第32話 ウィンディの運命分岐点その3 座敷牢と宝飾品
「お、出来たみてーだな。これかぁ…ふーん」
エスペルが値踏みする様にその建物を見てる。
「え?あれ?なにこれ?」
私はそれを見上げて戸惑う。
しばらくは宿屋に寝泊まりしていたけど、ある日自宅に帰らされた。帰ったって言うのかな?家には新しいお部屋が増築されてた。一人部屋は確かに欲しかったけど、その…これじゃない。
「これを、作ってたんだ…」
大工さんとか来てたのは知ってたけどさ。私には何の相談も無かったよね。
「良かったなウィンディ。ヤリ部屋―――じゃなかった。一人部屋だぞ〜」
エスペルが後ろから私の胸を揉んでくる。
「ん…ちょっ!外では、やめてよぉ…」
「そうだなぁ。早速使ってみよっか」
そして私は自分の部屋に連れ込まれる。その日は特に激しかった。新築の綺麗な部屋に、まるで私達の匂いを擦り付ける様に、動物みたいに犯される。ベッドだけでなく部屋のあちこちで思う存分に、エスペルの気の済むまで。
簡易キッチン、テーブル、お便所…窓際とか。
部屋中移動しながら犯されてちょっと疲れた。
宿屋から場所を変えても私の生活は変わらなかった。私はエスペルが犯したい時に犯されるだけ―――いや、変わった事が一つあった…
「鍵が…」
その部屋は外から鍵が掛けられる様になっていた。内装はとても質が良いと解る。窓も硝子が使われている。でも開かない。頑丈な作りで隙間風も入り込まなそう。つまり、エスペルならいざ知らず、私では到底脱出出来そうにない。高そうな椅子を振り下ろしても、私の腕力じゃ分厚い窓硝子は割れないだろう。
座敷牢。そう、ここは牢獄だ。私を逃がさない為の牢獄。誰が作ったの?作らせたの?エスペル?それは無い。エスペルから逃げ切るのなんて誰にも無理だ。ならばこれは―――村長達か…まさか―――
(…お父さん?…お母さん?)
お父さんとお母さんは、あれからずっとご機嫌で優しい。いつもニコニコしている。私を犯す為にエスペルが現れた時なんて凄く笑顔だ。視線はエスペルの持つ袋に注がれている。その金貨がたくさん詰まってるであろう袋は、両親にとって一人娘の私より大切みたいだ。
二人共私が何か欲しがったら一応は叶えてくれる。エスペルが渡したお金でなんでも買ってくれる。けれど…
「自由に外に出たい…お父さんお母さん。もう勝手に村を出たりしないから…ここから出してよ…」
この願いは叶えて貰えない。
優しい声音で、凄い笑顔で否定される。
「そこで大人しくしていなさいウィンディ。エスペル様がいついらっしゃるか解らないんだよ?お家にいなさい」
お部屋の中にはお便所まで付いているので、私は新しく作られたお部屋から簡単に出して貰えない。
外出する時はお父さんかお母さんのどちらかがついてくる。村の皆はお父さんお母さんに笑顔で声を掛けている。なんだっけ?これ、お話で読んだな。そうだ、アレだ―――
(生贄―――)
エスペルが悪魔だとしたら、私はお姫様なんかじゃなかった。私は悪魔がもたらす富の代わりに差し出された生贄なんだ。
そしてふと、そのお話の顛末を思い浮かべる。
悪魔と取引して生贄を差し出し続けた国は、勇者によって滅ぼされました。めでたし、めでたし………
「いや、めでたくなんて、ないし…」
勇者は悪い王様と悪魔をやっつけて次の冒険に行ってしまう。王様と富を失った国民には、生贄を捧げ続けた罪だけが残るのだ。このお話には補足がある。これは大昔に実際にあった事実だという事だ。
勇者が魔王の手先になってた国を丸ごと滅ぼしたという、ただの歴史。
勇者は公平で中立で平等だ。
史実では悪魔に取り憑かれていた生贄のお姫様も、悪い王様も、自分達は善良だと信じてた国民も全て、赤子一人残さずに勇者に鏖殺されたらしい。
罪を憎んで人を憎まず。罪科は命によって贖われ、咎人の魂は浄化され輪廻の輪に還る。
…その物語の一節だ。
「勇者…か」
正義の味方とは違うけど、私の知る限りそれはエスペルだと思う。とにかくなんでも出来る力がある。
私基準の正義の味方と言うか良い人だと…もう死んじゃったけど近所のおばあちゃんがお菓子とかくれて大好きだったな。良い人だった。
ライアは可愛いけど不機嫌になると怖いし八つ当たりされるのは少し嫌。でも悪人て程じゃない。良い所もたくさんある。
良い人が強い訳じゃない。強い人が悪い人でもない。悪い子って程でもない子ばかりだし、それを言うなら泉に一人で行った悪い子は私だし…それを教えたライアは…あ、ライアが怒られてたのはその所為かぁ。なんだか難しいなぁ…。
「―――んっ…?」
「どうしたウィンディ?」
そんなある日、エスペルに連れ出されて外を歩いてると何か強い視線を感じる。出処を探るとそれはライアだった。
「ライア?」
「…………」
ライアはその美しい面を歪ませて私を睨んで来るだけだった。お店が上手くいってないのかな?
