第2話 魔王討伐の旅へ…

「よっ!エスペルっ!これ食えよっ!お代は要らねぇからよっ!」

「あ、りがとぉ…」

 屋台のおっちゃんからただで貰った串焼きを齧る。


 俺は英雄になった。いや、英雄かなぁ?単身モンスターの群れへ特攻かまして村長父娘を救い出したから…英雄か?

 あの時の事、良く覚えてないんだよね。

 俺には魔法の剣があって、思ったよりモンスターが弱かっただけだ。

 きっとあの貴族のボンボンでも勝てたはずだ。ドラゴンにも勝てるって言ってたし。


「あの腰抜けのバカなんぞに娘はやらんっ!ワシはともかくっ!ホーミィを置いて逃げたのだぞぉっ!」


 あのボンボンは最初に尻尾巻いて逃げ出したらしい。あの後すぐに山狩りの捜索隊が派遣され、死体も遺留品も見つからず諦めかけた頃に見つかった。全部が終わった後にひょっこり現れたのだ。

 実の親から締め上げられて白状したのは、ビビって逃げ果せた後、恋人の家でほとぼりが冷めるまで隠れていたとの事。

 父親はカンカンではあったもののやはり子供には甘かった。村長に謝罪しつつ輿入れのやり直しを申し出て来て村長がキレた。そらそーだ。

 村長は今は、町長のさらに上の貴族に申し立てをしてるらしい。婚約破棄と賠償金の請求だ。


(しかし素晴らしい逃げっぷりだな。見習いたいもんだね)

 俺は初めてあのボンボン貴族に親近感を覚え、尊敬の念すら抱いた。


「エスペル。後はお前だけが頼りじゃ。ホーミィを頼むぞ?」

「はぁ…」

 村長に肩を叩かれる。

「エスペル。今まで本当にごめんなさい。許して…くれる?」

 あれだけ俺を忌み嫌い遠ざけていたホーミィが、体を密着させてくる。

「うん、いーよ?」

「嬉しいっ!ありがとうっ!」

 俺がなんとなく頷くとホーミィが抱き着いてきた。おっぱいやらわけー。


 それからしばらくして、ホーミィとあのボンボンの婚約破棄は確定した。偉い貴族様もさらに偉い貴族様には逆らえないらしい。世知辛いねぇ。

 ただボンボン貴族はすぐに別の村の娘と結婚したらしい。頑張って逃げろよ、ボンボンッ!


 そして俺とホーミィはと言うと…


「エスペル…好き。もう私達の間を邪魔する物は無いですわ…」

「ああ、えーと、俺もだよ、ホーミィ…」

 生まれたままの姿の幼馴染が俺の目の前に居た。

「ん…」

「………」

 なんか、これでいいのか?俺の中で、可愛かった頃のホーミィと、今までつれなかったホーミィと、今の発情したメス猫みたいなホーミィがまったく重ならないんだよね?


「好きっ!好きなのっ!エスペルッ!」

「ああ、俺もだよ、ホーミィ」

 そうして俺は初恋の相手と初めてを終えた。…幼馴染が処女じゃなかったのが少し気になったが、まぁ些細な事さね。

 妄想の中で何度犯したか解らない彼女を、毎日思う存分に抱きまくった。

 心の中には裏切られた事と掌返しの事がモヤモヤしてたけど、それと下半身は別の物らしいね。

 むしろ…


「よくも約束を破ったなっ!この裏切り者がっ!」

「ああっ!?許してっ!許してエスペルッ!」

「どうせまた裏切るんだろっ!」

「罰してくださぃっ!好きにしてぇっ!あなたの好きに折檻してくださいましぃっ!」


 たまたま思い出しムカつきして苛々した瞬間と、ホーミィが寝室にやって来たタイミングが合った時、思いっきり詰り責め立てながら犯したらむっちゃ興奮した。ホーミィも凄く悦んでいた。

