第83話 水着の二人



 ギルド会館へ行って船の予約とついでにクエスト依頼を受けてきたオレは、明日からのハイドラ島調査の為の準備をするためにシグレの街を歩いていた。



「ハイドラ島に行くなら、オレも水着買っとこうかな」



 シグレの湖畔でやるビーチバレー大会にウシロとペアを組んで出るクロムが水着を買うということで、チユも連れて朝から3人で出かけて行ったのを思い出し、オレも浸水がデフォルトのマーメイド居住区に行くなら必要かもなあと思った。



「水着買って、少し湖で泳ぎを練習しとくかな……ん?」



「ねえねえ君たち、水着めっちゃ似合ってんねえ~。もしかしてナンパ待ち?」



「めっちゃ可愛いじゃ~ん。これから俺らとお茶しない?」



「待ってないしお茶もしないにゃ」



「あっち行って! しっしっ」



 市場の先にあるお店の前で、チャラ男にナンパされてる女の子二人組を発見。

というかクロムとウシロだった。



「そんなつれないこと言わないでさ~。ほら、シグレにいるなら俺らのこと知ってるっしょ? 冒険者クランの『ハイドラの風』だぜ」



「知らないにゃ」



「この街にそんなクランいたっけ?」



「おいおいおい、ウソだろ~? まあいいや。じゃあ色々教えてあげるから一緒に行こうよ~」



「行かないにゃ」



 どうやらあの男二人組は『ハイドラの風』という冒険者クランを組んでいるらしい。

なんか湘南乃風みたいな雰囲気するな。地元最高マジ卍みたいな。



「まあまあまあ、てか君かわいい尻尾してんじゃ~ん」



「触んにゃいで!」



 尻尾を触られて怒ったクロムがバシッ! と男の手を振り払う。



「って~……おい、おまえネコネコ族だからって調子乗ってんじゃねえぞ」



「俺らマジで怒らせたらやばいから。ほらこっち来いや」



 クロムの腕を無理やり掴もうと手を伸ばす湘南乃風……じゃなかった、ハイドラの風のチャラ男。

オレはそこに素早く割って入り、クロムの代わりに腕を掴まれる。



「お、なに? お兄さんたちオレにメシ奢ってくれんの?」



「なんだこのガキ」



「あのねえ、俺らは今大人の取引をしてんの。ガキは引っ込んでな」



 クロムとウシロに目で合図して少し距離を取らせる。

周りを見ると軽く野次馬が出来ていた。

冒険者クランなら周りの目をもうちょっと気にした方が良いと思うけどなあ。



「女の人たち、嫌がってたじゃん。見て分かんなかったの?」



「はあ……ガキには分かんねえよなあ~。あのね、アレは嫌だって言ってるけど内心は誘われ待ちなの」



「そうなん?」



「そんなわけないにゃ。普通にキモいにゃ」



「普通に嫌だしキモかったけど」



 クロムとウシロははっきりと拒絶した。



「お兄さんたち、キモいってさ」



「は? おいガキ、あんま調子乗ってるとぶっ飛ばすよ?」



「やれるもんならやってみ」



「このクソガキィ……っ!」



 しびれを切らしたナンパ男の一人がオレに向かって殴りかかってきたので、身体の周りに魔力を巡らせて相手の拳をそのままくらう。



 ガンッ!!



「いってえ……!?」



「あれ~? なんで殴った方がダメージ受けてんの?」



 どうやらこのナンパ男たちよりもオレの防御の方が堅かったようだ。

魔力の防壁を突破できずにナンパ男はただ拳を痛めただけで終わった。



「こ、こいつ……!!」



「それじゃあ、次はオレのターンな」



 バキッ!!!!



「ホ〝ウ〝ェ〝ッッッッッ!?」



 オレに殴られたナンパ男は、背後にあったカフェの屋根を飛び越えてハイドラ湖まで飛んでいった。



「……え?」



「やべ、ちょっと飛ばしすぎちゃったかも……お兄さん、あの人湖に落ちて溺れてるかもしれないから助けに行った方がいいよ」



「あ、ああ……?」



「いそいでねー」



 もう一人のナンパ男はオレに言われるがまま湖に向かって走り去っていった。



「ふう……二人とも、大丈夫だった?」



「ホ、ホムラ~!」



「ホムラく~んっ!」



「うわっ!」



 なんだかんだでナンパ男に詰められて恐怖を感じていたのか、感極まって抱き着いてくるクロムとウシロ。

いや、2人とも今は水着なので抱き着かれるとちょっと困る……



「……あ、ホムラだ」



「チユか。どこ行ってたんだ?」



「……水着に着替えてた」



 隣の服屋さんから出てきた水着姿のチユが二人に抱き着かれるオレの姿を見つけて駆け寄って来る。

真っ白なワンピースタイプの水着が眩しいな。



「チユ、水着似合ってるじゃん」



「……ありがと」



「ホムラ、クロの水着は!? クロの水着は似合ってるかにゃ!?」



 抱き着かれてて何も見えないよ。

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