第15話 家出王女の冒険その3 牝犬王女の躾とご褒美
「じゃ、行こっか」
私を凌辱した事などまるで無かったかの様に、朗らかに話しかけてくるエスペル。
「は、はい…」
その無邪気な笑顔に脳が混乱する。さらに私を困惑させるのは、その様なエスペルの事を可愛らしいと思い、笑顔を向けられるのを嬉しいと思う事だ。
(頭がおかしくなっている。きっと操られているのね)
私はそうとしか思えなかった。
そうしてエスペルはGランクの薬草採取クエストにも真面目に取り組む―――訳が無かった。
「ジャジャジャッ!?ジャイアントベアッ!?エスペルッ!エスペルゥゥゥッ!!!」
私は声の限りを叫ぶ。どんなに憎たらしい相手であっても、私に凌辱の限りを尽くす男であっても、今この場で縋れる対象は彼一人しかいないからだ。
「ひっ!?」
目の前に影が差す。
走って逃げた先には、さらに巨大なジャイアントベアが現れた。
見上げる程に大きい。
(フォーゲイル城より…大きい?いやそんな…)
威圧感のせいで大きく感じているだけだ。実際には勿論お城の方が大きい。しかし―――
(こんなのが大量にうちに攻め込んで来たら終わる)
うちの国にジャイアントベア二十頭を撃退出来る戦力などあるだろうか?いや、無い。だから私は隣国に身売りするハメになったのだ。弟が王位を継げば良いので、姉の方は金と兵力を引っ張るために強国への支払いにされたのだ。
(あれ?ならエスペル連れて帰ればいいんじゃ?)
少なくともエスペル一人でうちの国が滅ぼせる事は確定している。
(でもエスペルがうちみたいな狭い国で満足するはずないか。私ですら飛び出すくらいだし)
闘争心を失くし現実逃避を始めた私の視界に変なモノが映る。ジャイアントベアの頭の上に人間が居る。いつの間にかそこに居た人物は、ジャイアントベアの首に腕を回す。ジャイアントベアはその人間を食い殺そうと大口を開ける。だが―――
ギュチチチチチブチィッ!
血飛沫を撒き散らしてジャイアントベアの首がもげる。エスペルの腕がジャイアントベアの首を締め上げそのまま切断したからだ。
首を失った胴体はそのまま後ろ倒しになり地響きを立てた。
「きゃっ!?」
私はその振動で立ってられずに尻餅を付く。
「コイツら縄張りから基本的に出て来ないんだよね。多分臆病なんだよ」
薬草の代わりにジャイアントベアの生首を摘み取ったエスペルが事も無げに言う。彼の手にはもう三個程ジャイアントベアの首が引き摺られていた。
私が呆然としてる間に何頭も片付けたらしい。
辺りを見るとまだ首のある死体がいくつか転がっている。
いったい何頭仕留めたのだろうか?