 うーん、不健全だよね。それは解ってるんだけども。


「で、式はいつにするんだね?ん?」

「ははは、はぁ、あ、ちょっとモンスター倒して来ますね?」

 村長の中ではもう、俺と愛娘をくっつける算段の様です。度々俺を仕事の補佐をさせようとして来るのをその都度丁重に断る。

 勘弁して欲しい。


「…少し試したい事があるんです」

 俺は一人で森に入りゴブリンとオークを殺しまくった。他のモンスターも倒した。なんか蜘蛛っぽいのとか?色々。


「やっぱりだ。俺は強くなっている」

 俺はようやく、逃げ出したい現実と向き合えた。

「俺は強い―――いや、強くなってる」

 倒せば倒すだけ、殺せば殺すだけ強くなっていくのが解る。

 あの時の戦闘は初めてで本当に混乱してはいたが、あの時より今、強くなってるのが解る。

 剣を使ってたとはいえ四、五匹くらいしか倒せなかったゴブリンを―――


「よいしょー」


ボキャキャキャキャキャッ!!!


 拳一撃で十匹以上を殺せた。うん、楽しかった。スッキリしたしね。

 そうやって仕事もせず、昼間はモンスター狩りをして強くなる実感に酔いしれ、夜は幼馴染の豊満な肉体を好きに頂く。

 そんな日々を続ける。いや、一応働いてたかな?モンスターを倒すと国からお金貰えるからさ。

 いつまでも自分の補佐しない俺に、村長は少し残念そうにしていた。が、武勇に優れた男と言うものも悪くないと思ったようで、町から頑丈な剣や鎧を取り寄せてくれた。

 一応貰っておいた。ありがとう村長。



☆☆☆☆☆



 しかし、そのうちに村の近くのモンスターは粗方殺し尽くしてしまった。

 モンスター達に知恵やコミュニティがあるのかは解らんけど、この村には俺と言う脅威がある事が情報共有されたのかも知れない。

 村人に頼られ、村長から信頼され、可愛い幼馴染に愛され、俺の人生は順風満帆に見えた。

 そう、俺の望んだ、穏やかな日常だ。


「あまり強くなった気がしない」


 ゴブリンやオークを殺してもなんかあんまピンと来なくなってきたわ。

 これは女にも例えられるかも知れない。

 ホーミィとは最近マンネリ気味だ。あとここ一週間くらい夜の相手を拒否される。なんか素っ気無いしな。俺が乗り気じゃない時は勝手に咥えて跨って来るくせに…またか?またなのか?


「まさか、他に男が?いや、そんなはずは…」

 一度裏切られたせいか、嫌な想像をしてしまう。処女じゃなかったしなぁ。誰が相手だ?あのボンボン貴族か?それとも他の村の男か?なら今はそいつと…


「くそっ!」

「きゃぁっ!?」

 俺が大声を出すと背後から悲鳴と人が転ぶ音。振り返るとシェリーが倒れている。メイド服がびっしょり濡れていた。

「あ、あの、その、お水を…」

 どうやら俺に水を持って来てくれたらしい。そういや俺がなし崩し的にホーミィと結ばれてこの屋敷で暮らし始めてから、妙にシェリーと会わなくなってたな。

 避けられてた?何故?


オマエモオレヲ裏切ルノカ?


