第87話 ロマホ



「こ、ここですか……?」



「うむ、間違いないだろう」



 〝ロマンスホテル・キャッスルバニラ〟



 偶然出会ったピッチさんがオレの予約表を見て案内してくれた宿は、前回泊まったラブホテルに勝るとも劣らない、何とも見事な洋風のお城みたいな……ラブホだった。

いやまたラブホじゃねえか。



「いやあ、ここのホテルを予約するとはなかなかセンスがあるじゃないかホムラくん。ここは人魚新地の中でも指折りの名店だよ」



「いや知らないですよ……知り合いにオススメされた所を予約しただけなんで。知ってたらラブホなんて予約しないです」



 あの商業ギルドの女の子大好きチャラ男兄ちゃんを信じたオレが馬鹿だった……



「何を言うんだいホムラくん。ここはロマンスホテル、ロマホだよ」



「ロマホ? ラブホと何が違うんですか」



「シチュエーションから色々と楽しめるロマンス溢れる空間になっているんだ」



「…………」



 まあ、ラブホのパワーアップ版みたいなもんか。

とりあえず寝泊まり出来ればなんでもいいや。



「む? しかもホムラくん、君が予約しているのはプレミアムロマンスプランじゃないか。いやあ、今夜は寝られないね!」



「寝られないのかよ」



 そういえばそんなのを商業ギルドのチャラ男兄ちゃんにオススメされて、割引きされるならまあそれで良いかーと思ってよく調べずにオッケーした気がする。

予約自体は兄ちゃんが手配してくれたから忘れてた。



「おっと、もう昼休みが終わる時間か。それじゃアタシは診察に戻るよ。ホムラくん、ハイドラ島を楽しんで行ってくれたまえ。男になれよ」



「オレは最初から男だ」



 まあいいや、とりあえず今日は宿で休んで、明日から調査を進めよう。



 ―― ――



「……なにこの部屋」



 チェックインを済ませて部屋に入ると、白とピンクを基調としたメルヘンチックな空間が広がっていた。

なんだろう、王女様とかお姫様が暮らしてそうな可愛らしい部屋だな……なんか甘い香りも漂ってるし、ちょっと落ち着かない。

それに加えて部屋の片側は水没してて、奥には広い浴槽も設置されていた。



 コンコン。がちゃり。



「失礼しま~す」



「えっあ、はい……?」



 部屋の様子に戸惑っていると、一人のマーメイドが現れた。



「プレミアムロマンスプランのお客様~って、わあ! かわいい男の子だ」



「えっなに、誰ですか?」



 マーメイドの女の子は、フリルの多いお姫様みたいな水着を着ていた。

お姫様みたいな水着ってなんだ?



「プレミアムロマンスプランは初めてですか~?」



「あ、はい……」



「それじゃあ説明させてもらいま~す。ここは人魚のお城にあるマーメイド姫のお部屋。あ、わたしがお姫様ね。それで、君はお姫様の部屋にコッソリ忍び込んだわたしの愛人って設定で、イチャラブお泊りを楽しんでもらえま~す」



「ええ……」



 商業ギルドの兄ちゃん、いつもこんなの利用してたのかよ……さすがにちょっとこれはなあ。



「それじゃあ、どうする? まずは一緒にお風呂とか入っちゃう?」



「いや、オレはそういうのは別に……普通に寝れればいいんで」



「いきなりベッドインか~中々大胆だね君」



「ちげえよソロでだよ」



 このあと、サービスを断りたいオレと受けさせたいお姫様の間で色々と交渉が行われ、結局ベッドで添い寝するサービスだけは断ることが出来ずに一緒に寝ることになった。

まあ、これならクロムやチユと寝てるのと変わらないから別に良いか……



「すー、すー……Zzz」



 ビチ、ビチビチッ!



「…………」



 マーメイドのお姫様が寝てる時に身体をビクッとさせ、そのたびに下半身の魚部分がビチビチせいで今オレの足元めっちゃ濡れてる気がする。

ちなみに今は水の中ではなく、普通にベッドに寝ている。

乾燥に弱いマーメイド族のために加湿器のようなものでミストを出して高湿度を保っているらしい。



「まあいいや、さっさと寝て、明日は水神龍の本堂に……」



 …………。



 ………………。



 『……あら、鍵を持つ少年が島にいるようですね。それにこの少年の魔力は……クルースニク……? ふふふ、会えるのを楽しみにしておりますよ』

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