攻撃力∞の実力者~隠しエリアで手に入れたスキル『無限斬』、どうやら運営も認知してないバグみたいです

濵 嘉秋

第1話 隠しエリアで特殊スキル

 VRMMO『ドラシル・ワールド』、世間では省略してドラワルとも呼ばれている大人気ゲームだ。その影響は世界中の経済にまで及び、一年前のアップデートではついにゲーム内の通貨が現実でも利用できるようになった。

 俺、雲間春くもましゅんもそんなドラワルプレイヤーの一人だ。ゲーム内ランキングでは1位に輝き、現実での暮らしも裕福なものになった。まぁ裕福とは言っても金欠大学生の暮らしから脱却したというだけで暮らしの質が爆発的に上がったわけではないのだが。


「さて…なんだここ」


 今日も今日とてドラワルにログイン。最近解放されたダンジョンの攻略に勤しんでいた最中、突如として現れた転移紋によって何処かに飛ばされたのだった。

 マップを見ても現在地不明のエラー表示。どうやら誰も到達していない『未到達領域』に来てしまったらしい。


「参ったな…転移宝石も使えないとなると、トラップエリアの可能性もあるし」


 ダンジョンに存在する理不尽の一つ、『トラップエリア』。ダンジョン内の部屋が変質してできるもので、マップ上での特定が不可能。アップデート前なんて、安全地帯だと思って入った部屋がトラップエリアになっていて無数のエネミーに圧殺された思い出がある。

 流石に安全地帯が確殺地帯になるのは如何なものかということで、アップデートで修正はされたのだが。それでもトラップエリアの脅威は据え置きだ。


「トラップエリアなら確実にゲームオーバーだけど…」


 トラップエリアに出現するエネミーの適正レベルはその階層の適正レベルの倍以上、おまけに転移宝石は使用不可…つまり攻略途中に入ってしまうと確実に死ぬ。……のだが、エネミーが出てこない。いつもなら入室後すぐに大量のエネミーが出てくるのに。


「来ない…?」


 待ってみるが何も起きない。仕方なく周囲を調べてみるが、出入口は見当たらず相変わらず何もない部屋に見える。

 ドラワルでは部屋自体にダメージを与えられない。壁を突き破って脱出というのは不可能だ。このままログアウトしても開始地点はここで固定されるし、やりたくないが爆弾で自爆してコンテニューするか。メニュー画面からアイテム欄にある『アクセルボム』をピックして実体化させる。後はコイツを足元に叩きつけて自爆すればここから強制脱出だ。ロックしてあるアイテム以外を失ってしまうのは痛いが背に腹は代えられない。

 アクセルボムを叩きつけるため、右手を振り上げる。その瞬間、掌に乗っていたアクセルボムが何かに弾かれた。


「ッ⁉」


 強い衝撃を与えられたボムは空中で爆破し、咄嗟に回避行動を取ってしまう。これから自爆しようとしていた人間の行動じゃないが、生憎と自爆の選択肢は消えている。


「やっと登場かよっ」


 ボムを弾いたのはクナイだった。そしてそれを投擲したのは目の前に佇む人型のエネミー。風貌や武器から侍や忍者のジャパニーズ全開なヤツだが、こんなのは見たことがない。新ダンジョンに入ってからすでに40階層を突破しているが、いまだ未遭遇だったということは恐らくこれまでよりも強敵のはず。

 しかも身長は成人男性程度、一階層からドラゴンやらゴーレムやらやけに巨大なエネミーが出ているこのダンジョンにおいても異質。的の大きい敵用に装備を整えてきた俺は不利かもしれない。


「だけど…」


 出現したのはコイツだけ。他に気配はない…トラップエリアじゃなかったのか?とするともしやボス部屋だろうか。

 次の瞬間、空間に『BATTLE START‼』という表示が出ると共にエネミーが右手を振るう。横に跳ぶが左腕を何かが掠めた。


『状態異常:裂傷』


 早速状態異常を貰ってしまった。完全に回避できたと思ったのに…器用と機動力は向こうが上なんだろう。

 だが裂傷ならアイテムで解消できる。距離を取って裂傷回復のアイテムをピックしようとして、異常に気付く。


「はぁ⁈」


 アイテムストレージが開けない。これでは動くたびにダメージが入ってしまい満足に戦えないじゃないか。

 そして相手はそんな俺の動揺の隙を逃がさない。一瞬で間合いを詰めて抜刀、地面を蹴って後退するが遅かった。HPが半分持っていかれた。モロに受けていたら一発でゲームオーバーだっただろう。ていうかこの装備をして半分削られるってどんな威力してるんだよ。


「っチ!」


 すかさずニ撃目に移ろうとするエネミーに対し、武器の片手剣を振るう。片手剣『黒牙竜の剣』に付与された炎属性が刀身から放たれ、エネミーを後退させた。

 だがその動きは洗練されたもので、行動の途中でもクナイの投擲を実行してくる。

 振り上げた剣をさらに降り下げると先ほどより勢いを増した炎がクナイを溶かし、空中で身動きが取れないエネミーの体を覆っていく。


「ッ、なんだ…痛い?」


 切り付けられた箇所が痛む。しかしドラワルに痛覚は設定されていないはずだ。現実のほうで何かあったのか?

 どの道、ボス戦途中ではログアウトができない。いまはあのエネミーを倒すことに集中しなくては。

 炎に巻かれながら着地したエネミーは攻撃に移れないようで、その場に制止している。これでようやくコイツの名前を確認できるな……ジュライ?7月?まぁエネミーの名前なんて運営のネーミングセンスによるだろうが。

 次の行動に対処すべく身構えた数秒の後、ジュライは膝から崩れ落ちた。


『EXCELLENT‼』


 そして表示されるイベント終了の評価画面。次に獲得報酬が提示されるが、そこに記されているのは一つだけ。しかもこれは…。


「スキル?」


 本来、スキルを獲得するには専用エリアでの修行か魔導書が必須。イベントの成功報酬になることはあってもボス討伐の報酬になったなんて聞いたことがない。


「無限斬…ありきたりな」


 しかし報酬はこれしかない。獲得してスキルツリーに「無限斬」が追加されたのを確認すると、詳細をタップする。


「えぇっと、剣タイプ武器専用スキル『無限斬』」


 最初の一撃に限り、使用者の攻撃力を∞にする。…………なんだこれは。攻撃力∞?ぶっ壊れにも程があるぞ。

 攻撃力∞といえば、早い話がゲームを始めて1分の初心者でもこのダンジョンの最下層ボスを一撃で葬り去れるということになる。理論上とかそういうのじゃなく、本当にそうなる。だっていくら耐久やHPが高くても意味を成さないんだもん。

 まぁゲームだし、最悪そんなスキルがあったとしてもジュライの討伐報酬になっているのは意味が分からない。ジュライの攻撃が確殺だったなら分かるが、そういうわけでもない。たしかに攻撃力は集ったけども。


「まぁともあれ……」


 両手で『黒牙竜の剣』を振り上げると、勢いよく下げる。


「……………………は?」


 目の前に広がるのは高い岩の壁。上には満点の青空が広がっている。

 転移したわけではない。壊したのだ。前方、測るのも馬鹿らしくなるくらい遥か彼方まで斬撃が届いた。


「……マジかぁ」

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