「シェリー。そのままじゃ風邪引くぞ。さぁ、こっちへおいで…」

 まぁとにかく今は服を脱がした方が良いな。

「あっ!だ、駄目ですっ!エスペル様ぁっ!?」

 俺はシェリーをひょいと拾うと自室に入る。ここは俺に割り当てられた部屋だ。婚約者ではないが、村長公認の恋人って事で客分扱いを受けていた。なのでこの部屋は…


ガチャリ


「ひっ!?」


 …誰も勝手には開けられない。俺が扉に鍵を掛けた音を聴き、シェリーの体がビクリと震えた。



☆☆☆☆☆



「や、だ、駄目ですっ!いけませんエスペル様っ!」

 他人行儀な言い方に苛つく。あの日までは仲良く冗談も言い合っていたのに。差し入れも、お弁当も、美味しかったのに。


「ほら、服を脱がないと風邪を引いてしまうよ?」

 俺はシェリーのか弱い抵抗を無視して衣服を脱がしにかかる。

「だ、だめっ!?」

 思ったより抵抗される。なんだよ?脈アリだと思ってたのは俺の勘違いか?破かない様に加減して脱がすの難しいぜ。


「なんで駄目なんだ?」

 素に戻り普通に訊ねてみる。

 するとシェリーも答えてくれた。

「だ、だって、エスペル様はもう、ホーミィ様の、ものですから…」

 涙目になり震えながら俺を見上げてくるシェリー。


 なんだ、俺の事好きなんじゃん。

「シェリー…」

 俺はゆっくり優しくシェリーのメイド服を脱がす。

「だって貴方は、私の静止を振り切ってまで、命がけでホーミィお嬢様を救けに…」

 ああ、それで自分が捨てられたと思ったのか。

「襲われてたのがシェリーでも、俺は救けに行ったさ」

 多分。恐らく、きっと。

 俺は誤解を解くためにシェリーの下着を剥ぎ取る。

「嘘っ!そんな、事で…」

 俺に裸ん坊にされたシェリーが胸元と股間を隠している。体は小刻みに震えているぜ。好きな相手と結ばれる事に悦んでいるんだろ?


「シェリーの作るご飯、美味しいよ?」

 俺はシェリーの顎をくいっと持ち上げる。

「ホーミィ様は…」

 俺を見つめるシェリーの瞳は涙で濡れている。なんだよ?笑ってくれよ?

「あいつ料理下手だし」

 それは本当。俺のが上手くて美味い。


「あっ!?」

 俺はシェリーの両手を頭の上へ回し片手で封じる。ゴブリンやオークの首を片手で捩じ切れる俺の腕力に抑えられ、彼女は身動き一つ出来無くなる。

「お願いです。ひっ!?お許しを…ひうっ!?」

 俺の舌が上半身に伸びる度に、シェリーは体を震わせる。

「駄目だ。今からお前を抱く」

「いやぁっ!?」

 俺はシェリーの耳元で囁いてから、唇を唇で塞ぐ。

「んんっんーーーっ………」

 その後は結局、抵抗しないどころか向こうから求めて来た。なんだ、やっぱり俺の事好きなんじゃん。



☆☆☆☆☆



 てな訳で、最近ホーミィの体にも飽きて来たので、気分転換にシェリーにも手を出してみた。最近ホーミィの様子がおかしいし、仕方無いよね?

 シェリーはちゃんと処女だったよん。感動〜。


「す、すみません。すぐに洗濯を…」

 シェリーはシーツを血で汚した事、処女である事を申し訳なさそうにしていた。いや全然嬉しいんだけどな。

 シェリーは俺と同じく親無しの身の上の薄幸な美少女だ。親近感が湧く。逃げたくなってきた。


「…本当は、貴方が…お嬢様の夫になる前に…こうなりたかった…」

 幼く未発達な肉体は柔らかさより硬さもあった。だが、それがいい。俺はシェリーの体を優しく抱擁しながら囁く。

「ん?まだ結婚どころか婚約もしてねーぜ?」

 俺がシェリーの耳を甘噛みしながら囁く。

「ひゃんっ、嘘吐き…んむっ」

 俺はシェリーをキスで黙らせると、まだ未発達な肉体を弄ぶ。

 …確かに婚約はしてたな。遥か昔の子供の時の約束だけど。


「うぅ…エスペル様…もぉ、許して…」

 その日から俺は、ホーミィが避けるのを良い事にシェリーを良く自室に連れ込む様になる。

 シェリーも最初はお嬢様や旦那様への罪悪感から苦しそうにしていたが、そのうち自ら俺の部屋に来る様になった。ああ、逃げたい。

 

「ああ、くそっ!」

 甘えられ、求められる様になると、今度はいつ裏切られるんじゃないかって不安になって来る。

 力は強くなった。その気になれば村人全員皆殺しに出来るくらい俺は強い。

 けれど心は弱いままだ。俺って、こんなに弱かったっけ―――?



