第14話 家出王女の冒険その2 性奴隷バッドエンド 病み堕ち便女ルート

 ギルドの扉が大きな音を立て、私達は何気無くそちらを見やり―――言葉を失った。


「なっ…………なにあれ?」


 入って来たのは血塗れの男だった。

 怪我人…ではなかった。靴音高くキルド内をズンズンと進む。その男は凄まじい血の匂いを撒き散らしながら進む。靴跡は血で真っ赤だが、それさえもすぐに血の跡に塗り潰される。

 理由は明白だ。彼は熊の生首を引き摺って歩いているからだ。一個や二個じゃない。二十はあるだろう。しかもあの大きな頭。恐らくジャイアントベアだ。名前の通り普通の熊の何倍もデカイ。個体によっては三階建ての建物をも越えるサイズになると言う。

 そんなジャイアントベアの生首がギルド内を占領する。

 モンスターの素材を持ち込む冒険者は多い。討伐証明に必要だし、周りの冒険者仲間に自分の実力を解り易くアピール出来るからだ。

 しかし、頭だけで成人男性と同じサイズ感のジャイアントベアの生首を持ち込んだ者など私は見た事が無かった。

 確かに巨大なモンスターを討伐するパーティーは居る。そうした場合は巨大な荷車に乗せて運んで来るのだ。

 あんな血の匂いを強烈に放つ物を二十も引き摺って町中を歩いて来たのだろうか?

 通りの道は血の匂いで酷い事になっていそうである。いや、遠目にもアレを運ぶ姿を見たら一般市民なら腰を抜かすはず。衛兵達は何をしていたのだろうか?


「ひぃぃぃぃっ!?…ほほほほんじつはどのようなごようけんでぇぇぇぇ〜〜〜うひぃぃぃぃぃっ!?」


 可哀想に、冒険者ギルドの受付嬢はガタガタ震えながら男に対応している。


「冒険者登録と素材の買い取りをお願いします」


 どんな化け物かと思えば、血塗れの男が発したのは声変わりもまだみたいな少年のものだった。

 礼儀正しく頭まで下げている。


「うひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?―――あっ…」

「ありゃ?っとと」


 しかし受付嬢は悲鳴をあげて倒れかかる。それを男…少年がカウンター内に飛び込み支えてやっている。見た目のインパクトは凄まじいが、意外にも紳士的なのかも知れない。


「まぁいいや。取り敢えずコレね」

「は、はい…」

 騒ぎを聞きつけてやって来た、別の男性ギルド職員が引き攣りながらも対応をしている。

「はぁ…重くはないけど嵩張ったよ。持ち難いったらないね。収納スキル持ちや収納アイテム持ちが羨ましいぜ」

 そう言って彼は、引きずって来たジャイアントベアの生首二十個程をギルドの受付にどんどん乗せていく。素材受け取りもするギルドのカウンターはそれなりに大きく頑丈なはずなのだが、一個一個が成人男性サイズの生首を二十も乗せられる余裕は無い。

 少年が全部を無理矢理乗せると、何個かは受付内に転がり落ちて行く。

 なんて光景だろう。

(英雄…豪傑…)

 または―――勇者。

 そう言った規格外の存在とは、こう言った者達を指して呼ぶのだろう。

 私は強くなったが、彼の様な戦果を上げられるイメージは湧かない。

 彼には血の滲むような努力や下積みがあったはずだ。そう信じたい。冒険者未登録の素人同然の一般人の行いだとは信じ難い。

 もしも旅立つ寸前にこの光景を見せられていたら、私の心はポッキリと折れていただろう。そうすれば私は素直に大人しく、二十は離れた某国の王子の側室として輿入れしていただろう。

 彼がフォーゲイルに居なくて良かった。心底思う。


「首の下は市の門の手前に持って来てあるよ。取りに行ってね。手数料は素材代から引いといてね」


 聞くとも無しに彼等の会話が聞こえてしまう。私達は私の昇格祝いの続きもせず、呆然と彼の姿を見つめていた。

 彼は無事に冒険者となれた様だ。

 対応していた男性職員は冒険者ギルドバリュー市支部長らしく、何かお小言を言われている。それはそうだろう。


「これが冒険者ギルドカードか」

 彼がカードを懐に仕舞うのが見える。目が離せない。ずっと見てしまう。ジッと見てしまう。

 私のその視線は、憧憬に満ちていたのだろう。


「…ヴェーツェ、早くここを出よう…」

 私の熱い視線に何かを察したらしいピエールが、私をこの場から連れ出そうとしてくる。今更何?