「あんま獲り過ぎるとまた怒られるからなー。今日はこのくらいでいっか。帰ろうヴェーツェ」
「はい…」
私の主人にとっては、この凶悪なモンスターを狩る事は薬草採取と等しい作業なのだろう。
ジャイアントベアの肉や内臓も高価な素材となる。ただ身体を市まで運ぶと以前の様な大騒ぎとなるため、運搬解体はギルドに丸投げだ。
これは両者にメリットがある。ギルドの低ランク冒険者達への雇用となるからだ。彼等へ支払う報酬や手数料はエスペル持ちだ。これがバリュー市冒険者ギルド支部長との契約になる。
得る金は減るが、エスペルは手間が省けて楽だと言っていた。
「帰る前にちょっと抜いとくか」
「あっ―――」
エスペルが私を草むらに押し倒す。つい今し方凶悪なモンスターをくびり殺した腕で抱き締められ、私は恐怖で身体を震わせる。
「あんま強くない相手でも殺しは興奮するもんだな。鎮めとかないとね」
ジャイアントベアを指して弱いと発言する男に逆らえるはずがない。無抵抗に震える私の中に、猛るモノを吐き出していくエスペル。
「んんっ…」
彼の気が済んだ後は、唇や舌…喉奥まで使って綺麗にして差し上げる。これが私の今の仕事。
フォーゲイルの第一王女でも、Cランク冒険者でもない。
エスペルと言う規格外の化け物の性欲処理係。それが今の私の役割だった。
☆☆☆☆☆
エスペルに付き従いバリュー市に戻り、ギルドにて熊の生首を換金する。そのまま彼は宝飾店へ向かった。ロメロン商会傘下ではい、王都ロイヤルに本店を持つ一流店だ。
「ん〜〜〜宝石とかアクセサリーってよく解らん。ヴェーツェ選んで。ルピアが喜びそうな奴」
「―――はい…」
彼の恋人の一人のためのプレゼント選びに付き合わされる私。
(………本当にルピア嬢が喜ぶとしたら……指輪だろうな)
「これなんかどうでしょう?デザインも宝石もこの辺りでは見ない物ですよ」
私は婚約指輪や結婚指輪のコーナーから目を背け、無難なネックレス類を勧める。しかし…
「一番高いのないの?え?この指輪?じゃ、これでいいや」
冒険者風の男女二人の来店に冷やかしかと思って素っ気無い態度だった女店員が、エスペルの名を聞いて上司を呼んでしまった。
上司は店内で最高額の指輪を出してきやがった。宝石も立派だし、金細工も見事だ。
幸いペアリングではなく一点物だった。
しかしそれをエスペルは選んでしまう。
その指輪は今まで貯めた分の報酬が吹き飛ぶ金額だったが、彼は特に気にしなかった。
その足でロメロンの屋敷に向かう私達。
(湯浴みを…せめて身体を拭かせて欲しい…)
エスペルは気にしていないが、私は自身の匂いが気になったが、諦めた。私に何かを言う権利等無いのだ。
彼の恋人達が、彼の匂いを放つ私を見てどう思うか考えると憂鬱だった。
☆☆☆☆☆
「これを…私に?」
「うん」
戸惑うルピアにエスペルが指輪を贈る。左手薬指に巨大な宝石の指輪を付けて呆然とするルピアを連れてエスペルが去って行く。向かう先はルピアの寝室だろう。久しぶりのエスペルの帰還に、実は初めてらしいプレゼント。
大事な商談をすっぽかしてやって来たらしいルピアは、無言で涙を流して震えていた。
(そんな嬉しいかしら?ペアリングでもないし、あんな大きな石、実用的じゃないし。別に欲しくないし)
特に羨ましくなんかないし。
そんなもので喜ぶルピアが滑稽に見えた。
「…………」
一人ポツンと応接室に取り残される私。
エスペルから特に指示は無い。
(………待てって事よね…)
エスペルはあまり細かい指示は出さないし教えてもくれない。
私は御主人様の用事が済むまで待機するだけだ。
しばらくするとメイドが現れ私は客室に案内される。
客室に通された私にメイドが二人付く。監視、牽制だろう。この二人の事はエスペルから聞いていた。
「どうぞ。ヴェーツェ様」
「…どうも」
