第76話 内緒のタマゴ料理
「うお、なんだこれ……めちゃめちゃ美味いな」
「ありがとうございますっ! そのオムライス、今朝産みたての新鮮なタマゴを使ってるんですよ~」
「そ、そうですか」
無事に荷物を届けることに成功したオレたちは、クソ客に絡まれていたレストランに寄って少し遅めの昼食をいただいていた。
助けてくれたお礼ということで、お店の方から是非食べていってくださいと誘われてご馳走してもらえることになったのだ。
「な、なあピーター船長。このオムライスに使ってるタマゴってのは普通の鳥の卵だよな?」
「当たり前だろ。このマーメイド居住区で飼育してるアヒルの卵だな」
「なるほど、だから味がちょっと違うのか……」
……ん? でもオレのオムライス、クロムとチユも同じの食べてるはずなのになんかオレのだけオムレツの色がちょっと違うような……
使ったタマゴの個体差ってやつだろうか。
「まあ、美味いから別にいいか」
「……君のオムライスに使ったの、ワタシのだからねっ」
「…………」
店員の女の子は、耳元でとんでもないことを囁いて『内緒だよっ』っと言って厨房に戻っていった。
「もぐもぐ……ん? ホムラどうしたにゃ?」
「……オムライス、きらい?」
「いや、オムライスは好きだよ。うん……味はたしかに、普通のよりクリーミーで美味いかも」
なんだろう、師匠の作ってくれたタマゴ料理思い出してちょっと泣きそう。
―― ――
「ふう、食った食った」
「シュリンプアンドチップス、美味しかったにゃ~」
「……ちーはね、ピータンが美味しかった」
「オレはあれ苦手かも……」
店員さんが色々出してくれた料理の中にあったピータンとかいうタマゴ料理。
アヒルのタマゴを長期熟成したものらしいが、一口食ったら口の中にものすごい刺激臭が広がって吐きかけてしまうレベルだった。
あれに近いな、理科の実験でアンモニア水の匂いを思いっきり嗅いだ感じ……
「さてと、荷物も届けて飯も食ったし、そろそろシグレに戻ろう……と、言いたいところなんだが」
「なにかあるのか?」
「実はな、あと数時間したら空が荒れるって連絡もらってよ。今日はもう船を出すのが危険なんで、明日の朝までこの島で待機ってことになったんだ」
天気が悪くなって走行中に船が難破したら大変だしな。
島の周りだと危険な魔物もいるし、一泊して明日出発した方が安全だろう。
「それじゃあこの島にお泊りにゃ?」
「ああ、そうなるな……と、言いたいところなんだが」
「まだなにかあるのか」
「いや、島に一泊するのは変わんねえんだけどよ……オイラが島に泊まるときに使ってる宿が雑魚寝の大部屋しか空いてなくてな。オイラやホムラは良いかもしんねえが、そっちの嬢ちゃんたちは嫌だろう?」
そう言ってピーター船長は申し訳なさそうに頭を掻いた。
「ホムラと一緒に寝るから大丈夫にゃ」
「……ちーも」
「いや大丈夫じゃないだろ」
「まあまあ。というわけでピッチに相談したらな、『知り合いのホテルに空いてる部屋があるから3人はそこで寝な』ってことで、一部屋使わせてもらえることになったぜ」
「おお、それはありがたい……って、オレもそっちなのかよ」
まあでも、雑魚寝部屋よりはこいつらと一緒のほうが安心して寝れるか……いや、安心ではないかもしれんが。
「というわけで、これがそのホテルまでの地図とピッチの紹介状。こっちがホムラたちの分の移動用ボートだ。明日の朝になったら船の前で落ち合おう。それまで自由行動ってことで」
「ああ、わかった」
そう言ってピーター船長はマーメイド居住区の観光エリアに向かってボートを漕ぎだした。
「それじゃあオレたちも早速ホテルに……」
「ホムラ、ちょっと待つにゃ」
「ん、どうしたクロム?」
人魚新地の奥にある建物を眺めながらこちらを呼び止めるクロム。
オレにはよく分からんが、視力の良いネコネコ族のクロムは何かを発見したようだった。
「あのおっきな建物、シグレの街にあった祠の龍みたいな紋章が付いてるにゃ。ウシロが言ってた〝水神龍様の本堂〟かもしれないにゃ!」
「なんだって?」
「……水神龍、オーケアニス様」
「ホムラ、これはもう……」
「行くっきゃねえな!」
というわけで、ホテルに行く前に道草決定。
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