(放っておいてよ。今までまともに会話しようとして来なかったくせに…)


 私は彼から目が離せない。伝説の勇者。御伽噺の騎士。英雄譚の英雄。そんな類の存在が、今目の前に居るのだ。邪魔をしないで欲しい。


「結構久しぶりにまともに戦ったかもな。イビルアイウルフより強かった」


 彼が独り言を言う。誰に言うでもなく本当に独り言だったのだろう。しかしイビルアイウルフも強敵だ。私達でも連携を取れば一匹なら倒せるだろう。しかし狼型モンスターは群れで行動する事が多い。群れで襲われたら私達では勝てないだろう。

 ギルド内には、今も私達以外の屈強な冒険者がたくさん居る。

 だが私達同様、ジャイアントベアの血で全身血塗れの彼を遠巻きにしてる。気軽に声をかけたり出来る肝の座った人間は居ない。


「少し昂ってるな。女抱きたい気分」


 突然の発言に、ギルド内の緊張が一気に高まる。彼が明らかな目的を持ってギルド内の人間を物色し始めたからだ。

 順繰りにギルド内の冒険者達に視線をやっていく少年。本来なら止めるべき冒険者ギルドの支部長や男性職員達は居ない。彼等は少年が言っていたジャイアントベアの胴体を確認しに行ったのだろう。

 頭だけでこのサイズだ。首無しの胴体が二十体も市の門の前に放置されていたら通行妨害になる。

 冒険者登録をしてしまった以上、速やかに退かさないと責任問題は冒険者ギルドへ行く。


(!?)


 少年の視線が私を射抜く。背筋がぞくりと粟立つ。私は自分で言うのもなんだが、スタイルは良い。顔や胸や尻にも自信がある。勿論長い髪も自慢だ。

 その全てを彼の視線が舐るように観察してくる。

 背筋がぞくぞくして止まらない。

 女としての貞操の危機より、生物としての命の危機を感じる。

 彼がその気なら一瞬で私…いや、この場の全員は皆殺しになるだろう。

 彼が近付いて来る。パーティー全員に緊張が走る。そして彼が放った言葉は―――


「なぁ、ちょっとヤらせろ」


 ストレートな物言いだった。私は思わずビクリと震えてしまう。

 物語の英雄の様な登場に反し…ある意味則っているのか?…かなり俗物的な内容だ。

 私はやや失望しつつ冷静に対応する。女だてらに冒険者をやっていると、こういう絡まれ方は良くされた。

 

「な、なんだよいきなり?ふざけてんのか?お前新人だろ?イキりたいのは解るが礼儀や筋ってもんがあ」

 彼の発言に対し、私はぎこちなく笑いながら応え―――


「うるせーな」


 一睨みで黙らされる。

「ひうっ!?」

 体が硬直する。動けない。


(な、なにこれ!?て、抵抗出来ないっ!体が動かない―――こ、これはまさか―――邪眼!?)


 イビルアイウルフを始め、一部のモンスターが持つ能力だ。人間にも稀に邪眼を持つ者も居ると言うが、彼もそうらしい。私はまるで蛇に睨まれた蛙の様に動けなくなる。


「抱かせろ」

 物凄い言霊を持った言葉が私に浸透していく。彼に言われた事に逆らえない。私は彼に抱かれる。その事に納得、理解してしまう。


「わ、わかっ…から…やめ、て…」

 肩を押さえて震えを止めようとするが抑えられない。それでも彼から目を逸らせられなくなっている。

 魅入られた。魅入ってしまった。

(勇者…なの?それとも…魔王―――?)

