第78話 ラブリィホテル・ぴちぴちピーチ
「そういえば、ピッチさんがオレたちの泊るホテルを用意してくれたと聞きました。ありがとうございます」
元々は日帰りでシグレからハイドラ島にやってきたのだが、天候の関係で急遽一泊することになってしまい、通常の宿屋が空いてないということで、ピッチさんの紹介で特別に宿泊できる部屋をひとつ用意してもらえたのだ。
偶然にも再会することが出来たので、みんなでお礼を伝えておく。
「困った時はお互い様だからね。知り合いが運営する店で防音はちゃんとしてあるから、周りの声を気にせずゆっくり休むと良い」
「お気遣い痛み入るにゃ」
クロムのやつ、謎に渋い表現使うな……元野良猫なのに。
「……感謝、感激。雨粗目」
「あられな」
「おっと、そんなことを言っていたら本当に雨が降ってきたね。さあ、君たちも早くホテルに向かうといい」
「はい。それじゃあ失礼します」
オレ達はピッチさんと別れ、オーケアニス様の祠を後にした。
―― ――
「……で、ここが今日泊まるホテル?」
「なんか、ピンクにゃ……!」
〝ラブリィホテル・ぴちぴちピーチ〟
いやこれ絶対ラブホだろ。
なんか自由の女神みたいな謎の石像が屋根にいるし。
「ホムラ、あの隣にある『無料案内所』ってなにを案内してくれるんだにゃ?」
「いや、オレもよく分からないけど……マーメイド居住区のオススメ観光スポットとか紹介してくれるんじゃない?」
「……写真がいっぱい、貼ってある」
「見ちゃいけません」
無料案内所に興味津々なチユを連れ戻してとりあえず『ラブリィホテル・ぴちぴちピーチ』の中へ。
手元しか見えない受付の人にピッチさんからの紹介状を渡してみる。
「あっ団長のお知り合いの方ですねー。お話し伺っております。こちらの部屋をお使いくださーい」
「ど、どうも……」
「デリバリーサービス、お安くしておくので是非お試しくださーい。良い子いますよー」
「試しません」
全くもってなんの話か分からなかったので、オレは受付から鍵だけ受け取って部屋に行くことにした。
「……ホムラ、デリバリーって、なに?」
「さあなあ……ピザの配達とかじゃない?」
「配達に来たお姉さんを食べに〝ゃっ!?」
「おいやめろ」
クロムの尻尾を引っ張ってなんとか黙らせることに成功した。
チユには純粋なままでいて欲しいんだオレは……
「ほら、部屋に着いたぞ。今日はもうさっさと寝よ……う……」
「これは……すごいにゃ……」
「……おっきい、貝」
受付で貰った鍵を使って用意された部屋に入ると、そこにはまるで水の中のような世界が広がっていた。
人魚姫の童話に出てくるような巨大な貝の形をしたベッドが真ん中に置かれ、奥の壁は色とりどりの魚が泳ぐ巨大な水槽に。
なんだよ、ラブホテルとか言って悪かったぜ……ラブリィホテル・ぴちぴちピーチ、めちゃめちゃすごいホテルかもしれない。
「ホムラこのベッドすごいにゃ! ボタン押すと回転するにゃ!」
「……このイボイボのやつ、なに? 野菜?」
「…………」
全然ラブホだわここ。
いや行ったことないから知らんけど。
「ホムラホムラ、ポーションの自販機があるにゃ」
「ポーションの自販機? なんでそんなもんが……」
「滋養強壮ポーション、夜の帝王……ホムラ、これ飲んでみて欲しいにゃ」
「絶対嫌だよ。なんだよこれ」
「……ホムラ、お風呂にあったイス、真ん中が凹んでる」
「戻してきなさい」
オレは部屋の設備に興味津々な二人を押さえつつ、なんとも言えない気持ちでホテルでの一夜を過ごした。
ちゃんと男女で分かれて風呂に入り、ベッドは一つしかなかったので、みんなでくそでかい貝のベッドに横になり、特におたのしみな展開も無くぐっすりと眠りについた。
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