☆☆☆☆☆



「ねぇ。エスペル」


ギクリッ


 最近避け続けていたホーミィが話しかけて来た。

「話があるの」

 やべぇ。バレたか?


 実はシェリーの事も怖くなってきた俺は、外に女を新しく作ってた。宿屋に泊まってた流れの戦士?傭兵だったかな?

 なんか腕っぷし自慢で、勝ったら抱かしてやるって気前良い事酒場で言ってたから…ボコッて犯してみた。

 ここ数日はそいつの宿屋の部屋で寝起きしてたんだよね。

 バレたのどっちだろう?


「あのね」

「うん」

 

 ゴクリと生唾を飲み込む。


「来ないの」

 ん?何が?

「月のものが…」

 ああ、そっち?

「うん。そうか」


 まぁね。そりゃそーよね。

 ヤリまくってるもん。



☆☆☆☆☆



「ああ、逃げたい」

 俺は自問自答する。

 悪くないじゃんね?

 幼馴染は可愛いし、何より体がエロい。

 メイドも愛妾として囲むくらいならしてやれるだろう。あの女戦士も囲ってやっても良い。


 俺の母親もそんな感じだったんだろうしな。きっと誰かの妾だったんだろ。そんな俺が妾を囲うのも因果なもんだけどな。


「だが、これでいいのか?」


 このまま、こんな小さな村で俺は終わるのか?

「逃げたい」

 モンスターを倒せば強くなる事は解ったんだ。

 だが、もうこの辺にはモンスターが居ない。

 そもそもゴブリンやオークじゃまるで成長する気がしない。

 そして何より…


「村の外には、もっとたくさんの女が居る」


 あの貴族のボンボンは見た目だけは良かった。あ、いや別にアイツ自身に興味は無ぇよ?

 貴族の男があんだけキラキラしてたんだ。

 箱入りの貴族令嬢とか、いったいどんだけ素晴らしい女なのだろう。

 きっと、こんな田舎に居る女達とは比べるべくもないのだろう。


「よし。俺はさらにモンスターを倒し、もっと強くなって、たくさん女とやるぞっ!」


 俺は大義名分を見つけて喜んだ。

 これで堂々と逃げれる事に喝采を上げる。

 村人から戦力として頼られてる気配からも逃げたかったし丁度良い。


「逃げよう」


 嫌なもの怖いもの全てから逃げるため、魔王を倒す旅に出るんだ。



☆☆☆☆☆



 翌朝の事である。

「エスペル?何処へ行ったの?」

 ゆったりしたドレスを着たホーミィが屋敷内を、愛する男を探して彷徨う。

 父が買ってあげたけど一度も使っていなかった剣と鎧が…消えていた。


「ま、まさか逃げたんじゃ…」

 家人達もオロオロする。あれだけのモンスターを撃滅出来る男を、探し出して連れ戻す等不可能だ。

「お嬢様…て、手紙が」

 シェリーが震えながら手紙をホーミィに差し出す。なんて使えない娘だろう。彼を繋ぎ止めるために姦通も許したと言うのにっ!

「寄越しなさいっ!」

 引ったくる様に手紙を奪い取るホーミィ。破く様に手紙を開く。



『ホーミィへ。魔王軍によって人類が脅かされている。きっと村の周りのモンスターをただ倒すだけじゃ君を幸せにしてやれない。生まれて来る子供のためにも、俺は魔王を倒して勇者になる。君だけの勇者より』



 それを読んだホーミィは、側にあったソファにドサリと座る。

「…私、待ってるわエスペル。魔王を倒して、勇者になるのを…」


 顔をくしゃくしゃにして涙を流しながら、ホーミィが呟く。

 体でも、子供でも、縛り付ける事が出来なかった…

「私の元に、戻って来るのを―――」 



 こうしてエスペルは、魔王を倒して勇者となるため旅立った。

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