 

 …その時だった。

「ま、待…てっ!ヴェーツェから…離れ…ろっ!」

 ピエールが呻く様に声を出した。気付くとパーティーメンバーの皆や、冒険者ギルド内に居る者達が彼に魅入られ身動き出来なくなっていた。

 嗚呼、勇敢なるピエール。貴方の言葉はこの場の誰よりも高潔で尊い。だがそれは…


「なんだお前、殺すぞ?」


 彼の逆鱗に触れてしまった。

 彼の殺意が冒険者ギルド内に充満する。

 受付嬢の何人かや、冒険者の一部が気を失うのが解った。

 もしかしたらジャイアントベアは大人数で狩った成果で、彼は代表でやって来た可能性もあったが、その可能性が今潰えた。

 これほどの殺気の持ち主ならば、ジャイアントベアを単騎で鏖殺しても不思議ではない。むしろジャイアントベア二十頭では少ないと錯覚するくらいだ。


「殺っ…て、みろよ…!」

 脂汗をダラダラ流しながらピエールが挑発している。

 告白前の私だったら、その姿に感動したかも知れない。だけど今の私には、猫の前足に抑えつけられた鼠が藻掻いてる様にしか見えない。


(―――うっ!?)

 彼からの殺意が増すのが解った。殺される。ピエールも殺される。私も殺される。この場の全員が殺される。皆殺される。彼の目に付く者全てが殺される。殺される。もう終わりだ――――――


(…あれ?)

 掻き消える様に殺意が弱まる。相変わらず体の自由は効かないが、一瞬前まで色濃く存在していた死のイメージが遠退く。


(…自制した?)

 震える体を抑えてなんとか彼の真意を探ろうとする。彼は目を瞑って気持ちを鎮めている様に見える。

 そして目を瞑っても邪眼の効果が薄まらない事に気付く。やはりアレは魔法的な視覚効果なのだろう。この場の全員全方位の人間を威圧している訳だから、視界に入らないとか目を合わせないとか、そう言った解り易い対策等では攻略出来まい。


(…彼が女を望んでる。彼が私を望んでる)

 何故かそれが良く解った。彼は私の肉体を求めている。応えなければ。私は彼の物なのだ。

(ああ、嫌よ。嫌に決まってるじゃない。こんな所で見ず知らずの男になんて―――でもこのままじゃ…ええ、彼に応えないと。でもピエールが好きだった。ほらだからあの時決心したのに。あの時私を拒むから、今から私はこの獣の様な男に犯される。貴方のせいだからね?愛しいピエール)


 私は覚悟を決めさせられる。これも邪眼の効果なのだろうか?未だ心に燻っていたピエールへの淡い恋心が抹消される。

 ピエールに震えながら微笑んでやる。

「や、めて、ピエール…私は、大丈夫、だから…」

(この人の物になるの。邪魔しないで)


 私が支えてあげようと思ったのに。

 もっともっと支えてあげようと思ったのに。

 勇者になれないのは最初から知ってる。

 勇者じゃなくてもいい。

 私は、私が尽くすに値する人間に尽くしたかっただけだ。だから邪魔しないで。私はこんな人に犯されたくないっ!助けて邪魔しないでピエール。


「ヴェー…ツェ…」

 ピエールが悔恨とも諦念とも取れる様な表情に顔を歪める。それで彼が諦めたのが解った。

(わ、私…は―――)

 私の両目からはいつの間にか、涙がポロポロ零れていた。頭の中がぐちゃぐちゃになっている。


 だが、そんな私達の感情等は彼には関係無い。

 彼は私を連れてギルドを後にする。

 この事は特に問題にならないだろうと頭の中の冷静な部分が判断する。

 私は自らの意志で彼について来ている。会話の応酬だけを見れば、彼が誘い、私が乗っただけだ。

 夫婦になっていない以上、自由恋愛の範疇だ。後は処女や女の肉体は物理的な価値を認められている反面、金で解決出来る問題にされてしまう。もしも私やピエールが後々この少年を訴えても、ジャイアントベア一頭分の賠償金も支払われないだろう。


 それに邪眼の力の立証は難しい。ピエール達が私を拐われたと言っても証拠が無い。邪眼を使われたと言っても証拠が無い。

 私からはもう、彼が不利益になる様な発言は引き出せない。


―――今からめちゃくちゃ犯してやる―――


 そんな彼の強い意志を感じる。

 今から私は彼の物にされる。だからもう彼に逆らえない。

 あまりに唐突。

 あまりに理不尽。

 しかし私はもう、彼に従うしかなかった。



☆☆☆☆



 冒険者ギルドからすぐの宿屋に連れ込まれた。

「ヴェーツェ。今からお前は俺の便所だ」

「は…ぃ…」

(便所…?恋人、妻にする価値すらないの?)