彼の女の一人であるベトレイヤから紅茶を出して貰う。居心地が悪い。部屋の中に居るメイドは姉妹だった。姉妹揃って彼のお手付きらしい。しかも姉は元産業スパイで妹は元半グレだ。犯罪者ではないか。
姉のベトレイヤと妹のシュヴェスタ。
エスペルに聞いた所、以前エスペルを嵌めようとして返り討ちに遭ったらしい。なんて無謀な事を考えるのか。そこだけは尊敬する。
そしてその時の事が切っ掛けでエスペルが冒険者として本格的に活動し始めたらしい。いい迷惑だ。
この二人が余計な事をしなければ、エスペルはまだ大人しく怠惰に過ごしてくれていたはずだ。
なので彼女達二人に対しては恨みがましい感情は抱くが、男を寝盗っている後ろめたさは無い。
「…………」
「…………」
「…………ゴクン…」
私の紅茶を飲む音がやけに響く。
(…嫌われてるわね)
…そうなのだ。エスペルはモテる。モテると言うか、見境無く女に手を出している。
私としては信じられないのだが、真っ当に口説いたりした女も居る。危ない所を助けられ、なし崩し的に男女の関係を持った者も居る。
そのためなのか、無理矢理力尽くで犯され奴隷の様にされている私はあまり同情されない。
逆に、あのエスペルがお気に入りとして今現在手元に置いていると言う事で、嫉妬の感情を抱かれている。勘弁して欲しい。
「そんなに私が気に入らないかしら?」
澄まし顔のベトレイヤに話しかけるが、答えは違う方向からやって来た。
「気に入らないっすねぇ。私らが必死こいてあの人に気に入られ様と媚びてるってーのに、横から掻っ攫ってった泥棒猫ぶぎゃっ!!!」
妹のシュヴェスタの方が噛み付いて来た。ただ速攻で姉にチョップを食らっている。
「お客様にご無礼を働き申し訳御座いません」
ベトレイヤが完璧なお辞儀をしてくる。
(この人―――強い)
ただのメイド、ただの元スパイではあるまい。
「貴女達は、エスペルに敵対してたのでしょう?」
エスペルから聞いた話を元に核心を突いてみるが、もうシュヴェスタは答えない。代わりにベトレイヤが美しい笑みを浮かべる。ゾッとする様な笑顔だ。
「私達はあの方より洗礼を受けました。貴女様は随分と丁寧に大事に扱われている様で…」
丁寧?大事?この女は知っているのだろうか?私が毎日どんな辱めを受けていると――――
「貴女様は、四肢を引き千切られながら犯されても屈服しない自信がありますか?」
私が息を飲む。
何の話なの?
「ヴェーツェ様のお仲間は生かされているのでしょう?もしも彼等がモンスターに生きたまま食われるのを見せつけられ、その直後に妹ごと犯されたらどうです?屈服せずにいられますか?」
私は答えられない。
ベトレイヤの視線は超然としている。
もしかしなくとも、彼女の身に起こった事実なのだろう。
「もしくは腹に大穴を開けられた後に、傷治すついでみたいに犯されるのはどうっすか?自分もなんて非道い目に遭うのかと思ったけど、お姉ちゃんの犯られてる姿見てたら、ああ、よく生かして貰えたなぁ〜と思ったっすわぁ」
ベトレイヤの言葉にシュヴェスタも追従してくる。そんな二人の態度に私は思わず反論してしまう。
「それはっ!貴女方が彼に攻撃を加えたからでしょうっ!?私は何も―――」
「彼に見初められたのは貴女でしょう」
「え?」
私が呆気に取られる。
「そ、れは私の落ち度では…」
「羨ましい」
え?何?話が噛み合わな―――
「貴女様は特別です」
ベトレイヤの視線に熱が帯びる。
「助けた訳でも、敵対した訳でも、何かしら関わる理由があった訳でもない」
ええ?だから、私は理由も無く辱めを………
「ただただ欲しかったから求められた。その事がどんなに奇跡的か…」
え?いや、人生最大の不幸だと思ってますけど…
「彼に抱かれるのがどれだけ光栄な事か…」
あ、ヤバイ。この女ヤバイ。
(ど、どうすれば、こんな―――崇拝に変わるのっ!?それだけの事をされてどうしてっ!?)