「なぁウィンディ、山頂に景色良い所見つけたんだ。今日はそこでヤろうぜ?」
エスペルはライアの事なんて眼中に無い。ちょっと困る。村一番の美少女のライアを無視したら駄目だよ。私が八つ当たりされちゃうんだから。あの子、不機嫌になるとご機嫌取るの大変なのに…。
「えと…山の主が居るから、危ないんじゃ…ない、かな?」
周りに人が居なくても、お外で犯されるのは恥ずかしいので、それとなくお断りしてみる。
「大丈夫大丈夫。もう殺しといた。こないだ持ち帰った角?牙?―――の持ち主の猪?…狼だっけ?まぁいっか。取り敢えずなんか皆殺しにしといたから安全安心だよ」
…そうでした。エスペルでした。はい。私は大人しく諦めエスペルの玩具になる事を受け入れる。エスペルは私が嫌がったり抵抗したり恥ずかしがったり泣いたりすると悦ぶ。こういうのを変態さんて言うんだっけ?エスペルはきっと変態さんなんだろう。
「あ、ライアが…」
ライアの事を思い出した時には、もう彼女の姿は無くなっていた。あれから私達はあまり仲が宜しくない。原因はエスペルだ。でももっと考えるとライアのお店の商いの仕方の所為だと思うの。
(だから今のこの状況は仕方無いんじゃない?)
村の誰かがお薬が欲しくても、フェルンの町より何倍も高く売ってたって聞いたよ?今はエスペルが気軽に薬草とか採って来てくれるからね。それとモンスターの貴重な素材もホイホイあげちゃってるもの。
なので薬も道具も売れないらしい。
村長さんは皆にやっかまれないよう、エスペルから貰ったお金や素材を皆にもある程度配ってる。それをライアのお家も貰ってるはず。ただ、村の皆はライアのお店を本当に使わなくなったそう。
ライアのお店は、そのお金でたくさん商品を仕入れて…それが全部売れ残ってるらしい。その事で私を睨まれても凄く困るんだけど。
だって皆、貰ったお金を持って村の外に買い物に行っちゃうんだもん。もしくは頻繁に来る様になった行商人さんから買い物をしたり、買い付けを頼んだりしてるんだって。
だってそうでしょう?お金も時間も余裕もあるなら、フェルンの町やそれ以上の市や都市で買い物した方が良いもの。そっちのが安くて良い物を好きな様に買えるんだもん。
そうそう、山道も安全になっちゃった所為もあるよね。エスペルが私に会いに来るついでに付近のモンスターを退治してるからね。気軽に安全に移動出来る様になって皆喜んでる。そしてその感謝は私のお父さんとお母さんに向かってる。
エスペルに訊いたら、別にお礼とか要らないんだって。私以外の女の子を充てがおうとする親や、自ら身を捧げに来る女の人も居るらしいけど、全部追い返してるんだって。あの可愛いライアも追い返されたんだって。―――――あはは、おっかしぃ。
「俺はウィンディ犯せればそれでいいし。他の女要らねっての。はぁ〜」
そう言って溜め息を吐き出していたエスペル。
――――――ああ、もどかしいなぁ。
嘘でも良いから好き、愛してるって…ウィンディだけが欲しいんだって…あの物語の悪魔みたいに言ってくれたら、生贄のお姫様みたいに身も心も捧げてしまえたかも知れないのに………
……ふぅ……とにかく、私がエスペルを連れ帰った事で不利益を被ってるのは今の所はライアのお店だけだけど、不安要素は他にもある。一部の村人達な畑仕事をしなくなった。それって、大丈夫なの?エスペルは気まぐれなだけだよ?エスペルのせいで、私が思ってたのとは違う方向に村がめちゃくちゃになり始めている。
エスペルは時々ふらりと居なくなる。
モンスターをやっつけに行って、それをフェルンの町とかで換金してるらしい。
何日も帰らない時は、フェルンの町以外にも行ってるかららしい。なんでか訊いたら『あちこちの町でベアナックルとして活動してれば、俺が何処に居るのか特定できねーからな』と言っていた。どういう意味なのかな?