 蛮族には見初めた女を無理矢理娶る種族もいるらしいが、無理矢理奪われるものの扱いは大切で丁寧と聞く。しかし今の私は堂々と単なる性欲処理の捌け口だと告げられた。

 この出会ったばかりの少年にいきなり惚れたりするのは無理だが、せめて一目惚れとかの建前は欲しかった。

 少年の言葉は私の淡い希望と自尊心を粉々にしたのだった。


 私は震える指で衣服を脱いでいく。

 すると直ぐ様ベッドに押し倒され、胸を隠していた腕をこじ開けられ、固く閉じていた足を押し開かれる。

 邪眼の効果がまだ続いているのかは解らない。

 だが彼とは力の差が有り過ぎる。抵抗は無駄だった。

「うっ…うぅぅ…」

 泣いている私を気にする事無く、彼は彼の欲求を解消する。

 必死に痛みに耐えている私。


(好きな人に…捧げたかった―――)

 婚約者の中年王子でも、拒絶された仲間でもなく、未だ見ぬ誰か、運命の相手と結ばれたかった。


「なんだ、初めてか?初物が続くな。縁起が良いぜ」

 少年の言葉に頭がカッとなる。そんな…野菜屑のスープに肉が入っていたみたいな喜び方はないだろう?


 私が目から涙を零しながら睨んでも少年は気にしていない。よく見ると可愛い顔立ちだ。本当に少年だ。年下なんだろう。年下なんかに、こんなに体を自由にされるなんて―――

 

 少年は昂りを鎮める様に、私の肉体に全てをを吐き出していく。何度も私を抱く事で、少しずつだがあの圧倒的なプレッシャーが弱まっていく。


「よーし、零すなよ?」

 屈辱だった。何故私がこんな事をさせられるのか?比喩表現じゃなく本当に便所にされてしまった。

 こんな、こんな目に…なんで私が…


「今居るパーティーは抜けろ。ギルドでの手続きとか面倒だし。しばらくお前が俺の代わりにやれよ」

(…こんな風に、私の旅は終わるの?)

 ピエール達がフォーゲイルに向かうと聞いて、私は終焉が近づいているのが解った。

 国へ帰れば、里心がついてしまうかも知れない。

 私を探している者達に捕まるかも知れない。

 もしかしたらピエール達はそもそも―――


「はぃ…わかり、ました…」

 私は目が虚ろになるのが解る。自分の声だと信じられないくらい暗い声が出る。

 それでもこんな終わり方は無いだろう?これではあの猿共に捕まり孕まされる事と同じだ。

 ああ、終わった。

 私の人生はここで終わり。

 もしも万が一自由になれる時が来るとすれば、この少年に飽きられ捨てられる時だろう。

 だがその時は…


「折角だしもう一発しとくか」

 少年はぐったりした私を更に追加で犯しに来る。避妊も勿論無しだ。

(そんな…食べ物のおかわりみたいに…)

 例え歪んでいても一方的でも、私を強く欲する者ならまだ自分の気持ちの落とし所も有ったかも知れない。しかし少年からはただの性欲の捌け口として扱われた。遠慮も何も無い。

(この男の子種を孕まされた時、きっと捨てられて自由を得る…)

 でもそれは本当の自由だろうか?

