第82話 ついでの人探し
「そういえばホムラくん、ハイドラ島に行くならひとつお願いしたいクエストがあるんだけどどうかな?」
「お願いしたいクエストですか?」
水神龍の調査をするためにハイドラ島へ向かう船の予約を取ったオレは、冒険者ギルドのお姉さんからついでの依頼を頼まれる。
「ちょっと人探しをお願いしたくてね~。クエスト期限は設定しないし、ホムラくんが島から帰ってきた時に見つかったか見つからなかったかだけ教えてくれれば良いからさ」
「まあ、それくらいなら大丈夫ですけど……」
「助かる~! さっすが魔力レベル3002」
「それ、あんまり広めないで下さいよ」
この冒険者ギルドのお姉さん、オレのギルドランク更新の時にステータス鑑定を担当してくれたんだけど、その時に魔力レベルがおかしいくらいに高いのを見て『なんか実力を隠して低ランクの振りをしている謎の少年』みたいな設定を勝手に考えてすごいネタにしてくる。
いや別に実力隠してはいないんだけどね。ドラゴンに修行つけてもらったとか言っても信じてもらえないだろうし。
「それじゃあこれがクエスト依頼書ね」
「どうも」
お姉さんから貰ったクエスト依頼書……というか捜索願の紙には、無精ひげを伸ばした若干ワイルドな男の人の顔写真が添付されていた。
「対象者名、ドンファン……勇者ギルド所属……勇者なんだ」
「ドンファンさんはシグレの街に常駐してくれている方で、クランには所属していないソロ勇者なんだ。実は数週間前にハイドラ島の魔物調査に行ってから、まだ帰ってきていなくてねー……」
「それってもしかして、魔物に襲われて……」
「ハイドラ島はランクとしては初級ダンジョンの扱いだから、勇者のドンファンさんがやられるとは考えにくいんだけどねー。もしマーメイド居住区とかでそれっぽい人見かけたら教えてくれない?」
「わかりました」
勇者ギルドに所属しているということは、最低でも冒険者ギルドランクA相当の実力者。
クランに所属していないソロ勇者だとしても、その辺の魔物にやられるような人ではないってことか。
「あ、でも人魚新地の中まで詳しく調べなくて大丈夫だからね」
「そうですか? なんかそういう所にいそうっちゃいそうですけど」
「子供には刺激が強すぎるような所にいたら大変でしょ~? 今回のハイドラ島行きはピーターさんも一緒じゃないんだし」
「あー……まあ、それはそうかも」
今のオレは13才の何も知らない純朴な少年……という設定になっているから、人魚新地みたいな歓楽街を一人でうろついていたら危ないかもしれない。
「そういえばホムラくん、この前マーメイドちゃんから貰ったジョウジータンは食べたの?」
「いや、ちょっとまだ怖すぎて食べれてないですね……って、なんでそれ知ってんですか」
「ふっふっふ、前にジョウジータンの事を聞いてきた時に色々と調べさせてもらったのさ。冒険者ギルドの情報網を甘く見ないでもらえるかな~? まあ商業ギルドの受付の子が言いふらしてたの聞いたんだけどね」
「さ、最悪だ……」
そうか、だからギルド会館来たときに一部の男性から羨まけしからんみたいな視線向けられてたのか……
「というか、あれどうやって食べればいいんですか。タマゴのおしっこ煮ですよ。一回水で煮直すんですか?」
「そんなことしたら薄まっちゃうじゃん。そのままガブリだよ、薬膳料理みたいなものだから」
「なにが薬膳なんですか」
とりあえずジョウジータンは作ってから半年近くもつらしいので、鞄の奥に封印しておくことにした。
旅の途中でどうしても食べるものが無くなってしまったらお世話になろうと思う。
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