エスペルと村を歩いてると、以前は仲が良くて、もっと仲良くなりたかったはずの男の子と出会う。
「エスペルさん凄ぇっス!こないだのモンスターの素材なんて―――――――」
フランツは私でなくエスペルに熱い視線を向ける。
フランツは私がエスペルの所有物になっても特に気にしてくれなかった。むしろ、モンスターの牙や毛皮を戦利品として村に持ち帰るエスペルに憧れを抱く様になっていた。
どちらかと言うと村の女の子達よりも、フランツとか男の子の方がエスペルに夢中だ。
あまり年も変わらず、見た目や背丈もそこまで大差無いエスペルへ憧れの念が強いみたい。
あと二、三年でエスペルと同い年になったとしても、村の男の子達では誰も同じ様にはなれないと思う。
エスペルは私に対してエッチ過ぎるけれど、それ以外は凄く人当たりも良くて気さくで、良い人間だった。
村人のお願い事は結構簡単に引き受けてくれる。害獣駆除とか、行商人さんも取り扱ってない薬草の採取とかも快く引き受けてる。
エスペルの薬草で助けられたお年寄りや、体が悪かった子の親とかがうちの両親にお礼に来ていた。
…それ、エスペルのお陰だよね?なんで二人が偉そうにしてるの?私のお陰でもないよ。全部エスペルの気まぐれなんだよ。エスペルが居なくなったらどうするの?
「皆、知らないから…」
私だってちょっとしかエスペルを知らない。でも普通の人間だったら殺されちゃう様なモンスターを、まるで虫を踏み潰すみたいに簡単に殺せるのがエスペルだ。
彼は村のために尽くしてるんじゃない。私を逃がさない様に、暴力で支配してるだけだ。やり方は少し違うし複雑だけど、彼の暴力で発生する利益で村を破壊し尽くしている。私を逃がさない為って言うのも、多分管理するのが面倒臭いからだ。
拐って囲って奴隷の様に扱うより、住んでた村丸ごと囲ってしまう方が楽だからだ。
エスペルにはそれをするだけの財力と、暴力がある。
私が遠慮して受け取らなかった宝石とか服とかは、村の女の子達に適当にあげてるみたい。ライアは受け取らなかったらしいけどね。
ただ、エスペルはそれを出汁にして他の女の子にエッチな事しないんだよね?なんでだろう?
(私の事、好き…なのかな?)
ライアの方が私より可愛いと思うんだけど。エスペルは私の事しか犯さない。何処へ出掛けても、私の胸の中に帰って来るんだ。うふふ。
私を散々犯して楽しんだ後は、私を抱き締めて眠ってる。寝てる顔は普通と言うか、ちょっと可愛いかも?頭を撫でると、私の胸に顔を埋めてくるの。ずるいよ。痛くて苦しいだけなら憎めて嫌えるのに。気持ち良くしたり可愛がってくれたり、逆に子供みたいに可愛くなったり。エスペルがよく解らない。
私を犯してる時のエッチなエスペルのが長く見てるけど、やっぱり私の中の第一印象は変わらない。
エスペルは恐ろしいモンスターを軽く捻って殺せる悪魔なのだ。
☆☆☆☆☆
隔離されたお部屋で御本を読んでたら両親に連れ出された。今日はエスペルが来たらしい。三日ぶりくらいかな?ずっと部屋に籠ってると時間感覚が鈍ってくる。
ニコニコ笑顔の両親にエスペルへ引き渡される。
「エスペル…」
私は未だに笑顔でエスペルを迎えられない。しかし暗い顔をする私をエスペルは嬉しそうに抱き締めてくる。彼の事が解らない。
エスペルのお陰で家は、村は裕福になった。私は力仕事や水仕事はさせられなくなった。お部屋から好きに出して貰えない以外は、何不自由無く暮らせてる。
「あっ、あっ、ああっ」
早速ベッドでエスペルに抱かれる。
この寝室は私の為の部屋じゃない。エスペルが私を気兼ねなく犯す為の部屋なのだと、抱かれるたんびに再確認させられる。
「お前、華奢だよな」
行為の途中でエスペルが突然ポツリと零す。
違和感…を、感じる。なにか変。変だよ?
