第91話 水神龍の音泉



「ここが、泉か……?」



 マーメイド居住区からダンジョンエリアへ出発してひたすらジャングルの中を歩き続け、太陽が南の空にたどり着いた頃。

オレはパッチさんから貰った地図に記載された目的地『水神龍の音泉』に到着した。

そこには、水がほとんど枯れた石造りの巨大な池のようなものがあり、周りにはモアイみたいな謎の石像や、ストーンヘンジみたいな不思議なオブジェが立ち並び、まるで古代の遺跡のような雰囲気を醸し出していた。



「昔はここが溢れるくらいに水が湧き出ていたんだよな……」



 ここまで歩いてきたジャングルはまるで洪水でもあったのかと思うくらい地面が浸水していたのに、この泉の周りは急に別の場所に来たかのように乾燥している。

まるでオアシスの中に小さい砂漠があるような……逆オアシス? なんだよ逆オアシスって。



「お、ここにも水神龍の石像が……って、ここから水が出てるのか」



 泉の端に置かれた水神龍オーケアニスを型取ったであろう石像の口部分からわずかに湧き水が出ているのを発見する。



「まるでマーライオンだな」



 『マーライオンとはなんですか……?』



「……えっ?」



 この声は、本堂にいたときに聞こえた……でもここには水もないのに、一体どこから……?



 『ホムラさん、来てくれたのですね……』



「あ、アンタは、水神龍のオーケアニスなのか?」



 『ご明察……あちきはオーケアニス。水を司る水神龍です』



 どこからともなく聞こえてくる声は、自分の事をオーケアニスと名乗った。

やはりこの泉の底に、水神龍が住んでいるのか……?

てかなんでオレの名前知ってんの? え、こわ。



「水神龍オーケアニス。あなたに会うことは可能か?」



 『可能です……しかし、今のホムラさんではあちきのいる所までたどり着くことはできません……』



「なにか、条件があるのか? 水神龍の鍵は持っている……と思うんだが」



 てっきり、ここで鍵が発動してオーケアニスの所まで転移するみたいな展開を予想してたんだが、もう一段階イベントをこなさないといけないようだ。



 『鍵を使い、あちきの元へたどり着くための扉を開くことは可能です……しかし、そこから更に〝湖底の遺跡〟を抜けた先にあちきはいます……』



「なるほど、ってことは水中かあ……」



 おそらく、オレが手に入れた水神龍の鍵で隠しダンジョンへ行くことはできるのだろう。

しかし、そのダンジョンは水の中。

オレはそういう潜水スキルは持ってないし、水中で呼吸が出来るマーメイド族でもないと攻略することは不可能だろう。



「オレはどうしたらいい?」



 『人魚の祝福を受けるのです……』



「人魚の祝福?」



 『巫女の血……今の人…………がある……所に、代々居を……る……』



「ん? オーケアニス? オーケアニスさん?」



 …………。



「そんな、良いとこで電波不良みたいなオチ……」



 どうやら、もう一度マーメイド居住区に戻って何かをしないといけないみたいだ。



「人魚の祝福か……それに巫女の血がどうとか言ってたな」



 いやもっと分かりやすく言ってくれよオーケアニスさん。

その辺り回りくどい表現使うなって。



「えーと、じゃあ次はマーメイド族の巫女さん的なのを探すのか? 本堂の管理人さんとかに聞けば良いのかな?」



 祝福ってなんだ? 誕生日でも祝ってもらえばいいのか?

この世界でのオレの誕生日知らねえぞ。



「というかここまで来て、またあの道のりを往復するのか……」



 さすが裏ボスの隠しダンジョン、攻略に入る事すら一筋縄ではいかなそうだ。

転生スタートだったクルースニクの所が特殊だっただけなんだな。



「よし、それじゃあとりあえず……」



 疲れたしホテルに帰るか。

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