第89話 力試し



「なに? 泉への行き方が知りたい?」



「はい。ハイドラ島の地図とかないかなーって」



 水神龍の本堂で聞いた謎の声。

あれからしばらく話しかけたりしてみたけど、最後に『泉で待っている』という言葉を残して何も聞こえなくなってしまった。

これはもうハイドラ島の真ん中にある『水神龍の音泉』に行くしかないということで、タイミング良く病院の前で掃除をしていたピッチさんに泉の場所を尋ねてみることに。



「ホムラ、あんた一人でダンジョンエリアに行く気なのかい。護衛は?」



「いや、オレ一人だけど……」



「それじゃあさすがに危険だろう」



 一応、前回ピッチさんと会った時も輸送船の護衛クエストで来てたんだけどな……実際に戦ったところを見せたわけでもないし、見た目と年齢だけでいったらオレが最年少なのでクロムたちのおまけくらいに思われてるのかもしれない。



「大丈夫だ。ほらこの通り、魔力レベルも3000ある」



「……なんだいその桁違いのギルドカードは? おもちゃじゃないのかい?」



「本物だよ本物!」



中々オレの実力を信じてくれないピッチさん。

昨日の船長にワニワニ族を倒したことを話してもらえれば良かったんだけどな……



「よし分かった、そこまで言うならホムラが一人でも大丈夫なのか、実力を確かめてやろうじゃないか」



「実力を確かめる? 摸擬戦でもやるのか?」



「その通り。さあどこからでもかかってきな」



 そう言ってピッチさんは腰に装備していた小銃を取り出して戦闘の構えを取る。

あれは魔力を込めることで高威力の水流を発射できる魔道具らしい。

前回、レストランの店員にいちゃもんをつけていた客を鎮圧するのに使っていたものだ。

まあ、高圧洗浄機というか、消防士の給水ホースのような物だろう。



「かかってこいって言ってもなあ……」



 こんな街中じゃあイグニッションフレイムを使ったら火事になってしまうかもしれないし、そもそもピッチさんが危ないし、殴りかかるのもなあ……



「……あ、そうだ」



 オレは周囲にピッチさん以外の人がいないことを確認し、全身に練った魔力を纏って集中する。



「いや、全身じゃなくていいな……水に浸かっている下半身だけで十分だ」



「おーい、来ないのかい? それならこちらからいくよっ!」



 バシュッ!! と音がして、パッチさんが構える水鉄砲から物凄い量と勢いの水撃が発射される。



「おっと」



 オレはとっさに右手を前に出し、そこに魔力を込めて炎を纏う。



 シュワアアアアアアアアア……



「な、なんだっ!? アタシの水撃が霧に……!?」



 オレに当たった大量の水が蒸発して周囲に霧が発生する。

その霧の中で足元に集中させた魔力を炎に変えて、オレは水中でも構わずに炎を噴出させ続けた。



 ボコ、ボコボコボコ……!



「ホムラの周りの水から、気泡が……? そ、それにこの熱気は……」



「さあピッチさん。早くどうにかしないとこの辺りの水路が全部沸騰して茹で上がっちまうぜ」



「なっ!? そんなこと、どうやって……!?」



「さっきピッチさんの水撃を蒸発させたのと同じだよ」



 オレの身体から放出される魔力の炎は水中でも消えることなくユラユラと燃え続けていた。

これにより、周囲の温度がどんどんと上昇していき、マーメイド族であるピッチさんが水中にいられないほど熱くなっていく。



「わ、分かったホムラ! アンタを試すような真似をしたアタシが悪かった! 降参だ! だから人魚新地を熱湯にするのだけは止めてくれ!」



「オレの実力、申し分ないかな?」



「まったく、とんでもないガキだねアンタは……ダンジョンエリアの地図をくれてやるから、少しここで待ってな!」



 こうしてオレは、ピッチさんに実力を認めさせることに成功したのであった。



「……ん? あっ!」



 ポケットにマーメイドの女の子から貰ったタマゴが入ってたの忘れてた……



「ピッチさん、ゆでたまご食わない?」



「なんだいそれは」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る