第95話 水神龍の湖底遺跡



 ……。



 …………。



「ギュボボボボボベッ!!」



「うわっ!! な、なんだ? 外に出た?」



 水神龍の音泉にいきなり現れた巨大ヤツメウナギに飲み込まれ、しばらくそいつの口の中で訳も分からずじっとしていたらいきなり口が開いてペッと吐き出された。

良かった、飲み込まれて下から出るパターンじゃなくて……



「ここは……なんだ? アトランティスか?」



 オレが今いるのは、ハイドラ湖のどこかの水底……なんだろうか。

目の前には大理石系の白い石材で建てられた古代の遺跡のようなものが広がっている。

周りを見ると透明なドーム状の膜が張り巡らされており、外の世界とは隔離されている雰囲気を感じる。



「すごい、本当に息苦しくないぞ」



 ヒメさんから受けた祝福の効果が発動しているのか、水中にいるのに地上と同じような感覚で過ごすことが出来ている。

身体も軽く、水圧の影響をあまり受けずに行動することが可能になっていて、なんだか不思議な感じだ。



「おお、泳ぐスピードもかなり速くなってるんじゃないか?」



 前世でダイビングなんてやったことないし、泳ぎも別に得意な方ではなかったけど、今ならイルカと競争しても勝てる気がする。

これも人魚の祝福のお陰だろうか。



「いやイルカは無理だな……ウミガメくらいか」



 遺跡の中はかなり広く、いくつもの建物やオブジェのような物が設置されていた。

まるで水没した古代都市……ロマン溢れるダンジョンだ。



「ん? あれは……船か?」



 周囲を見渡しながらしばらく遺跡の中を進んでいくと、海賊が乗っているような沈没船を発見する。

これまた男のロマンというか、財宝でも眠ってたら最高というか。



「それにしても、こっからどこに向かえば良いんだ?」



 ヴォルケイム火山地帯にあるクルースニクがいるダンジョン『炎神龍の岩窟』は、地上から正規ルートで攻略した場合はひたすらに下の階層へ降りていけば良いからシンプルではあったと思う。

その分階層数がはちゃめちゃに多かったが。

しかしこの遺跡は既に水底にある為、ここから更に地下階層へ……という感じではなさそうだが、遺跡自体はかなり大きい。



「おーい、オーケアニスー……?」



 …………。



「駄目だ、何も話しかけてこない」



 地上にいた時よりも近づいているはずなのに、全くもって声が聞こえなくなってしまった。

ここから先は自力でたどり着け、ということだろうか。



「祝福の効果が切れる前になんとかしないとな……ん?」



 まずはどこから調べようか辺りを眺めていると、目の前にある沈没船の中から何かが這い出てくる。あれは……



「カクカクカクカク」



「うわっ! ガイコツ海賊団だ!」



 沈没船の中から出てきたのは、海賊のような服装をしたガイコツの戦士だった。

おそらくアンデッド系の魔物か何かだろう。



「カクカクカクカク」



「うーん、動きは遅いけど、明らかにこっちに向かってきてんな……」



 ガイコツ海賊団は、いわゆるカットラスと呼ばれる刀身が短く歪曲した剣を装備していた。

さすがに仲良く魚を捌いて食おうということではないだろう。



「仕方ねえ、とりあえず最初はこの沈没船エリアから攻略していくか!」



 こうして水神龍オーケアニスの元へとたどり着くための湖底遺跡探索が幕を開けたのだった。



「カクカク、カクカクシカジカ」



「四角いムーブすんな」

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