ま、まぁ丁度暇だからヴィルウッドまでついて行ってやらないこともないわ」


「頼む。金は無いが何かしらでお礼をするから、ついてきてくれないか」


「まぁついて行ってやるわ。お礼は……考えとく」


 こうしてエルフィーラを今回の旅のお供に、ヴィルウッドまでの旅がスタートした。


「エルフィール、ありがとうございました」


「いや、気にすることはない、これから春英が成すことに比べたらな。それと、これを持って行くと良い」


「これは……お金ですか?」


 袋の中を見たところ、金貨が十数枚程度入っていた。

 これだけあれば当分は食料代や宿代には困らない。


「なぜ見ず知らずの俺にこれほど?」


「そうだな、個人的な理由だ。魔王を倒して欲しい、周辺諸国を悉く闇に染める魔王を倒して欲しいんだ。比較的魔王の影響が少ないこの地でも、他の国や街、村が悲鳴を上げているのを、ただ黙って見るのは心苦しい、これはそのほんの気持ちだ」


「ありがとうございます」


「春英ー!行くわよ」


「準備が出来たようだな、では行ってきなさい。貴方にエルのご加護があらんことを」


 !


「う、うっぷ……」


「もう、だらしないわね!さっきから嘔吐えずいてばかりじゃない……まだまだこれから長いんだから、しっかりしてよね。仮にも勇者なんでしょ?今まで馬車を使った遠征は無かったわけ?」


「毎回こうなんだ……うぅ、気にしないでくれ」


「はぁ……少し待ってなさい、私がなにか馬車酔いに効く薬草を採って来るから」


「わ、悪いな」


「横でおえおえやられる方がキツイわよ。吐き気を促され続けるこっちの身にもなりなさいよ」


 エルフィーラは優しいな、なんだかんだ言ってヴィルウッドまで付いてきてくれるし、こうやって俺を気遣って薬草を探しに行ってくれる。

 対して俺はボロボロだし何の役にも立ててない、まぁここでエリクサーを無駄使いして魔王と戦う前に五感の一つを失うよりかは、こうやって呆れられながらも介護されている方が良い……って言うのもなんか違うが、まあいい。


「見つけて来たわよ」


「早いな!」


「どっかの誰かさんみたいにすぐ馬車酔いする知人がいてね。その子のおかげか酔い止めの薬草を見つけるのは得意なの」


「ならその子に感謝しなきゃな」


「私にも感謝しなさいよ」


「ありがとうエルフィーラ」


「は、早く治しなさい!」


 に、苦い……まぁ薬草はこんなもんか、良薬口に苦しって言葉もあるくらいだ、この薬草が効いてくれると良いな。


「それじゃあ少し休憩したらまた再開するわよ」


「あぁ、ってどこに行く?」


「なに、この馬車の周辺を見回るだけよ。休憩中にガルガンヴィーが来たらめんどうだから」


「あー、何から何まで悪いな」


 しかしガルガンヴィーか、そんなに厄介な連中なのか?まぁ今の俺からしたら何もかも驚異なのは変わりない、エルフィーラになんでもしてもらうってのも、まぁアニメみたいで良いんだが、これは現実、迷惑掛けっぱなしってのも悪い。

 お、大分体調も戻って来たな、即効性の薬ってのはどんな状況でもありがたいな。

 ……薬と言えば、メディスンさんから貰った5本のエリクサー……使いどころは見極めないとな、一体いつ使えば良いんだろうか……やっぱり誰かと戦う時?いや、その敵の数が分からない限り不用意に使うべきじゃないだろうな。


「戻ったわ。考え事?」


「いや、何でもない。薬草助かったよ、お陰で大分良くなった」


「それなら良いわ。さぁ、先に進みましょう、二日で着くとは言え野宿は危険だわ。一日は走りっぱなしで行くわ」


「それは賛成だが、その馬は持つのか?」


「あまりエルダブネを舐めない方が良いわ。この子は戦場で活躍した馬よ、それにエルフじゃないのにエルの名を貰ってるの、これは凄いことなのよ」


「あぁ、確かに強そうな馬だ。エルダブネ、ひとっ走り頼むぞ」


 俺がそう声を掛けてエルダブネを撫でると、それに応えるかのようにいなないた。

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異世界から召喚されしワイ、十年共に戦ったパーティーから魔王城攻略直前で追放される。 アスパラガッソ @nyannkomofumofukimotiiina

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