彼女達姉妹の言を信じるならば、嬲り殺しに近い形で犯され…たまたま生かされた。そんな印象を受ける。確かにそれと比べて私は幸運…なの?だけど私は別に彼の不利益になる何かをした訳では―――
(理由も無く、ただ在るだけで…他人を理不尽に犯して殺す。そんなのはもう―――)
未曾有の厄災、大自然の災害、神が下す天罰、魔王の気まぐれ―――そしてそれを覆す者…伝説の勇者。つまりは…
(人外の存在…)
「え?何この空気?」
何の脈絡も無く、話の焦点であるエスペルが入室して来る。平常時の彼はごく普通の少年に見える。彼の膂力に見合う武器が無いので基本的に素手で、鎧も装備していない。その没個性さも恐ろしい。彼ならば敵国の中枢にするりと侵入し、大々的なテロも行える。
「エスペル様。ルピア様は?」
ベトレイヤとシュヴェスタが素早く彼の前に跪く。
「寝ちゃった。久々過ぎて激しくし過ぎたな。一発でダウンしちった」
エスペルがガシガシと頭をかく。
彼のスタミナや持続力は、鍛えてる私でも失神する程だ。戦闘職でないルピア嬢では堪らないだろう。
「では―――」
「私達が…」
手慣れた仕草でエスペルのズボンを脱がしにかかるメイド姉妹。
「そう?悪いね。仕事中じゃね?」
そう言いつつも、エスペルは二人の頭を優しく撫でている。
ズキン…
目の前で違う女に優しくする彼の姿に、私の胸の奥に何かが走る。何、コレ?―――
「んっ…エスペル様にお仕えするのが我等姉妹の使命」
「はむ…どうぞお好きにお使い下さいませ」
ベトレイヤもシュヴェスタも、私に対して見せていた冷たく敵意に満ちた態度を一変させていた。
話に聞くに、恐ろしい折檻と共に凌辱され屈服させられたはずなのに。
彼女達の瞳には、敬愛する者に奉仕する悦びが満ちている。
(気持ち悪い…)
私の事など居ない者として扱い乱れ始める三人。その痴態を見せつけられ、私は言い様も無い不快感を抱く。そしてその事にショックを受ける。
私が抱いてる不快感の正体は、おぞましい行為をする三人に対する嫉妬の感情だったからだ。
「ヴェーツェ、おいで」
二人を存分に犯し終えたエスペルに呼ばれる。
「んっ!…は、い―――」
ビクリと身体が反応してしまう。体の芯が、下腹の奥の方が熱い。
期待をしてしまう自分を抑え込み、エスペルの前に跪くと―――便所として扱われる。
「ちと飲み過ぎた」
ルピアは高級酒を愛しい男に振る舞った様だ。彼自身は酩酊状態にはならないが、利尿作用は働いたらしい。
「――――んっ」
私は内側から汚され、自尊心もさらに粉々に壊される。
だが心の何処かが満たされる。
彼から与えられる熱い迸りが、ひび割れた私の心の隙間に流し込まれていくみたいだ。
「………んく…」
一滴も零さすに飲み干すと、エスペルが私の頭の上に掌を置いてくれる。
「いい子だ」
頭を撫でられ、不本意ながらも…悦びを感じる。
ああ、私はまた操られている。これは操られているだけだ。別に彼の瞳は妖しく光っていない。威圧感も感じない。そうか、きっと邪眼による魅了はすでに完了しているのだろう。
でなければ―――
(操られていなければ、こんな屈辱的な扱いを悦んで受け入れられるはず、ないもの―――)
興が乗ったのだろう。エスペルが無表情の中で少しだけ頬を歪める。私の長い金髪を首に巻き付けてから手に持って引っ張る。
「うくっ…」
自分の髪の毛に圧迫され、思わず私が呻き声を上げる。そんな私をつまらなそうに見下ろしながら、御主人様が命令する。
「鳴け」
そう命じられた私はその通りに従う。だって私は操られているのだもの。これは仕方無い事だもの。
「わん」
そう一声鳴くと、エスペルが私の身体を絨毯に押し倒す。流石はロメロン商会の屋敷だ。客室にすら豪華な絨毯が敷き詰められている。
「ご褒美だ」
「わ…ん…」
私は発情した牝犬の様に腰を振り、彼を誘う。
なんというはしたない行いなのだろう。
数日前の過去の私がこの未来を見せられてたら、きっと発狂して自殺していた事だろう。だけど今の私は―――
「きゃうんっ!」
「可愛い声で哭くな。この犬っころは」
―――御主人様に躾けられ、調教されるただの犬。
しかしこれは仕方無い事なのだ。
だって私は無理矢理操られているのだから―――
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