第85話 ワニワニパニック



「オマエ、イノチシラズカ?」



 いきなり現れて船に乗り込み、護衛の冒険者を食い殺した謎のワニ男。

あまりの突然な殺人ショーに船の乗客はパニックになり、船長は茫然自失。

ここはもう、オレが対応するしかなさそうだ。



「あんた、名前なんて言うの? 100日後に死ぬワニ太郎?」



「オデ、ワニタロウチガウ。ワニワニ族ノドンキー」



「そこはクルールの方であれよ……」



 ワニワニ族のドンキーか……こいつも魔王軍の一人か?



「オレはホムラ。さあ来いよドンキー、丸焼きにしてやる」



 いや、丸焼きは無理か?

今ここでイグニッションフレイムを使ったら炎が船に燃え移ってしまうな。



「仕方ない、普通に殴って倒すか」



「ホムラ、オマエコドモ」



「なんだ、さすがに子供だと良心が痛むってか?」



「ヤワラカクテ、ウマソウ。イタダキマース!!」



 うん、この倫理観の無さは魔王軍の手下に違いない。

これはもう心置きなく討伐できるな。



「ウオオオオオオオオオオ」



「よっと」



「オオ!?」



 ドンキーの突撃を飛んで躱し、そのまま彼の首元に飛び乗って肩車をしているかのような体勢になる。



「鱗が硬そうだから、殴るんじゃなくて……こう!」



 ドンキーの首を両手で挟み、そのまま手を合わせるように力を込める。



 コ〝キ〝ッ!! ホ〝キ〝ホ〝キ〝ホ〝キ〝ッ!!



「………………オ?」



 ゴボッ! ゴボボボボ……



 …………。



 彼の太い首がボキボキと砕ける音が聞こえ、そのまま首の真ん中を潰しきると、巨大なワニ男は口からゴボゴボ血を流しながら息絶えた。



「うわーめっちゃ血が……船長すいません。船汚しちゃいました」



「い、いや……そんなのは全然構わんよ……」



「……食われた人たち、生きてますかね?」



 ―― ――



「やっぱ駄目でしたね」



「丸飲みなら生きてる可能性もあったかもしれんがな……」



「普通に咀嚼されてたからなあ」



 食われた冒険者二人が生きている可能性に賭け、急いでドンキーの死体を解体する。

しかし、開いた腹の中から出てきたのは噛みちぎられて無惨な姿になった元人間の肉塊だった。



「ね、ねえ……どうなってるの……?」



「護衛の人は……」



「アンタらは見ない方が良いぜ。悪いことは言わねえ、大人しく席に座ってな」



 ワニワニ族の襲撃から少し落ち着いた乗客たちが、船の端で解剖調査をするオレたちの状況を確認しようと近づいてきたところを船長が制止する。

普通の人がこんなの見ちゃったらトラウマ過ぎてしばらく肉が食えなくなるだろうな。

魔物をそれなりに殺してきたオレでも人間の死体は正直キツい。



「船長さん、今回みたいな襲撃は結構あるのか?」



「魔物の襲撃なら日常茶飯事だが、ワニワニ族みたいな魔王軍の輩が来たのは初めてだな……ボウズがいてくれて助かったよ。見たことないが、旅の勇者か?」



「旅をしてはいるが、勇者ではなくてただのDランク冒険者だ」



「Dランク? がっはっは! 冗談にもほどがあるぜいボウズ。護衛に雇ってた『スワンダーズブラザーズ』は兄がBランク、弟がCランクだったんだ。それを楽々と食っちまった相手を倒したんだぜ、さすがにAランクはあるだろ」



 オレは船長にギルドカードを見せる。

魔力レベルのところは見せるとややこしくなりそうなので指で隠しておく。



「これが証拠だ」



「……マジでDランクじゃねえか。どういうことだおい」



「駆け出し冒険者のホムラだ。ここから先の護衛の代わりはオレがやるから、ハイドラ島までよろしくな、船長」

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