 私の意志に反して艶めかしい声が私の口から出る。

 私の意志に反して少年の首に腕が回る。

 私の意志に反して少年の腰に足が回る。

 ああ、仕方無い。

 これは邪眼のせい。

 これは彼に操られているだけなのだから。



☆☆☆☆☆

 


 少年はエスペルと名乗っていた。彼は別に高名な騎士の息子でもなんでもなかった。ただ強いだけだった。その事実に私の心は別に折れなかった。折れる様な心もプライドももう無い。

「はい、これね」

 リーダーが書くべき重要書類とかを押し付けられる。

「え?あの…」

「やっといてよ。それじゃ」

 彼は今から馴染みの娼婦を買いに行くらしい。散々私に出しておいてまだ女を抱ける事に驚く。

「はい…」

 私は受付嬢のレチュリアに説明を受けながらピエールのパーティーを脱退してエスペルのパーティーに加入する。

 彼は特にパーティー名は設定していなかった。

「ではヴェーツェさんはエスペルさんのパーティーに…」

「待って」

 思わず静止する。

 私はどうしてそう思ったのだろう?

 彼に惹かれているはずなど無い。

 彼は暴力の塊だ。

 彼の圧倒的な力はいずれ、彼を英雄、勇者と呼ぶべき存在へと押し上げる。

(彼について行けば、私も強くなる。私も…勇者パーティーの仲間入りに…)

 勿論別のリスクもある。彼の暴力の矛先が権力者に向いた場合、彼の人間性の善悪を問わず彼は悪となる。その場合、無理矢理連れてかれた哀れな女戦士など一緒くたに仲間扱いだろう。

(成功か破滅か)

 こんな判断は間違っている。何故こんな事を考える?そうか、私はまだ操られているのか。彼は離れているから邪眼の効果は無い。だがきっと一度堕とした相手は永遠に隷属させてしまうのだ。

 だからコレは、仕方の無い事。

「普段はヴェーツェと呼んで下さいませ」

 私は居住まいを正す。

「ですがエスペルのパーティーに加入する者の名はこちらでお願いします」

 私が書類にサラサラと本名を書くと、レチュリアの目が真ん丸くなる。


「コレは…!?えっ?でも…」

「お願い。彼にも内緒、ね?」

 私は人差し指を口元に当て、片目を瞑って微笑む。

 コクリと頷くレチュリア。


「さて、エスペルはGランクだし…手始めに薬草摘みクエストから始めますか」

 私は教えられていた娼館に向けて歩き出す。 

 女遊びをするリーダーを迎えに行く私。


「あ、終わったー?」

 しかし私がギルドを出る前にエスペルが帰って来た。

「エスペル?」

 もう繁華街に行って帰って来たのだろうか?流石に早過ぎる。

「ああいや、ついそこでフリーシアン…知り合いに会って、それでまぁ、用事は済んじゃった」

 妙にスッキリした顔をしてるのでそういう事らしい。私以外にも女はたくさん居るのか。

 ならば私は、私こそが彼に相応しいのだと証明しなければ…

「ふーん?最初は薬草摘みからか。ま、いいや。行こうぜヴェーツェ」

「はい。エスペル様」

 私は主に従う下僕の様に付き従う。いや、実際に主と従僕なのだ。

 

 冒険者ギルドを出ると視線を感じた。

 なんとなく視線を探すと、元パーティーメンバーで斥候役の男と目が合う。彼は私に頷いている。

(何をしてるの?―――あ、そうか。私の救出作戦か)

 真っ向勝負は勿論、不意打ちでもエスペルには勝てない。

 ならば私と彼が別行動している時しかチャンスはない訳だ。

(危なかった。あのまま一人で居たら…彼と離れ離れにさせられていた…)

 私はエスペルにピタリと寄り添う。

「ん?どうした?」

「元仲間が私の奪還を狙っています」

「そうか」

 そう呟いたエスペルは人通りの多い大通りの中、いきなり私を抱きすくめ、唇を奪う。

「―――!?」

 突然の出来事に私も周囲の人間も驚く。

 中には口笛や野次を飛ばす者も居る。


(あ、ファーストキス…)

 そう言えばまだキスはされていなかった事を思い出す。体はもう何度も汚されていると言うのに。順番がめちゃくちゃだ。


「お前はもう俺の女なんだからな。逃げるなよ?」

「はい―――」

 俺の女と言われて身体の奥が疼いたのが解った。

 元仲間の斥候役が驚いているのが解る。

 ああ、でも仕方無いでしょう?

 私は彼に、身も心も操られているのだから………

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