第79話 妖しいお土産



「それじゃああんた達、気を付けて帰るんだよ」



 ハイドラ島で一泊したオレたちは翌朝、ピッチさんたちに見送られながら船でシグレの街へ帰ることに。

ちなみに昨晩泊まった水族館みたいなラブホの部屋は、水槽の魚が気になってしまって結局あまりよく眠れなかった……クロムが。



「社長、次は遊びに来てくださいね~」



「は、ははは……オイラは仕事でしか島に来ないから。あと社長じゃなくて船長だよ」



 ピーター船長、これは遊びに行っちゃってるな……家族に内緒で。



「嵐去り 青天広がる ハイドラ湖にゃ」



「……字余り」



「クロム、その手に持ってる竹筒はなんだ?」



「お土産屋さんで買ったお魚の笹漬けにゃ」



 クロムはちゃっかりお土産を買っていた。

一応冒険者ギルドからのクエスト依頼中なんだけどね。



「ホムラくん、これ。お土産にどうぞっ」



「あ、ありがとうございます……」



 昨日食事をしたレストランの女の子から布袋を受け取る。

中身を確認すると、大きな縦長の煮卵らしきものが入った透明なビンだった。

……これ、絶対普通の鳥の卵じゃないよなあ。



「それ、ワタシので作ったジョウジータンだから。大切に食べてね」



「ジョウジータン? なんですかそれ」



「ひ・み・つ」



「…………」



 なんか怖いなあ……そもそも『ワタシので作った』の時点でもう怖い。



「おーい、出航するぞー」



「はーい」



 こうしてオレは、謎の怪しいお土産を手にハイドラ島を後にした。



 ―― ――



「シグレに到着にゃ!」



「帰りは平和なもんだったな」



 朝一でハイドラ島を出発し、昼過ぎにシグレの街へ無事到着。

今回は魔物に襲われることもほとんどなく、とても穏やかな船旅となった。



「理由は不明だが、シグレからハイドラ島に向かう時の方が魔物に襲われる件数が多いんだ。ハイドラ島に棲んでいるマーメイド族は魔物に襲われることは少ないから、それがなにか影響しているとも言われてるが……」



「ふーん」



 昔からハイドラ島の魔物と共生してきたマーメイド族だ。

もしかしたらなにか襲われないようなフェロモン的なのを発しているのかもしれない。



「それじゃあ冒険者ギルドでクエスト完了の手続きを済ませてこよう」



「あれっ? シュータたちじゃーん! うぇいうぇいうぇ~い!」



「…………」



 ピーター船長と一緒にシグレのギルド会館へ向かい、冒険者ギルドのブースへ……行こうとしたところで、商業ギルドのチャラいお兄さんに絡まれる。



「ハイドラ島行ってきたんだって? マーメイドちゃんたち可愛かったっしょ。い~な~俺も行きたいぜ人魚新地~」



「いやまあ、クエストで行っただけなんで」



「あれ、シュータくんその手に持ってるのなに? なんか美味しそうな……!?」



「ど、どうしたんですか?」



 オレがレストランの店員さんから貰ったお土産の煮卵を見てめちゃめちゃビックリする商業ギルドのお兄さん。



「こ、これ……もしかして人魚新地にあるタマゴ料理屋のジョウジータンじゃない? どうやって手に入れたのさシュータくん!」



「えっいや、なんかお土産に持たされて」



「入手難易度Sランクだよこれは! 商業ギルドで1個10万エルで買い取るけど売ってみない?」



「ええ……」



 商業ギルドで取引されるレベルのお土産ってなんなんだ……?

さすがに善意でもらったものを横流しするのは気が引けるので、お兄さんからの買取りの打診は断ったけど謎過ぎて怖くなってきた。



「あっお疲れ様~。依頼報告はピーターさんから受けてるよ。無事達成したみたいだし、ホムラくんとクロムちゃんのギルドランクをDランクに昇格させる手続きをしないとね」



 冒険者ギルドのブースに行って受付のお姉さんに報告を済ませる。

そういえば今回のクエストはオレとクロムの昇格試験も兼ねてたんだったな、すっかり忘れてた。



「あのー、冒険者ギルドと関係ない話であれなんですけど……」



「ん、なにかな?」



「ジョウジータンって料理、知ってます?」



「おわあ、またマニアックな事を聞いてくるね君は。ジョウジータンはマーメイド族のタマゴを使った伝統料理で、基本的にはタマゴを産んだマーメイドの尿を使って煮付けたものだよ」



「はあ、マーメイドのタマゴを、尿で……」



 …………。



 確か、中国の郷土料理でそんなのがあった気がするなあ……



「ホムラ、そのお土産……どうするにゃ?」



「……おしっこたまご」



「ど、どうしよう……」



 やっぱ商業ギルドで買い取ってもらおうかな……

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