第90話 ハイドラ島ダンジョンエリア
「うわ、これはすごいジャングルだ……」
約束通りピッチさんから泉までの地図を貰ったので、ハイドラ島のマーメイド居住区を出て島の大部分を占めるジャングルのようなダンジョンエリアへと足を踏み入れる。
ハイドラ島の中は多くの川というか、水のたまった湿地のような地面がベースになっていて、周りにはマングローブ系の不思議な形の木がたくさん生えていた。
「そういえばマングローブって個別の種類の名前かと思ってたが、こういう所に生えてる木の総称なんだよな……」
この小さいのもあっちの細長いのも全部マングローブってわけだ。意外な豆知識。
「それにしてもぬかるんでて歩きにくいな……木から木に飛び移って進んでいった方がいいかもしれん」
水位が低い所も地面がぐちゃぐちゃで歩きにくい。
かといって川になっているところは水中から魔物が襲ってきそうで危険だしな……
「ピッチさんと戦ったときみたいに炎で水を沸騰させて……は、さすがに環境破壊か」
魔物だからといってなんでもかんでも殺して良いわけじゃないし、普通の動物も住んでるからな。
周囲に被害がいってしまうような魔法の使い方はなるべくしたくない。
カサ、カサカサカサ……
「ん? なんの音だ?」
ジャングルの中からどこからともなく聞こえるカサカサ音。
何か昆虫のようなものが歩いているような、それにしては音がデカいような……
ジャキン! ジャキン!
「いや、こいつは……カニだな」
前方からゆっくりと近づいてきたのは、オレの腰辺りまである大きなヤシガニだった。
両腕のハサミをジャキジャキ鳴らし、まるで威嚇をしているようだった。
「あのハサミで切られたら手も足も真っ二つかもな」
巨大なヤシガニは逃げていくこともせず、確実にこちらをロックオンして威嚇を続けていた。
これはもう、戦うしかないだろう。コイツの周囲だけ熱湯にするくらいなら問題ないからな。
「それじゃあカニさん、すまんね……オレの朝食になってもらうぜ!」
―― ――
「うーん……ぼそぼそしててあんまり美味くないな」
巨大ヤシガニをボイルにして倒したので、そのまま殻を割って中身を食べてみる。
見た目は美味そうなカニだったんだがな……食感も微妙だし、味も淡泊でなんともいえない味だ。
やはり動物と違って、魔力を含む魔物は美味しくないもんなんだな。
「はあ、オレもグルメになっちまったな……」
クルースニクと別れて炎神龍の岩窟を攻略しているときは、こういうダンジョン内にいる魔物を食べて生活していた。
あそこはあまりに過酷な環境だったからなのか、普通の動物は生息してなかったな。
魔物を食って特段不味いとかも思ったことはあんまり無かったと思う。
まあクルースニクの料理の方が圧倒的に美味かったけど。
「あ、そういえばこれもあったな……」
ポケットに入れていたマーメイドのゆでタマゴ。
元々は生卵だったんだけど、気づいたら茹でられて調理が完成してしまった。
普通の鳥の卵5つ分くらいの大きさで、結構食べ応えはありそうだ。
「まあ、せっかくだしこれも食うか」
殻の質感が普通の卵と違って砕けずにズルっと剥ける感じでちょっと気持ちいい。
細長いけど中身は普通っぽいな……
「はむ、もぐもぐ……」
…………。
「いや美味いなこれ」
マーメイドのゆでたまごは、味付けしてないのに少し甘味と塩味があって美味かった。
「あーなんだろう。これもまた、師匠のタマゴ料理を思い出しちまうな……」
ドラゴン娘のタマゴ食って、人魚姫のタマゴも食って……異世界に来て何をやってるんだオレは。
「まあ、郷に入っては郷に従えっていうし。モンスター娘のタマゴ料理は異世界の常識……」
そんなわけあるか。
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