第92話 人魚の祝福



「人魚の巫女? あ、それわたしのことだね~」



「え?」



 再び険しいハイドラ島のジャングルを歩き、水神龍の音泉から人魚新地にある宿まで帰ってきた。

オレが泊っている宿屋『ロマンスホテル・キャッスルバニラ』のプレミアムロマンスプランは、何故かマーメイド族の女の子が一人常駐して色々サービスをしてくれるというオプション付きなため、今もマーメイドのお姫様とか自称するお店の女の子から半強制的にマッサージを受けていた。



「それにしても泉まで一人で行ってきたんだ~それじゃあさぞお身体の方もお疲れでしょうね~」



「いだだだだだだ! なに!? 足つぼ!?」



「あ、腰と背中もバキバキ~。針ブスブスして火も着けちゃおっか」



「いやいい、もういいです」



 火はいつも着いてるから。お灸やりまくりだから。



「そ、それより、君が人魚の巫女っていうのは……」



「人魚新地の奥に水神龍様の祠があるでしょ~? あそこ、わたしのお家が管理してるんだ~」



「そ、そうだったのか……君の家が祠を」



「というわけで、ロマンスホテル・キャッスルバニラ所属のマーメイド姫改め、ハイドラ島当代祠守のヒメで~す! よろしくねっ」



 この人ヒメって名前だったのかよ、紛らわしいなおい。



「祠守なのにここで働いてるの?」



「そうだよ~。まあ副業っていうか、趣味みたいな感じだね」



「趣味……」



 まあ、お金が無くて嫌々やってるよりは良いのかもしれんが。



「それで、人魚の巫女がどうしたの~? お祓いとかやって欲しい感じ?」



「いや、お祓いじゃなくて」



 てかヒメさんお祓いとかできんの? ちょっと興味あるな……



「人魚の祝福……って何か知ってます?」



「ホムラくん祝福受けたいの? どうしよっかなあ……まあホムラくんなら良いかな~」



「あ、そんな人を選ぶ感じなんだ」



 どうやら無事にオーケアニスが言ってた人魚の祝福とやらを受けられそうだ。



「それじゃあ早速やっちゃう? あ、ていうか何日分の祝福が欲しい感じ?」



「な、何日分? いや分からんけど……長ければ長いほど良い気はするが」



「お、中々ガッツがあるね~。じゃあ頑張れるだけ頑張ろっか」



「お、お願いします……?」



 マッサージを終えて、お風呂で身体を清め、ベッドに座って二人で向かい合う。

てっきり水神龍の本堂で儀式的なのをやるのかと思ったけど、この場でパパっと出来るらしい。



「それじゃあホムラくん、今から君に人魚の祝福を授けます……朝まで寝かせないからねっ」



「えっ……むぐぅ!」



「ちゅ~っ!」



 あ……ありのまま今起こった事を話すぜ……!

マーメイド族の巫女、ヒメさんに人魚の祝福をお願いしたところ、いきなりベッドに押し倒されてキスされました。

ほっぺとかおでこじゃなくてガッツリ唇に。



「む、むぅ~!?」



「ちゅ~っ!」



 し、しかもめちゃめちゃ長いうえに、何故か鼻呼吸もできない……キスってこういうもんなのか……? い、息が……!



「ちゅぱっ」



「ゴホッ!? ゲホッ! はあ、はあ……」



「はい、お疲れ様~。1回目おわり~」



「はあ、はあ……な、なにするんですかいきなり……」



「これが人魚の巫女が授ける祝福だよ~。今のホムラくんなら、1時間……は厳しいかなあ。45分くらいは息継ぎ無しで泳げるんじゃないかな?」



 な、なるほど……祝福を受けろっていうのはこういう事だったのか。

これで一時的に水中での活動が出来るようになるから、オーケアニスがいるであろう湖の底まで泳いで行けるってわけね。

でも1時間弱泳げたところであんまり意味ないよな……炎神龍の岩窟は256階層もあって、脱出するのに数日かかったわけだし。



「はい、休憩終わり! それじゃあ2回目、いってみようか~」



「えっ? いやちょっと待っむぎゅぅ!?」



「ちゅ~っ!」



 この後、半日近くかけてひたすらヒメさんから酸欠一歩手前みたいな過酷なキスをされ続けた。

……オレのファーストキス、人魚姫かあ。

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