第93話 儀式を終えて



 ……。



 …………。



「ちゅぱっ! ふぅ、こんなものかな~。どう? ホムラくん。祝福だいじょぶそ?」



「…………はい」



 やっと、終わった……なんかもう、一生分キスされた気がする。

ちょっと休憩して窒息寸前の長い長いキス、またちょっと休憩してキス……というのを夜通しノンストップで繰り返し、人魚の巫女、ヒメさんとの祝福の儀式は無事に終了した。



 いや全然無事じゃないけどな。初めての体験とひたすら窒息寸前キス耐久で肉体的にも精神的にも疲労困憊だよオレは。

人魚の祝福、インフェルノゴーレム戦よりしんどかったかもしれない。



「あ、ありがとうございました……」



「ふふ、ホムラくん初めてなのにがんばったね~。普通の人ならとっくに失神してるよ」



 1回の祝福で、約30分から1時間弱くらい無呼吸で水中に留まることが出来るようになるらしい。

それを半日近く、ひたすら繰り返し……今のオレなら数日、いや十日以上は水中で活動が可能になっているはずだ。



「その、人魚の巫女からの祝福は、謝礼とかは……」



「んふふ~。普通はそれなりのお布施を貰うんだけど、ホムラくんはプレミアムロマンスプランだし、わたし気に入っちゃったし~お金とかはいらないかな~」



「い、いやでも、それはさすがに」



「じゃあ一緒にお風呂入ろうよ。背中と鱗洗って~」



 この後めちゃめちゃヒメさんを洗ってあげた。



 ―― ――



「ふう……よし、行くか」



 祝福の儀式を終えて風呂に入ってさっぱりしたら、一気に睡魔が襲ってきてそのままヒメさんと爆睡。

グッスリ眠ってごはんも食べて完全回復したオレは、何故かお肌ツヤツヤのヒメさんに見送られながら宿を出て、再びハイドラ島のダンジョンエリアへと足を踏み入れた。



「半日分くらい祝福が減っちまったが、まあそれは仕方がないな」



 ヒメさん曰く、祝福の効果は水に潜っている間だけ発動とかではなく、現在進行形で発動中らしい。

はやく泉まで行かないと無駄になってしまう。



「それにしても、まさか人魚の祝福がキスだったとはなあ……」



 しかも頬とか額に軽く口づけ、とかじゃなくてガッツリエグやつ。

なんだろう、この1日で一気に大人の階段上がった気分だ……いや別に、キス以上の事はやってないんだけど。



「マーメイド族、エグイな……」



「誰がエグイって?」



「うわぁっ! って、ピッチさんか……びっくりした~」



 泉に向かって再び道の悪いジャングルを進んでいると、茂みの中からピッチさんを含む数人のマーメイド族の女性が現れる。

マーメイド居住区を守る自警団をやっている人達だ。



「ピッチさん、何してるんですか?」



「ダンジョンエリアの定期巡回だ。特定の魔物の数が増えたりしていないか、ダンジョンに入ったまま行方不明になった冒険者がいないか捜索をしたりな」



「そういうのもやってるんですね」



 そういえばオレも冒険者ギルドのお姉さんから人探しのクエストをひとつ頼まれてたな。

なんだっけ、たしか……



「ピッチさん、ドンファンっていう人間族の男の人知らない? なんかハイドラ島に行ってから行方不明らしくて」



「ドンファン? うーむ、聞いたことあるような無いような……お前ら知ってるか?」



「ドンファンさん……」



「人魚新地のブラックリストに載ってたような……」



 ブ、ブラックリスト? そんなのがあるのか……さすが歓楽街というか、なんというか。



「そのドンファンというやつについては少しこちらでも調査しておこう」



「ありがとうございます」



 さすが自警団代表ピッチ姐さん、頼りになるマーメイドだ。



「ん? ホムラ、お前……」



「な、なんですか?」



「なんか雰囲気変わったな。遂に漢になったか?」



 なってねえよ。

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