(………あれ?今エスペル、他の女の事考えた?)
手つきや舌とか、抱き方から、何か嫌な気配を感じる。何かを確かめてる様な…誰かと比べている様な感じがする。
(嫌だな…私を犯す時は、私の事だけ見ててよ?そんな風に抱かれるのは、嫌だよ。酷いよ…)
「ひうっ、ううっ」
でもそんな事言えない。泣いて我慢する。
エスペルは私の首なんて簡単に捻って千切れる力がある。そんな凄い力があるのは、単純に怖い。いつ気まぐれで殺されるか解らないから。
でも、それでも…
「エスペルっ!エスペルっ!あううっ―――」
何度も肌を重ねているとどんどん彼を受け入れていってしまう。彼の首に腕を回し、彼の腰に足を回してしまう。
…初潮はまだ来ない。まだ子供なんて欲しくない気持ちと、彼の興味が無くなる前に子供が欲しい気持ち…二つの相反する気持ちがある。
どっちが私の本心なんだろう?私自身が私の気持ちが解らないよ。
「んんっ…」
唇を奪われると、自然に涙が零れ堕ちる。そんな私を見てエスペルがさらに私を可愛がってくる。
全て終わった後に、お口で掃除をさせられる。最初は喉に絡み付いて飲み干すのに苦労したけど、今ではもう慣らされた。それ以外の物も飲まされる。そうされてると自分がまるでお便所になった様な気持ちにさせられる。
こんな酷い目に遭わされてるのに、最後には愛しげに先端にキスをしてしまう。私を虐める男性の象徴。それがなんでこんなに可愛く愛しく感じるんだろう?頭を撫でられると悦んでしまうのはなんでだろう?
その日、私はまた新しく買って来た服を着せられる。エスペルに買って貰ったアクセサリーや服で部屋の中がいっぱいになって来てる。エスペルはそれを身に着けさせたまま犯すのがまた楽しいらしい。
「似合うじゃん」
「…ん…うん…」
うちの村…いやフェルンの町…でも無理じゃない?何処で買って来たのこのドレス?
私でも解るよ、これ。今まで買って貰った服の中で一番でしょこれ。
「あ、ありが、とう…」
流石に私の顔が熱くなる。順番がめちゃくちゃだよ?男の人は釣った魚に餌をやらないって言うけど、エスペルは魚を食べちゃった後に餌をあげてるよね?私は普通の女の子なんだよ?最初に無理矢理犯されたのは凄く怖くて痛かったけど、それからはなんなの?力もお金も見せつけて綺麗な贈り物たくさんくれて、あのいつも偉そうなライアの悔しそうな顔も見せてくれて…いやもう、そうじゃない。
(あの無防備な寝顔はなんなの?たまに作ってくれるお料理はなんであんなに優しい味なの?)
そうだ。あの座敷牢には簡易キッチンがある。エスペルはそこでちょっとお料理してくれる。
美味しいの。凄く。
(わからないわからないわからない)
エスペルの事がわからない。
俯いていると、エスペルに頭を撫でられる。もうわけわかんない。こんな酷い男、好きになっちゃ駄目なのに――――――
「おう」
エスペルはそうしてまた着飾った私の手を引いて村を出る。また屋外かぁ。恥ずかしいんだけどな。仕方無いよね?エスペルは変態さんなんだから………と思ってたけど違った。
「町に行くぞー」
「ま、町?」
フェルンの町かな?他の村や町に行く為に外へ連れ出されるの、実は初めてなんだけど。
(…………このまま、私を村から連れ出して欲しい)
密かに想ってしまった願いを、私は口に出す事が出来なかった。
エスペルに『時間かかるしドレスが汚れる』と言う理由で私はお姫様抱っこをされた。私を抱きかかえたエスペルは風の様に速く山を駆け下り、あっという間にフェルンの町へと辿り着く。
そこで私は、あの女の人と初めて出会った。
弱くて泣き虫で内気で、いつも他人の顔色を覗ってオドオドしてる私なんかとは何もかもが違う。
強くて美しい女戦士、アーニスと。
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